第13話 初勝負です
「ここで暴れるわけにはいかんの。小娘、場所を移すぞ。」
「私はどこでもかまいませんよ。」
そう言うとエンシェントドラゴンが魔法を唱えました。
「転移」
シュン
私とエルお姉ちゃんと、エンシェントドラゴンの3人が森ではない荒野に移動していました。何の違和感も無い一瞬のことでした。
「・・・すごい。古代魔法を詠唱破棄で使ってしまうなんて。」
エルお姉ちゃんはとても驚いていました。ですが、エンシェントドラゴンは当たり前のことをしただけのような当然の顔をしていました。これが神獣の実力の片鱗ですか。
「ここは森から少し離れた場所じゃ。ここでならなんの気兼ねなく身体を動かせるじゃろ。覚悟は良いな小娘、わしは優しくはないぞ。」
そう言うとエンシェントドラゴンの身体が膨れ上がり初めました。1m程の大きさだったのが今では30mにとどきそうな大きさで、体を覆っていた綿毛が白く輝く硬そうな鱗に変わっています。ここまで変わるなんて驚きですね。瞳の色は変わらない金色でこちらを見下ろしています。
「準備はいいな?」
「はいです。私は貴方を待っていたのですよ。いつでも準備万端です。」
「口だけは1人前じゃな。わしのこの身体を見ても気圧されておらぬ。その実力確かめさせてもらうぞ。最初の一撃は譲ってやるどこでも打ち込むが良い。」
「余裕ですね。私の一撃は決して軽くないですよ。後悔しても知らないですよ。」
私はそう言うと今まで軽く抑えていた氣を放出し氣流で身体を強化し氣炎で身体を纏います。
相手は私の一撃を受けるまで攻撃する気はなさそうですね。そうでしたら、この一撃防御を捨て全力で打ち込むことにしますか。私の初めての全力。向こうでは出すことができなかった力。今まで抑えていた力を解放できる喜びに私は極上の笑みを浮かべます。
さぁあいきますよ。
「夢技氣凝。これが私の全力です。」
今の私からは神獣と同等かそれ以上の威圧感がでています。ここまで力が出るなんて私自身驚きですね。これで攻撃して大丈夫でしょうか。殺してしまったりしないですよね。
「っ!?小娘、何だその力は。その力ただの人間が持ちえる力ではないぞ。」
「何度も言ってるじゃないですか。今までの人間とは違うと。・・・いきます!!」
ゴッ
全力で踏み出すと地面を抉り、空気の塊が体に当たります。ですが、氣炎を纏っている私には空気の抵抗など関係ありません。一瞬で相手との距離を詰め飛び上がります。狙いは腹部、全力で右腕に纏った氣を叩きつけようとするとエンシェントドラゴンの前の空気に抵抗を感じます。結界か何かを張っているのですね。ですがそんなもの関係ありません。
「っ!?複合結界!!」
突然目の前に虹色の壁が張られました。私の拳と僅かな時間拮抗していましたが、私の拳が結界を貫きエンシェントドラゴンの身体にぶつかり、どんっ!と大音量をだします。
「グゥゥゥゥゥゥゥゥ」
元いた場所から数十m吹き飛ばされながら苦痛のうめき声を上げています。さすが最強クラスの神獣ですね。私の全力だったのですが、腹部の鱗を抉り、肉が見えているだけのダメージしか与えられませんでした。ですが、ようやく理解することができました。私の本気は神獣にダメージを充分与えられるものだと。私の身体には何の問題も無いようですね。相手にはダメージを与えているが致命傷ではない。神獣相手には全力を出して戦えることがわかりました。
私は再び極上の笑みを浮かべます。
嬉しい。本当に。初めて出した全力で身体が、心が欲求が満たされていくのがわかります。この世界は私に生きているという実感をすごく感じさせてくれます。全力を出せただけでこの世界に来たかいがあるというものです。
「グゥ・・・わしに傷をつけたものなど同格の神獣以外では初めてのことじゃぞ。」
「それは光栄ですね。貴方の初めてになれたのですか。これは自慢できそうですね」
「くっくっく、言いおるな小娘。次はわしから行くぞ!」
ゴアッ!!
エンシェントドラゴンは口から灼熱の光を放ってきます。炎ではなく光。この光は人体を溶かしつくす熱量が含まれていることがわかります。ですが、私はあえて避けずその光を浴びます。氣炎を最大にし、身体を分厚く覆います。
ジュアッ!!
私の周辺の地面や岩から溶け出す音が聞こえてきます。目をも焼くその光の中、私は目を閉じず相手を見据えます。私の目にはエンシェントドラゴンの姿がしっかりと見えています。未だ続く光の中私は攻勢に出ます。
「夢闘戦技、氣舞螺」
今まで覆っているだけだった氣炎を螺旋のように回転させながら手・脚・頭の身体全体に纏います。これは攻撃力と防御力を氣炎より効果的に上げられます。ですが氣炎より集中力を必要としますし普段からこの技を使う必要性を感じません。氣炎だけで充分効果がありますし、絶対量を上げる訓練にもなりますからね。
私は未だ続く光を突き進みます。私に気付いたのかエンシェントドラゴンが口からの攻撃を止め、詠唱破棄で4属性複合攻撃を放ってくるが私は避けず突き進む。氣舞螺を多少なり貫かれたが気にしません。再び腹部に一撃を入れようと飛び上がったところで私の真上からドラゴンの尾が振り下ろされてきます。その一撃には左腕を滑らせるようにし攻撃を反らしたが体勢が崩れます。そこにドラゴンの牙が迫り私を噛み千切ろうと迫ってきます。空中の上、体勢の崩れた状態では避けられません。私は噛みつかれる直前に身体を回転させ踵を顎にあて攻撃を反らすことに成功します。回転した勢いで体勢を整え着地し、今度は相手の脚に向かって拳を放ちますが再び四属性の複合結界で防がれてしまいます。一瞬で氣を操作し左拳に氣舞螺の上から氣凝を重ね攻撃力を増します。結界を突き破ると思われましたが、当たると思った瞬間に転移で避けられてしまいました。・・・転移は卑怯ですね。攻撃を当てられる気がしません。
「勝負中にこんなことを言いたくないですが、転移なんて卑怯ですよ。それで避けられたら攻撃が当たらないじゃないですか。」
私は唇を突き出し拗ねた表情をだします。
その表情が壷にはまったのか、エンシェントドラゴンが愉快そうに笑います。
「くっはっはっは。なんだそんな表情もできたのじゃな。それに意趣返しもできた。このまま続けてもお互い疲れるだけけじゃろ?ここで手打ちにせんか?」
エンシェントドラゴンが終了の意思を示す。
私もその意見に賛成ですね。転移の攻略をしなくてはこのまま続けてもいい結果にはならないでしょうね。それに充分楽しめましたからね。
「そうですね。ありがとうございました、エンシェントドラゴン。私は初めて全力を出せたことにとても満足できました。」
私は頭を下げ相手に礼を尽くします。
「わしも楽しかったぞこんなに心踊る勝負は本当に久しぶりじゃった。・・・わしの名はエンジュじゃ。お主、ルナとエルネスにこの名を呼ぶことを許そう。」
「そんな、畏れおおいです。私共がエンシェントドラゴン様のお名前を呼ぶなど。」
今まで戦いに夢中だったのか静かだったエルお姉ちゃんですが意識が戻ったのかそんな言葉を言っていました。
「良いのじゃ。これからは友となろうぞ。」
「そうですか?ありがとうございます。こんな強い友達ができて私も嬉しいですよ。」
「ルナちゃんそんな簡単に・・・」
「いいのですよ。相手がそう言っているのですから。ねぇエンジュ。」
こうして私の人生初の全力の勝負が終わったのです。