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アンドリュー先生

時刻は昼過ぎ。黒猫レヴァンは宿舎のリビングにある一番日当たりの良いソファーの上に寝そべっていた。ユリウスたち生徒は訓練に行っている為この宿舎には家事を担当しているソニアとダニエルしかいない。二人はレヴァンをこの宿舎で飼うと既に生徒たちから聞いている為レヴァンは何も気にしないでくつろげる。この時間だけは。奴らが帰ってきたら天国は終わり、長い地獄が始まってしまう。タイミングを見誤らず一瞬でユリウスの部屋へ駆け込むことが、最近レヴァンの日課である。

今日も同様の事が起こると確信していたレヴァンは突然の訪問者に警戒した。まだ彼らの帰ってくる時間帯ではない。足音が一つ、この宿舎の扉に近づいてきた。生徒ではない。この宿舎で会ったことのある者の足音と気配はもう記憶している。しかし・・・・・

(なんだ?この無駄のない感じは・・・こいつ、相当の手足れだ。それにこの魔力、悪魔にかなり近い・・・ユーリ以外にここまで悪魔に近い魔力を持つ奴がこの学園に居たか?)

レヴァンはさらに警戒し、扉の開く瞬間を凝視していた。扉から顔を覗かせた人物をレヴァンは見たことがあった。アンドリュー・バーンズだ。Dクラス教師の。レヴァンは彼を一度しか見ていない。ユリウスが新入生としてこの学園に入り、Dクラスの生徒たちに挨拶をしていた時、窓の外から見ただけだ。その時はこんな魔力は一切感じなかった。だが、今感じる魔力は紛れもなく本物。ということは奴は普段魔力を隠していることになる。何の為に?

アンドリューはソファーの上で毛を逆立て警戒心丸出しの黒猫に気づいた。彼は首を傾げる。

「はて・・・、黒猫さんがなぜこんな所に居るんでしょうか?」

アンドリューは生徒からレヴァンの事を聞かされていないようだ。そこへ洗濯を終えた様子のソニアがリビングへやって来た。

「あら、アンドリュー先生。どうなさったのです?今は訓練の時間では?」

近づいて来たソニアにアンドリューは困り果てた顔を向ける。

「ああ、ソニアさん。コンラッド君を知りませんか?」

その言葉を聞いたソニアは溜息をつく。

「あの子は・・・またおサボりですか。見かけてはいませんが探してみます。」

アンドリューは微笑しながら「見つけたら叱っておいてください」と言った。そしてまた黒猫に目を向ける。

「それよりソニアさん、いつの間に猫を飼ったんですか?」

「その子はユリウス君が拾って来て、皆さんの同意でこの宿舎で暮らすことになったんです。名前はレヴァンちゃんだそうですよ」

それを聞いたアンドリューは何故か少し驚いた顔をした。「レヴァン・・・ですか?本当に?」

名前なんかをわざわざ聞き返してきたアンドリューを不思議に思ったソニアだったが、「ええ、ユリウス君が名付けたそうですよ」と答える。

それを聞いてアンドリューはさらに腑に落ちないというような表情をした。と思ったら、突然黒猫を引っ掴んだ。当然、黒猫はビックリし、暴れだしたがアンドリューはそんなことは気にせず、ソニアに「この猫しばらくお借りします」と言い残し、宿舎から出て行ってしまった。ソニアは何事かと思い、しばらくその場に立ち止まっていた。



宿舎の裏、木々が鬱蒼と生えている場所に来たアンドリューは掴んでいた猫を下ろす。猫は体中の毛を逆立てアンドリューを警戒している。そんな猫に彼はしゃがんでさらに顔を近づけた。猫をじ~・・・と凝視するアンドリュー。

レヴァンは警戒しつつもクエッション(?)マークを頭の周りに飛ばしていた。

(何だこいつ。何がしたいんだ・・・俺に用なのか?猫に・・・?ただの変人か?)

そんなことを考えていたレヴァンにアンドリューは唐突に言った。

「君は・・・本物の猫なのかい?違うでしょ」

レヴァンは驚いた。そして焦る。(なぜ本物の猫でない事が分かったんだ?姿はどこをどう見ようと猫そのままだ。当然魔力も完全に隠している。黒色の毛を見て不吉と思う奴はいるが、猫であることを否定されるとは思っていなかった。)レヴァンは、ますますこの男が何者なのか確かめる必要があった。ユーリのこれからの計画にも関わることだ。慎重に事を運ばねば。黙っている黒猫にアンドリューはさらに話しかける。

「レヴァン。君、本当は悪魔じゃないのかい?」

レヴァンはつい、ビクッとしてしまった。(こいつ本当に何者なんだ!!)

アンドリューはレヴァンの一瞬の反応を見逃さなかった。そして確信した顔をしている。

「レヴァン。君はこんな所で何をしているんだ。君はそんなに人間と精霊が好きだったかい?僕はずっとその真逆だと思っていたが・・・」

アンドリューは何が可笑しいのか笑っていた。その笑い顔・・・見覚えがある。だが、姿は全く見覚えがなかった。

「まだ気付かないかい?レヴァン。僕だよ。ミハエルだ」

レヴァンは唖然とした。(ミハエルだと!!なぜこいつがッ・・・)

ミハエルとはレヴァンの昔からの知り合いだ。いわば腐れ縁の仲。そして当然彼、ミハエルも正真正銘悪魔なのだが、そんな彼がこの地で何をしているというのだ。

「ミハエル、お前こそこんな所で何をしているんだ」

「何って、先生だけど?君こそ何で猫・・・・・ぷッ・・」ミハエルは吹き出した。

「何が可笑しい」

「いや・・・可愛いよね。猫って・・・」肩を震わせ笑いを堪えるミハエル。

その反応に苛々するレヴァン。「ちゃんと質問に答えろ。お前は何をしにここへ来たんだ。髪の色を変え、変装までして」

確かに、ミハエルの黒髪は焦げ茶色に染められており、瞳も少し黄金色がくすんだ色になっている。

「ん~。正確に言えば、機会をうかがうため・・・かな?」

「何の機会だ」

「あいつを殺す機会」

「あいつ?誰だ」

「何言ってるんだい。僕の殺したい相手なんて一人しかいないだろうに。君もあいつを殺したいと思うだろう?」

俺も殺したい相手・・・

「ラザロスか」

「その通り。あいつは僕と君の大切な人を殺した。その報いは受けてもらわないと。それに、あいつが死なない限り僕たちは故郷へは戻れない」

「・・・奴を殺したいことは分かった。が、僕たちとは何だ」

ミハエルは溜息をついた。「現魔王ラザロスの傍に前魔王の配下だった者が居られるわけないだろう。ましてや自分の殺した相手の配下だ。当然、故郷では僕を含め多くの者がお尋ね者だ。だから僕は彼らとリヴァインに逃亡してきた。だが、大量の悪魔がリヴァインに居ると人間にバレればそれこそ命に危険が迫る。だから逃亡してきた悪魔たちはリヴァインを散り散りに散らばり生活しているんだ。ちなみに、ソニアとダニエルもね」

・・・そうか、前魔王を崇拝する者たちはこちらに逃げてきているのか。それならば、もしかしたら彼らはユーリに協力してくれるかもしれない。

一人、悶々と考え込んでいるレヴァンにミハエルは「で、君は?結局初めに質問した僕がその答えを聞けていないんだけど?」

レヴァンは迷った。言うべきか・・・真実を。ミハエルに真実を打ち明けることは別に俺自身は構わない。むしろ知ってもらった方が今後動きやすい。だが、ユーリがそれを望むのかはまだ分からない。

やはり本人がいないところで話すことではない。と思ったレヴァンは

「ユーリを呼んで来い。話はそれからだ」

「やっぱりユリウス君が関係しているんだね。君の名前も知っているみたいだし。分かった、彼を連れて来るよ」

そう言ってミハエルは訓練場へ向かった。

ミハエルは中庭を歩きながらユリウスと初めて会った時の事を思い出していた。

彼に会った時、何故か懐かしい気がした。とても親しみのある感覚・・・そして、彼の魔力にとても惹かれた。ミハエルは一つの仮説を思い浮かべた。が、そんな訳はない。と思い直し、歩き続ける。


訓練場に着いたミハエルはすぐにユリウスを見つけた。彼は良く目立つ。整いすぎた容姿、そしてなによりあの銀髪の美しさに誰もが見入っている。こうして眺めていると彼が悪魔の血を引いているとはとても思えないが、魔力は本物だ。それもケタ外れ。見た目にも当然目を引くが、何よりミハエルの心を捉えるのはユリウスの雰囲気が彼に似ていることだった。


ユリウス・オルセン・・・君はなぜ彼を・・・アレクシスを思い起こさせるのかな・・・。


ミハエルはユリウスに向かって歩き出した。



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