嘆き
両親がわたしの誕生日に、
今日はおいしいものを食べよう、
と言って、わたしを牧場に連れて行ってくれました。
わたしはお肉が大好きで、
牧場のお肉はおいしいよ、と言うお母さんの言葉に、
お父さんが運転する車の中で、
車よりも早く牧場へ行きたがる自分の心をなんとか抑えました。
牧場にはスーパーマーケットのようなお肉屋さんがあり、
そこでわたしが指差すお肉を両親は買ってくれました。
これほどたくさんのお肉を見たのは初めてでしたし、
その中から好きなだけお肉を選べるのですから、
わたしはなんて贅沢な人間なんだろう、と幸せでいっぱいでした。
その帰りに、
せっかくここまで来たのだから牛舎を見よう、
と、わたしは高揚しながらいいました。
両親も賛成してくれて、わたしたちは牛舎に向かいました。
牛舎には牛のお世話をしている方がいて、
触ってもいいよ、
と牛の顔を触らせてくれました。
顔は硬くて、短い毛の感触が不思議でした。
のんびり動く牛は目がきらきらしていて、
それはとても愛らしいものでした。
また会いに来るからね、
といって離れていくわたしを、じっと見つめていました。
それもまた、とても愛らしかったのでした。
次の年の誕生日に、わたしはまた牧場へと来ていました。
牧場で買ったお肉を食べたわたしはそのおいしさに大変喜び、
それを見て気をよくした両親がまた今年も連れてきてくれたのでした。
でも、まず最初にわたしは、
先にお店に行ってて!
と両親に伝え、牛舎に向かいました。
また今年も来たよ、
とあの牛に伝えたかったからです。
ところが、あの牛がいた場所には虚空が漂うばかりでした。
牛のお世話をしている方は変わらずにいたので、その方に聞いてみると、
そこにいた牛なら出荷されたよ、
とお答えになりました。
あの愛らしい目は、もうどこにもないということを知った瞬間でした。
わたしの足には力が入らなくなり、稲わらが散らかった地面に膝を落としました。
目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ち、わたしは声をあげて泣きました。
それを見たお世話の方は、
ふざけるな、偽善者め! お前は牛を食べているのだろう!
と怒鳴りました。
違うのです、違うのです、
とわたしは心の中で繰り返しました。
しかし言葉は悲しみのあまり出てきません。
違うのです、違うのです、
ふざけるな、偽善者!
違うのです、違うのです、
わたしの涙を許してください。
わたしの心を許してください。
わたしの命を許してください。
わたしはただ悲しいのです。