友の笑顔
高杉視点です!
ある日俺は攘夷浪士の間で沖田総司の出没率が多いと噂の甘味処に稔麿に連れられてこられた。正直島原に行きたかったのに嫌だと言ったら刀を向けられたので了承せざるをえなかった。
店に入った途端、俺の目には一人の少女が目に入った。いや、正確にはその少女しか入らなかった。
「お、彼処に可愛い子がいるぞ!!」
(島原にいるのより上玉じゃねえか)
彼女は艶やかな黒髪に黒目をした青色の着物を着た美少女だった。
『確かに可愛いがそういう人間に限って性格悪い』なんて稔麿はいつも言うけれど
「梅太郎、ここは遊郭じゃないし女口説きに来たわけじゃないんだけど」
稔麿が黒い笑みで牽制してきたので俺はおとなしくあいつに続いて席に座る。
「ご注文は?」
「団子を一つちょうだい」
「俺は餡蜜とき…………」
餡蜜と君をとか言おうとしたら稔麿に口を塞がれた。
「それでお願いします」
「了解!」
彼女は元気に返事をし駆けていく。
どうやら気取ったりする高飛車な女ではないらしい。
しばらくすると彼女が戻ってきた。
「お待たせしました」
そういって彼女はテーブルの上に団子と餡蜜を並べた。
「ありがとう」
「いやいや、ごゆっくりどうぞ!」
そういうと彼女は別の客の方へとかけていった。いつもは媚びたりする奴が多いのでこう言った反応は新鮮だ。稔麿は物珍しそうに観察している。俺も稔麿につづいて観察……しようとすると稔麿からいじられる。それにしても本当に可愛い。
「やっぱり俺口説いて…………」
「馬鹿牛?」
「…………はい、大人しく奴が来るのを待ちましょう」
逆らえば殺される。
~~~~~~~~~
彼女の呼び名は雪でどうやら彼女は周りの人間からの人望が厚く、好かれているようだ。性格は他の女と女らしさはないが違って面白い。
それにしても沖田総司はまだ来ないのか。
「なあ稔麿、本当にあいつは来………ひぃっ!」
「マシュマロ!?」
どうやら看板娘に聞こえたらしい。マシュマロとはなんだろう?
「マシュマロ………」
何故か涎を垂らしている。
「ねえ、馬鹿牛。俺ここに来る前に言ったよね?人が多い場所では俺の名前呼ぶなって」
稔麿が笑顔で脅してくる。
「すみませんでした、栄太郎様。いや、でも刀を抜くのは良くねえぞ!!」
素直に謝ったが文句を言ったのは最後の抵抗だ。
「見えないからいいんだよ、それともしかして馬鹿牛の分際で俺に指図するつもりかな?」
「いいえ、滅相もございません」
どうやら抵抗は無駄に終わったようだ。
「おい、お前が雪か」
「雪さ~ん、変なのがついてきちゃいました……」
(来た)
ふと稔麿を見ると顔が笑っている。いや、明るくとか優しくとかそんな綺麗なものじゃなくてにたぁっと。それを見て自分の顔の血の気が引いていくのがわかった。
この声の主は沖田総司と土方歳三だろう。どうやら看板娘に会いに来たようだ。
「………………!!」
稔麿の背後を見るとそこには沖田総司、土方歳三だけではなく斎藤一、藤堂平助、それと見たことがないやつと子供が二人いた。
彼等は顔がいい類いの人間だが看板娘はポカンと呆けたような顔をした後に彼等を席に案内し、相手の正面に座る。そんな反応を見てやはり面白いと思った。
「単刀直入に聞く、お前は長州の人間か?」
「「「「「「!!」」」」」」
どうやら彼女は俺達側の人間だと疑われているようだ。むしろこっち側の人間であってほしい。
「私が……チャーシューのにんげ…………!?」
「ブッーーーーーーー」
チャーシューってなんだ。しかし俺が驚いたのはーーーーー
(稔麿が、笑っているーーーー?)
「姉さん、長州だよ長州。長門の隣の…………」
「………………」
どうやら彼女は無知らしい。ただの馬鹿だ。
そしてその後彼女は壬生浪の奴等に変な名前をつけていた。
「ひっ……はは……!!」
俺も笑った、普段はここまで笑うことはない。
(稔麿の笑顔を見たのはいつぶりだろうか?)
「帰るよ、梅太郎」
そういうと稔麿は机の上に代金をあげ席を立つ。
「栄太郎!?」
今日は珍しいものを見た。先生を失ってから何年も見ることがなかった友の笑顔。俺自身興味もあるが稔麿も目をつけたのだろう。きっとまたここに来ることになる。
もしかしたら彼女なら稔麿の闇を晴らせるのかもしれない。