第25話 顔見せするです
全員の挨拶が終わったところで、私は声をかけます。
「リリスさん達はこの壊れたドアを修繕しようとしているところですか?」
材料と修理道具を出しているのだから確認するまでも無いのですが、一応確認をしておきます。
「そうですよ。壊れたままでは店の醜聞に関わりますから」
もっとも今更な気がしますが、という自嘲気味の笑みを零してしまいます。きっと、今までも似たようなことがあり、その度に修理してきたのですね。こんなにも優しい人達がこのような酷い扱いを受けるだなんて許せません。私はこれからお世話になる人達に私達のことを多少なり知ってもらう為に、ある提案をします。
「そのドア私達が修理しますよ。」
「そんな、悪いです。これくらいのことはよくしているので問題ありません。そのお気持ちだけ受け取らせていただきます。」
「そんなに気を使っていただかなくとも大丈夫ですよ。私達が周りと少し違うというところを知っていただこうかと思って、提案したのです。私達、いえリーゼならこのドアを一瞬で元に戻すことが出来るのです。」
私達はこの街に入る前に3人である取り決めをしていました。それが、私は身体能力が少し高いだけの普通の女の子。エルお姉ちゃんは様々な魔法が使える女の子。ベアトリーゼは特殊な魔法が使える女の子。この設定でいこうと決めているのです。まぁ既に私の身体能力が異常に高いことを知っているこの2人や昼間の騎士の人達には通用しないかもしれませんが。できるだけ厄介ごとに巻き込まれないように考えての結果です。
私の言葉にリリスとリンディは驚いた反応を返してくれます。驚かれる瞬間というのはいいものですね。とてもドキドキしてしまいます。
「それは、修繕に慣れていると言うことかしら?・・・それともまさか、魔法でなんて事はありませんよね?」
「・・・魔法だと言ったら、どうしますか?」
「・・・」
ふふ、驚いていますね。思わず笑みが零れてしまいます。何だか癖になってしまいそうです。
「まぁ、残念なことに詳しいお話は出来ないのですが。これは、私達の秘密に関わってくる事なので、少しの間後ろを向いていて欲しいのです。大丈夫です、安心してください。次に振り返った時には元どおりですから。」
「・・・わかりました。よろしくお願い致します。ほら、リンも後ろを向きますよ。」
「は、はいお母さん。おねがいします、ルナ。」
そう言って後ろを向く2人。その姿を確認して私はリーゼに目配せをし、魔法を使うようにお願いします。リーゼは頷いてから時間魔法を使用しました。それはまさに一瞬の出来事です。時間を巻戻したかのように、ドアが元に戻っていきます。私は視線で感謝の意をリーゼに送ると、リーゼは胸を張ってドヤ顔をしています。その可愛らしい姿に笑みが浮かびます。本当にリーゼは面白い娘ですね、ふふふ。
「2人共もう大丈夫ですよ。」
「「っ!?」」
「凄い本当に一瞬なんですね。」
「これくらいのことならあたしに任せて欲しいんだよ。」
驚く2人に満更どころかものすごく嬉しそうにするリーゼ。褒められた事がよほど嬉しかったようです。そういえば、私達がリーゼを褒めた事は無かったような気がします。ここは反省するべきところですね。次からは良く褒めていくようにしたいです。
「ご覧のとおりです。これが、リーゼの特殊な魔法によるものです。このようにリーゼの魔法なら普通の魔法使いでは不可能なことでも可能にすることが出来るのです。」
「・・・あ、あの良ければ3人の種族を教えて欲しいのです。で、できればでいいのですが。」
もっと早く聞きたい内容だったはずですが、なかなか聞けなかったようですね。異種族であることも、少し特殊なことが出来ることも既に2人には話してありますので、種族を教えるのは問題無いです。私が気にしているのは顔を覚えられて街中を歩きづらくなることです。そして、この街以外の場所でも顔が知られてしまえば、ますます自由に行動できなくなってしまいます。
ですが、私自身絶対にばれないようにしたいというわけではないです。できれば、ばれないようにしたいという程度のものです。この先、特殊な私達が周りから注目を集めてしまうことは分かっています。そう遠くないうちに顔も種族も回りに知られてしまう可能性があるのですから、早いうちに2人には教えておこうと思っていたのです。これから一緒に生活していく異種族同士の2人なんですから、秘密にするのは良くないですからね。
「いいですよ。もともとこちらこら教えるつもりでしたので。エルお姉ちゃん、リーゼ、顔を隠してあるローブを外してください。」
2人に声をかけ私も2人と一緒にローブを外します。そして、エルフ特有の長い耳や、白い肌がリリス達の目に入ったのが分かります。
「やはり、皆さん女性の方でしたか。声から分かっていたのですが顔を見せてもらえるとそれだけで安心してしまいます。それに、その耳はエルフ、いえハーフエルフかしら?」
「はいです。私は元人間だったのですが、エルお姉ちゃんと姉妹の契りを結んでからハーフエルフになりました。エルお姉ちゃんは元がエルフで私と姉妹の契りを結んだことでハーフエルフに。・・・リーゼは人間に見えるかもしれませんが、精霊なんですよ。」
「っ・・・リーゼさんが精霊?人の目に見える精霊だなんて、そんな精霊がいるのですか?」
この世界の常識からしたら目に見える精霊なんてありえないと言ったところですね。
「リーゼは特殊な精霊ですからね。私達はつい先日エルフの森から追放されてしまったのでこの街に来たのです。これからは、世界を見て周りたいと考えているところです。」
「そうですか、3人共とても苦労なさったのですね。短い間かもしれませんがこれからよろしくお願いします。」
「はい。こちらこそです。」