第12話 ドラゴンです
エルフの里から歩くこと数時間。同じように周りに広がっていた樹木が唐突に途切れました。
そこは、とある1本の大木を中心に円を描くように森が途切れ、空から明るい日差しが差し込んできていました。
その大木の周辺にはたくさんの草花が絨毯のように一面に広がっていました。
そこには初めて見る動物たちが穏やかに生活していました。
親子で草花の絨毯の上に伏せお昼寝をしている動物。
子供同士じゃれあいながら遊びまわる動物達。
この場には動物たちが過ごすのにとても良い環境が整っているようですね。
「(向こうの世界で感じたことの無い清涼な空気がこの空間を満たしています。)」
「ここがユグドラシルの森の中心で、ユグドラシルがある場所なのよ。」
「すごく綺麗な場所ですね。こんな綺麗な森初めて見ました。まるで光が降ってきているかのようです。」
「そうね。この森でこの場所が一番綺麗なのよ。」
本当にその通りですね。この世界でなければ一生見る機会は無かったでしょうね。
「そして、ここにエンシェントドラゴンがいるのよ。」
「エンシェントドラゴン・・・。」
この森の守護者にして、最強クラスの強さを誇る神獣。ついに、その姿を見ることができるのですね。
「行きましょうルナちゃんユグドラシルの元にエンシェントドラゴンがいるわ。」
「はいです。」
私たちが歩いていくとゆっくり休んでいた動物たちが起き上がり、私たちから距離をとるように離れていきます。やはり、人間の血が混じっているハーフエルフの私たちはこの森の動物たちとは仲良くなれないかもしれませんね。盗み見ればエルお姉ちゃんが悲しそうな顔をして動物たちを見送っていました。この森の動物達と家族と言っていたエルお姉ちゃんからすると、家族に見放されたように感じているのかもしれませんね。
不安になったのか私の手を握り締めてくるエルお姉ちゃん。その手を私からも握り返します。私が付いていると安心させるように。私は前の世界では親しか居らず、この世界では誰も知り合いがいません。元から何も持っていない私ではエルお姉ちゃんの気持ちはわからないでしょう。
「大丈夫ですか?エルお姉ちゃん」
「ええ、大丈夫よ。」
弱弱しくだが私に微笑んでくれます。
こんなこと考えたくもありませんが、もしも同族のエルフにも嫌われたらエルお姉ちゃんは耐えられるのでしょうか?エルお姉ちゃんが心配です。この森は同族に優しくとも、異種族にはとても厳しいように感じます。人間の血が混じっている私たちはきっと邪魔者でしかないのかもしれません。もうこの森にはいられない可能性が出てきましたね。悲しいことにならなければ良いのですが。
「行きましょうルナちゃん。」
「はいです。」
2人で手をつなぎ草花の上をゆっくり歩きます。なんだかもの悲しげなBGMが流れ出しそうな雰囲気です。そして、ユグドラシルの近くまで行くと根元に白いものが丸まっているのを見つけました。
「あれですか?」
真っ白な綿毛に覆われた身体を丸めている生物。なんだか想像したしていた見た目とは違いますが、相手から溢れてくる気配がただの生き物で無いということを証明しています。
「そうよ。あそこにいるのがこの森の守護者をしているエンシェントドラゴンよ」
そう言いながらエンシェントドラゴンの3mほど近くまで行くとエルお姉ちゃんがエンシェントドラゴンに頭を下げ挨拶をしていました。
「お久しぶりでございます。精霊との契約を認めていただきたくご挨拶に参りました。」
エンシェントドラゴンは丸めていた首を起こし、こちらに金色の瞳を向けてきます。
「ハーフエルフがこの森にまだいたとはのう。とっくの昔に追放されたと思っておったのじゃが。」
年をとり、しわがれた声の中に威厳を感じさせる。若干の興味と、不審感を感じさせます。
「私は先ほどこちらの元人間のルナと姉妹の契りを交わしハーフエルフになりました。このことはまだ私達以外誰もご存知ありません。」
金色の瞳がエルお姉ちゃんから、私に向けられます。
「エルフと契約をできる者が未だおったのじゃな。人間は欲にまみれ強欲な者ばかりじゃ。この森に住んでおる生き物たちもわしがおらなかったら、絶滅しておったかもしれぬ。人間よそなたはなぜこの森に入ったのじゃ?この森に入った者がどの様な末路を辿るか知らない訳ないじゃろ?」
「知らないですよ。そんなこと。おそらく私は今までの人間とは全く違うということですね。私はここにいる動物達を殺そうなんて全く思ってないです。むしろ、私は貴方に興味があります。神獣という最強クラスの実力にです。どうですか?私と手合わせして欲しいのですが。」
「ちょっとルナちゃん無謀よ。やめたほうがいいわ!!」
「くっくっく。わしに勝負を挑む肝のある奴など久しぶりじゃな。だが、舐めるなよ人間如きがこのわしに勝負を挑むなど余程死にたいようじゃな。」
「いえ、私は死合いをしたいのでは無いのですよ。勝負をしたいだけです。」
「同じことじゃ。脆弱な人間1人など腕の一振りで決着がつくわ!わしも久々に身体を動かしたかったが、人間では役不足じゃ。先程の言葉は忘れてやるとっとと要件を・・・」
私は相手の言葉を最後まで聞かず言葉を発しました。
「役不足かどうか試してみないてわからないですよ?言いましたよね今までの人間とは違うと。私からすれば貴方に私の相手がつとまるか心配ですよ。」
「言いおったな小娘。そこまで言うのなら相手になってやろう。後悔するなよ」
私はついに勝負をすることになったのです。