初任務1
穏やかに流れる雲の間から綺麗な青空が覗いている。そんなことを思いながら歩くユリウスは今、任務の為リヴァインの南部、カーテル国外れにある二ディアという小さな街に向かう途中である。
任務のチームは基本、少人数で組まれる。今回、ユリウスと共に任務を遂行するメンバーはバート・ケイン、レイチェル・アイアンズ、ベアトリス・エイリーの三人。と、プラス黒猫。ユリウスに懐き過ぎて離れない為という理由で任務に同行させることとなった。が、半分は嘘で実際はアンドリュー先生、もといミハエルがユリウスの護衛として行かせたのだが・・・・・しかし、ミハエルの言いつけが無くともレヴァンは当然ついて来ただろうから離れないというのは本当の事だ。そして現在、その黒猫はユリウスの肩の上に乗っている。彼は決してそこから動こうとしない。理由は一つ、安全地帯だから。そこから下りてしまえばベアトリスの餌食となってしまうため警戒しているのだ。だが、正直ユリウスにとっては疲労の原因の一つになっている。
(レヴァン、君は一応俺の従者なんだけどね。主人の肩に乗らず自分で歩きなよ)
そんな事を思いながらもユリウスはレヴァンを追い払うことはしない。二人は表面上、主従関係であるが、実際ユリウスにとってレヴァンは親代わりであり、兄弟であり、親友なのだ。だから彼が本当に嫌がっているのなら助ける。
(自分がからかうのは別だけどね)
ま、とりあえずレヴァンはベアトリスが本当に苦手らしいのでこのまま肩に滞在することを許している。
さて、今回の任務内容は街付近をうろつく悪魔の排除だ。と言っても、Dクラスの任務はほとんどが悪魔退治らしい。ユリウスにとってこの任務は嬉しい限りだ、何せ上手くいけばミハエル達と共に逃亡してきた悪魔たちを発見し、仲間に引き入れることができるかもしれないからだ。しかし、この任務を好ましく思っているのはユリウスだけのようだった。
「また悪魔退治?こういう任務大変だし疲れるから嫌なのよ」不満を言うベアトリス。
「文句を言ったところで何も変わりません。私達悪魔混じりには危険な任務しか回ってこない事は分かり切っていることです。いい加減学習して下さい」レイチェルは冷めたくベアトリスに言い放つ。レイチェルのこの対応はいつもの事らしく、誰にでも冷めた口調で話すのだそうだ。彼女は素晴らしいほど真面目とのこと。
「はいはい。分かりました~危険な任務ですからしっかり働きますよ~」
「返事は一回で十分です」
「は~~い」
「・・・・・・」
レイチェルは諦め、もくもくと歩き続ける。ベアトリスも不満顔で歩く。その様子を見ていたユリウスはクスクスと笑った。
「学園にいる時も思ったけど、意外とみんな仲良くしゃべるんだね。正直、暗い人が多いと思っていたんだけど・・・・・勝手なイメージだったね」
「実際そういう奴が多いんだろ。俺たちは人間や精霊とはほとんど会話をしないが、Dクラスメンバーだけの時は結構賑やかなもんだ。みんな個性的で我が強いからな。お前は旅をしてきたんだろ?この学園以外にも悪魔混じり同士で生活している奴らがちらほらいたはずだ。そいつ等だって仲間同士で仲良くしてただろうに」
バートの言葉にユリウスは微笑しながらゆっくりと首を横に振る。
「俺には分からないな・・・・・ずっと旅をしてきたけど、俺が遭遇したのは騙し、奪い、殺す。醜い人間やリヴァインに紛れ込み人間に害をなす悪魔、そして会った事のある悪魔混じりは皆人間に酷い扱いをされ心を閉ざした者たちばかりだった・・・・・だからね、君たちと会って初めて悪魔混じりがこんなにも感情豊かに生活できるものなのかと知り、関心すらしたよ・・・・・・本当、いい仲間達だね。俺も見ていて楽しくなるよ」
ユリウスは素直に思ったことを言っただけだが、バートは気に入らないといった表情をする。
「どうしたんだい?バート。何か気に障る事でも言ったかな?」
「お前もDクラスのメンバーだ」
(バートの奴いきなりどうしたんだ?そんな当たり前の事を今さら・・・・。)
「・・・そんなことは知ってるよ?」
「だからッ!!・・・・・お前も俺達の大切な仲間だって言ってんの。自分だけ違うみたいな雰囲気出しやがって、お前も俺達と同じ悪魔混じりだ。仲間だ。仲間に距離を置くな。そういうことが言いたかったんだよッ!俺は!!」
真剣に言ってくるバートをユリウスはキョトンとした顔をで見ていたが、やがて口元を手で隠し肩を小刻みに震わせた。彼は声を押し殺して笑っている。
「そんなに可笑しいかよッ!・・・・・・・・悪かったな。仲良しごっこだと思うんだったら幾らでも笑ってろ」バートは機嫌を悪くしそっぽを向いた。ユリウスは何とか笑いを引っ込め「ごめん。そんなつもりで笑った訳じゃないよ」とバートの肩をポンと叩く。
「ただ、君がいきなり真剣な顔をして話し出すから。つい笑ってしまった。・・・・それにね、他にどんな反応をすればいいのか分からなかったんだ・・・・・さっきも言ったように俺には経験が無いんだよ。・・・・仲間ってものにね」
「・・・・簡単だ。こういう時は喜びゃいいんだよ。仲間なんてムカついた時は喧嘩して、困った時は助け合って、楽しい時は笑い合えばいいだけだ」
「結構難しいこと言うね」ユリウスは苦笑した。
「バーカ。簡単つってんだろ。お前愛想だけはいいからな、後はもっと思ったことバンバン言えばいいんだよ」
「バンバンね・・・・言ってると思うけど?」
「アホ・・・そりゃお前が誰かをからかってる時だけだろ。そういうんじゃなくて、もっと普通の会話でだよ」
バートのあまりにも的確な返しにユリウスは少し目を見開いた後、微笑みながら口の端を持ち上げる。ユリウスのその表情を見てバートの目は半目になった。
「・・・・やっぱお前は腹黒野郎だな」
「腹黒とは失礼だね。でも、君のその面と向かって言ってくるところが俺は気に入っているよ」
「・・・・そうかよ。まあ、その調子で他の奴らも気に入っていけ」
「頑張ってみるよ・・・・」
バートは気が済んだのか顔を前へ向けた。ユリウスも前を向いて歩く。
レヴァン以外とこんな親しげに会話をしたのは久しぶりだった。改めて思ったが、バートは恥ずかしいことを平気で言う。だが、そんな真っ直ぐな彼が眩しかった。真実を隠し、嘘を並び立てる自分とは正反対の存在。だから惹かれる。利用しようと近付いただけのはずが、いつの間にかこの場所を居心地良く感じてしまっていた。しかし、それに慣れてはいけない。いつかはここを離れなければならないのだから。ユリウスは少し感傷に浸ってしまっていた自分に任務の事だけを考えるよう言い聞かせた。
そう、俺にはやるべきことがあるんだ。
あれから数時間歩き続け、ユリウス達一行は二ディアから少し離れた崖の上に到着した。目の前にはのどかな街が見える。
「そろそろ着用した方がいいですね」
レイチェルはそう言って、自分の鞄から茶色のマントを取り出しそれを素早く着用した。ベアトリスも同じ色のマントを着て、フードを目深にかぶる。
「・・・・ああ、そうか。姿を見せない方がいいんだよね」
「別に見られるくらいどうということはありませんが、姿を見せることによって任務に支障が出ます。任務は速やかに完了したいですから、やはり隠すのが得策でしょう」レイチェルが冷静な意見を言い、「そうそう。悪魔混じりだとバレたら任務やりにくいもんね。情報はくれないし、宿も見つけにくいし。最悪追い出されちゃうわ」とベアトリスが我らの行く末を語る。
「バートはマント、着ないの?」ユリウスは悠長に欠伸をしているバートに聞いた。
「俺はお前と同じで人間とほとんど外見は変わらねえからな。マントは着ねえ。邪魔くさいし」
確かに、バートの外見はほとんど人間だ。実際俺より人間に溶け込めそうだと思う。俺は人間から見たら綺麗すぎるらしいから目立ってしまうのだ。いや、別にバートがカッコ良くないとか言っている訳ではないよ?彼はガタイが良く、顔も整っていて見るからに好青年と言った感じだ。そんな彼の方が人間に馴染みやすいというだけのこと。
「準備が整いました。行きましょう」レイチェルの号令に皆頷き、二ディアへと歩き始めた。
これから初任務。ユリウスの気分は楽しいのが半分、憂鬱が半分だった。他人との共同作業は初めてで楽しみもあるのだが、自分の能力を抑え、周りに合わせなければいけないのが面倒である。