第19話 通常日課初日(1)
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「パッパパッパパッパパパッパパッパパッパパァー、パパパッパパッパパッパパパパッパパァーン」
朝5時半、早朝の澄んだ空気を引き裂くかのように、静寂を破り起床ラッパの音が構内全域に響き渡る。シーナたちにとって初めての通常日課の始まりだ。
シーナたちはまるで機械のような俊敏さでバサッと起き上がり、まずは部屋のカーテンを開いて窓を開ける。冷たくて気持ちの良い風が、室内にビュウと流れ込む。
「うぅ……寒い……まだ眠いんだけど……」
ラッパの音もお構いなしに寝続けていた千紘も、冷たい風を肌に感じ渋々起き上がる。
窓を開け終わると、忙しなく軍服に袖を通し、「行くよっ!」というシーナの声に皆が続き、一目散に部屋を出て校庭へと向かう。たった30秒ほどで、全ての学生が整列を終えた。
これだけの軍服を着た学生が一堂に校庭に集まると、まるで観兵式の様である。
点呼を済ませた学生たちは、定例の朝の体操を始める。シーナたちにとっては初めての体操だ。朝早くに半ば強制的に起こされ、ぼうっとしていた頭も、軽い運動によって少しずつ冴えてゆく。
「ふあぁぁ〜」
連日の入科試験対策の為の徹夜が続き、久しぶりに健康的な睡眠をとれたシーナは思わずあくびをする。睡眠の必要性・重要性を実感していた。
やっぱり、早起きをすると気持ちが良いな!頭も何だかさっぱりしているよ!今なら何でも出来そうな気分……!
体操が終わると、シーナたちは部屋に戻り、部屋の掃除、洗面を済ます。テキパキと済ましたおかげで、30分の休憩時間ができた。
最初はやる気に満ち溢れていたシーナであったが、早朝から掃除やら何やらと忙しく動いていたためか、だんだんと元気が無くなり、しまいには机にもたれ掛かってうつ伏せていた。
「ふぅー、朝から結構ハードだねー。5時台に起きたのなんて、何年かぶりだよ。」
他のメンバーも、少し疲れた表情だ。
「そうですわねぇ。私もこんなに朝早くに起きて体操やら掃除やらをしたのは初めてですわ。体には良いのかもしれませんけれど、少し疲れますわ。」
千早やヒナたちも、うんうんと頷く。
暫くして、6時半の朝食の時間となり食堂へと向かう。食堂へと続く通路で出会った他の小隊の人達もまた、眠そうな表情だった。
食事をそれぞれ取り分けて、席につく。全体で合掌し食事が始まった。20分の時間制限があるためおちおちとしてはいれない。
「ズズズ……」
一口目の温かい味噌汁が、身体の奥底に染み渡る。体の疲れもなんだか和らいでいくようで、シーナはホッと一息ついた。
千紘は箸を握りしめたまま、目を閉じてフラフラと左右に揺らいでいた。昨日あれだけはしゃいでいたのだから、疲れているんだろう。それを見た友穂は、千紘をユサユサ起こそうとする。
「ちょっと、千紘!もう朝ごはん始まってるよ!20分しか無いんだから、早く食べないとっ!」
しかし千紘の朦朧としたその表情には変わりはなく、
「あ……うん、そうだね……。ポアソン分布の平均はλだから、あれがこうなって……」
「千紘‼︎しっかりしてっ‼︎」
結局千紘は終始こんな状態で、この朝食を食べ損ねてしまった。
……………
……………
「ダンッ‼︎‼︎」
8時半の授業開始まで自習をしていたシーナたちの部屋に、突如耳を突くような音が響き渡る。
「朝ごはん食べ損ねたーーー‼︎」
部屋に帰って暫くして、千紘はようやく正気を取り戻し、事態を把握していた。
両手を思いっきり机に叩きつけ、雄叫びをあげる。
「これじゃあ、お昼まで絶対もたないよね⁈倒れるよね‼︎」
両手を上下に大きく動かしながら、千紘は懸命に訴えている。
「いやいや、私たち一生懸命千紘を起こそうとしたんだよ?でも、全然目を覚まさないから……」
「もうちょっと頑張ってよ‼︎私を目覚めさせるのは至難の技だって事を、友穂は知ってるでしょ‼︎」
あまりにも千紘が文句を言うので、友穂は持っていた乾パン数枚を千紘に差し出し、
「まあまあ、これでも食べてとりあえず落ちつこうよ!」
となだめようとするが、
「無理無理!私は乾パンだけで満足するようなお淑やかな胃袋をしてないよ‼︎」
と一向に落ちつく様子はない。
それを聞いた友穂は、差し出した乾パンをスッと引っ込めて、
「えぇ〜、要らないんだぁ〜。勿体な〜い」
と不敵な笑みを浮かべる。
流石に貴重な食料である乾パンさえも手放してしまうことを恐れたのか、急に千紘は静かになって、
「いえ……ください……お願いします……ただをこねて申し訳ありませんでした……」
と大人しくそれを受け入れた。
その計画的で隙の無い友穂の対応は、美しささえも感じられた。
普段は見せない冷静沈着で策略的な友穂の一部始終を見ていたシーナは、
うん、これからは友穂にあまりワガママな事を言わないように心掛けよう…
と密かに心に誓うのであった。




