第23話 ホームステイです
突然外から攻撃してきた輩を私は観察します。どうやら国の関係者のようです。その様な者がなぜいきなり攻撃してくるのでしょうか?私は言葉を発せず事の成り行きを見守ります。男達は壊れたドアを蹴破りながら家の中に踏み込んできます。・・・なんて無礼な奴等なんですか。人様の家に脚蹴りをして入ってくるなど。私のこの人達に対する評価は既にどん底ですよ。
「この魔族が!!最近の魔獣が増加しているのはお前らが裏で企んでいることなんだろう!!」
「違います言いがかりはよしてください!」
リンデイは既に母親の後ろに避難しているようですね。この輩は道徳心が無さそうですから、ここにいたら何をされるか分からないです。私はリンディの位置を確認し再び会話に意識を向けます。
「ふん!!人間以外信用なるものか!!魔族というだけで疑う理由には充分だ!」
後ろの輩もリーダー格の言葉に煽りを入れています。
どうやらリンディ達親子が魔族だからという理由だけで近頃の魔獣増加の犯人にされているようです。ここはこんな人達ばかりなのでしょうか?とても異種族には住みにくそうな街です。
「再三にわたる退去命令を無視し続けたお前らを実力行使でこの街から排除する!全員抜剣!!」
「・・・いいのかしら?そっちがその気でしたらこちらも全力でお相手させていただくわ。」
リンディの母親リリスの目が剣呑に光る。決して慌てることのない落ち着いた物腰。相当な修羅場を潜ってきた経験があるようです。
「ようやく本性を表したか。だがお前の情報は既に集めてある。魔族特有の病、魔力衰減に犯され全盛期の1/3の力も出せない。しかも、魔力使用時は激痛を伴うそうではないか。くっくっく、魔力の使えぬ魔族など恐れるに足らん!!」
「っく!!」
「お、お母さん・・・。」
「大丈夫よリンは私の後ろに隠れていなさい。」
「ここで悪しき魔族を討ちこの街を守るぞ!!突撃ー!!」「おおー!!」
先頭にいた騎士3人がリンディ達に襲い掛かる。3方向からの剣戟を上手く捌いているが、後ろにリンディがいるせいで避けることができず傷が増えていきます。
「いやー!」
「リン!?」
「そこまでだ動くとこの娘の命が無いぞ。」
いつの間にか引き離されていたのかリンディを人質にとられてしまいます。首筋に剣先を突きつけられ、身動きがとれなくなってしまいます。
「そうだ、おとなしくしていろ。そいつを押さえ込め」
リンディをを人質にとったリーダー格の命令を受けリンディの母親が押し倒されます。その様を見ながら、リーダー格の男はリンディの身体を撫でさすっています。母親のほうも他の騎士たちに押さえ込まれ、服を剥ぎ取られていきます。
「いや、やめて。お母さん!」
「っく。お願いリンディには手を出さないで。」
「ふん。魔族の言葉など誰が聞くものか。」
そう言いながら腹部を撫で擦っていた手をゆっくりと下腹部のほうに下ろしていきます。
「っい、いや。」
「リンディ!!」
ドン!!
何が起こったのかわからないという表情をした騎士たちを無視し、座り込んでしまったリンディに手を貸します。
「恐かったね、もう大丈夫ですよ。」
面倒事を起こしたくなく、ことの推移を見守っていましたがもう限界です。とても見ていられたものではないです。リンディを優しく立ち上がらせ、慰めていた私を残りの騎士たちが怒声を上げてきました。
「貴様何をした!」「貴様はその魔族の仲間か!?」
「ただ殴っただけですよ。貴方達のリーダーは大したことありませんね。これでは街の外の魔獣のほうが手応えががありましたよ。それと、」
ドン!
リンデイの母親を押さえつけていた騎士3人を一瞬で同時に吹き飛ばします。リンディの母親は服を直しながら立ち上がりました。
「貴方達のリーダーを既に倒しているのです。今更確認することなど無いはずですよ。」
「くそ!いったん退却だ!」
騎士たちは倒れていた人達を回収しこの家から出て行きました。
「ルナさん、こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい。それから、助けてくれて本当にありがとうございました。」
服を直し終わり近づいてきていたリリスに謝罪と感謝の言葉をもらいました。
「いえ、私も直ぐに助けなかったので感謝されることは無いです。」
「そんなことありません。この街で私達魔族に手を差し伸べてくれる人など全くいませんから。ルナさんがいなければ今頃取り返しのつかないことになっていたはずです。本当にありがとうございます。」
「る、ルナさん私からも助けてくれて本当にありがとう!」
「でも、ルナさんはこのお店にもう来ないほうが良いわ。今日のことで貴方も騎士たちに目を付けられたはずだから、巻き込まれたくなければ近づかないほうが良いわ。」
「そうですね。確かに目を付けられたかもしれませんが、顔は見られていません。こんなことになることを見越して顔を隠していたのですから。」
「そうですか。ルナさんにも事情がおありのようですね。」
「そうなんです。それと、少し提案があるのですが、いいですか?」
「ええ。」
「私を、いえ私達をこの家に住まわせてほしいのです。実は私達今日この街に着いて宿屋に泊まって生活するつもりでしたが、常識を何も知らない私達ではどんな問題を起こすか分からなくて不安なのです。それに、私達はとても強いですから今回のようなことがあった時凄く助かると思いますよ。」
「それはとても心強いけど、どうして、私達の家なの?私達は魔族でこの街から決して友好的ではない扱いを日常的に受けているわ。そんな私達の家にいたら貴方達も同じ目にあってしまいます。・・・申し出は嬉しいけれど、同じ種族同士でいたほうが問題が無くていいと思うわ。」
この1人でも仲間が欲しい状況で私達のことも考えてくれるそんな優しい気遣いが出来るこの人のほうが、異種族に対して侮蔑的な人間より信用できます。
「確かにそのとおりです。ここに住めば魔族の仲間だと早々に疑われ、とても辛い扱いを受けることは目に見えています。」
私の言葉に少し表情を暗くしてしまいます。言葉でああは言っても本心では協力者が1人でも欲しかったはずです。再び娘をあんな目に合わせないように。
私は一拍おいて話を続けます。
「・・・ですが、私達は人間と呼ばれるような種族ではないです。先ほどの私の動きを見ていましたよね。あんな動きが人間に出来ると思いますか?」
「いえ・・・私にも目で追うことすら出来ませんでした。とても人間が出来る動きではありませんでした。ということはルナさんは人間ではないのですか?」
「はいです。ですから、遠慮することは無いですよ。異種族だと疑われるのが遅いか、早いかの違いですから。私達異種族にとってこの人間の街は余りにも厳しく、信用できるものではないです。そんな街なら同じ異種族同士の方がずっと信用できると思うのです。なので、できれば私達3人をここに泊めて欲しいのですよ。」
「そうだったのですか。そういうことでしたら、こちらからよろしくお願い致します。ほら、リンからも。」
「ルナ様これからよろしくお願いします。」
「私のことはルナでいいですよ。これから私達は友達になるのですから。」
「はうっ!?お、お友達?私達お友達?」
私の言葉にとても驚いています。
「はい。お友達ですよ。」
「はうっ!!初めてのお友達。なんて素晴らしい響きでしょうか?お母さん私初めてお友達が出来ました凄く嬉しいです。」
「ふふ。良かったわね、おめでとう。」
「では、1度戻ってからまた来ます。ところで、門を通るとき何か必要だったりするのですか?私達お金を全く持っていないので、もし通行料等が必要な場合はお金をつくらないといけないのですが。それと、種族確認とかもされるのですか?」
「門の通行には通行料がかかるわ。大した金額ではないから私が立替えてあげます。あと、種族確認もするから、そこで種族がばれてしまうのは仕方が無いわ。」
「では、通行したときに通行証もしくは、何かしらの証明書が渡されるのですか?」
「いえ、それはないわ。この街の外壁には魔法がかけられているから、外からの進入は不可能ですから。」
ニヤリ
なるほど、それは好都合です。わざわざ通行料を支払って入る必要は無いですね。そうだと知っていれば最初から3人でこの街に入ってきたのですが。
「それでしたらお金の立替は必要ありません。ローブだけ先にください。直ぐに戻ってきますので。」
「わかったわ。ルナさんがそう言うのでしたら。少し待っていてくださいね。」
戻ってきたリリスから新品の白いローブを3着受け取り、私は再び汚い路地裏に戻り、空間転移でエルお姉ちゃん達のもとに戻りました。