佰参
「あ、お姉さま!」
しばらく大広間の壁にもたれかかり、聡とボーッとしていると、ドレスを着た少女が駆けてきた。
黒と白の使用人服の出入りの多いこの大広間では、少女のピンク色のドレスはよく映える。ただそのドレスは、先ほど見たものよりも、一層豪華な装飾が施されているように見えた。
胸には私のあげたネックレスが輝き、今宵の主役を引き立たせている。
ただーー
「巴ちゃん! あぁ、可愛いね」
「まぁ、お姉さまったらお上手ですの。北条のクソ野郎にお会いしませんでした? あいつ、きっとお姉さまを狙うと思うのです...」
「あぁ、北条なら追っ払ったぞ」
「あら、愚兄が?」
「お前さ、好い加減その愚兄って止めろよ」
その口調と容姿に似合わない、(嫌いな)人に対しての口の悪さが目立つ。
北条のクソ野郎って...まぁ、そこは聡と似てるよね。聡も口悪いし。毒舌だし。
まぁ、そこも可愛いけど!
「そろそろお客さまがお見えになられると思いますわ」
「巴ちゃんのお友達とかも来るの?」
「えぇ。玲海堂の中等の友人が。お姉さまにもご紹介いたしますわ」
「いや...大丈夫だよ」
コミュ症ではないが、あまり人とわいわい騒いだり、群れたりするのは好きではない。
それに、今日は誕生日パーティだってのに、わざわざ部外者の私に紹介するなんて時間の無駄だよ。私は聡とそこら辺で駄弁ってるからさ。
「そういえば、ランスはいつ来るんだろう?」
「まぁ、ランスフォードさまもいらっしゃるのですか?」
「そうみたい」
イケメン好きの巴ちゃん。目を輝かせております。
黒川さんはいつ来るかな?
...永遠に来ないでもらって構わないんですけどね。北条さん、もといマッツーと鉢合わせして欲しくないからな。
一応、後で猿渡さんに言っておくかな。
「早く、黒川さまにお会いしたいですわ...! お写真なら見た事があるのですけれど、とても整った、素敵なお顔立ちをされていました!」
きゃー、と恥ずかしそうに両手に顔を埋め、興奮を身体中から放出している。
巴ちゃん、騙されちゃいけない。
イケメンには碌な奴がいないんだ。黒川さんはその筆頭なんだよ! 悪魔なんだよ! 変態なんだよ!
...という私の心の内も知らず、巴ちゃんはイケメンの何たるかを語り始める。
貴女のお隣にも大層なハンサム君がおりますが、そっちは良いんですか?
「愚兄ですか? これは兄ですし。イケメンは尊敬いたしますが、愚兄は愚兄ですわ。見るもおぞましい」
「聡可哀想に。おぞましい」
「俺、結構ガラスオブハートなんだけど」
喧嘩する程、仲が良い...という事にしておこう。
*
「やっほー、サリンちゃん、巴ちゃん! こんにちは」
「まぁ、ランスフォードさま!」
金髪蒼眼のイケメン。
理想の王子様の容姿No.1である。
ランスフォードという少年は、運の良い事に、生まれながらにしてその容姿に恵まれていた。そして今、無自覚ながらも一人の可愛らしい少女を誑かしている。
「巴ちゃん、相変わらず面食いだね」
「女はほとんどそうだろ。あ、お前は勿論除外な?」
「当たり前じゃない」
イケメンにデレろだって? 私に死ねと申すか。
もうね、トラウマなんだよ。主に黒川さんが。
前にも言ったが、あいつ等は容姿に恵まれている分、色々欠けている。完璧な人間なんていないという事だ。
こう...端から見てみれば、ランスと巴ちゃんはお似合いである。
そのまま結婚してくれて構わない。
「サリンちゃん、ロリコンに出くわさなかった?」
あれ、ランスもマッツーの事、知ってるんだ。
「そりゃあね。会って早々、巴ちゃんを巡ってのライバル認定されたから。嫌でも覚えちゃうよ、あのロリコン」
「私、ランスフォードさまの方が良いですわ」
「ありがと」
そういや、ランスも口が悪かったな。
...何だよ。ここら辺には口の悪い奴しかいないのか?! 皆毒舌で腹黒いのか?!
...私も、口悪いな。
「サリンちゃん、あのロリコン野郎に変な事言われなかった?」
「大丈夫。色々誤魔化して追っ払ったから」
「良かった。サリンちゃんは可愛いから、油断しちゃダメだよ」
笑顔でそういう事をアッサリ言えるから、ランスは聡と違ってモテるんだろうな。
とは言え、全員にそんなイケメン台詞を言っているわけではないと思うけど。
聡も容姿は良い。
だが、少しキツい言葉と雰囲気が、あまり女子を近寄らせないのだ。
対してランスは、誰に対しても朗らかで、優しい。親友よりもモテるのは必然的だ。
「そうだな。でも、お前には俺もいるし、おっかない兄さんもいるから、大丈夫だろ」
全くもってその通りです。