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猫の憂鬱と噂の真相

 

 朝、鳥の囀りでユリウスは目覚めた。窓から外を見ると、鳥たちが戯れている。

 彼が今いる部屋は、Dクラス校舎のすぐ裏に建てられたDクラス専用の宿舎のある一室。宿舎は各クラスの校舎裏に建てられている。今日から本格的に学生として活動する。といっても今日の予定は訓練のみだが。

(訓練か……面倒だな。やっぱり任務の方が楽しそうだ。悪魔狩りだしね)

 

 とりあえず、身支度を済まそう。そう思ってベットから下りると、足元に黒猫が歩み寄ってきた。

「おはよう、レヴァン」

「ああ」

 レヴァンと呼ばれた黒猫は、カシカシと後ろ脚で耳の後ろを掻きながら答えた。

「これから訓練に参加してくるよ」

「そうか頑張れよ、俺は木の上で寝てる」

 ユリウスは思った。レヴァンの正体がバレるのはまずいが、この猫の姿自体を隠すのは面倒である。何せ、レヴァンは常にユリウスの近くにいる。結局いつかはこの猫は誰かに発見されてしまうのだ。

(…なら、いっそのことバラしてしまうか。この猫ちゃん)

 ユリウスは屈んで黒猫と目を合わせた。

「今日は木で寝なくていいよ。俺と一緒に来てもらうから」

 眩しいほど満面な笑みをたたえながら、ユリウスは黒猫を抱え上げた。

 抱え上げられ、空中で体をプランプランさせながら、レヴァンは体中の毛がざわつくほど、嫌な予感を感じていた。



  ◇◇ ◇◇



 Dクラス校舎の入り口付近にユリウスはいた。そして、黒猫も。

 

 ……最悪だ。

 今、レヴァンは抱かれている。女に。

「ニャンちゃん、君かわいいね~!毛並みも最高よ~!!」

 黒猫を抱き上げ頬ずりしているのは、ベアトリス・エイリー。

「ベアトさん…次、貸してくださいね…ニャンちゃん……」

 控えめにもじもじ話している彼女はオードリー・マクレーン。彼女も猫が好きなようだ。

 二人の女の子にキャッキャされているアイドル君はというと、反抗するのも面倒なのか、されるがままだ。

(でもね、ニャンちゃん。目が据わっているよ?)

 ユリウスが微笑していると、黒猫が黄金の瞳に怒りを滲ませ睨んできた。

 そんなに睨まないでくれよ。これも全ては君のためなんだよ。一頻り楽しんだところで、そろそろ助けてあげようかな。と思ったそのとき。


「お前ら何騒いでんだ。…猫?何でこんなとこにいるんだ?」

 宿舎からやって来たのはバート・ケインだった。髪は黒みがかった赤色で、少し逆立った短髪。瞳は鶯色をしており身長は高く、全体的にがっちりとしている。

「ユリウス君が連れてきたのよ」

 ベアトリスが答えながら再び黒猫に頬ずりをする。

「お腹がすいて倒れていたところを保護したんだよ」

 ユリウスはニッコリほほ笑んだ。その笑みを見たバートは少し顔を引きつらせる。

(ふふ、本当にこの人は良く顔に出るな。こういう素直な人は、弄り甲斐があって楽しい)

 ユリウスの頭の中はバート弄り作戦を思案し始めていた。

 その時、ベアトリスが突然「この子の名前どうしようか」と言いだし、黒猫は半目だった目をカッと勢いよく開けた。

 さすがに、名前までは付けられたくないようだ。というかすでに名前なら付いてるしネ。

 しかし、ベアトリスはそんなことは知らず、既に思案し始めていた。

「黒色だから、クロちゃん?ん~何かありきたりすぎる気が・・・目が金色だから、キンちゃん?それともキーちゃん…クーちゃん、クッキー……」

 本人は真面目に考えているようだけど、正直酷いな。最初のクロちゃんで止まれば良かったけど、もうレヴァンの顔がヤバいことになってきた。殺気がすごい出てるよ?

 ユリウスはこれ以上は彼女の身が危険と判断した。

「悪いんだけど、ベアトリスさん。その猫の名前はレヴァンっていうんだ。昨日拾った時に俺が付けちゃった」

 それを聞いて、ベアトリスはガッカリした様子だったが「そうなの、レヴァンちゃんって名前なのね…」と納得してくれたようだ。

 そして、等々我慢の限界が来たらしいレヴァンは、ジタバタ暴れだした。驚いたベアトリスが腕を緩めた隙に、素早く抜け出しユリウスの肩に飛び移った。やっと安全地帯に辿り着いたレヴァンは溜息を吐く。

「…昨日の今日で、ずいぶん懐かれているのね」

 羨ましそうにベアトリスが言った。オードリーも、とても羨ましそうに見ている。バートはと言うと少々飽きれている様子だ。

「ところでオルセン、そいつどうするんだ?その毛色だと、この学園に野放しにしておくのはあんま良くねぇんじゃないのか……?」

 バートが言いたいことは分かる。黒は悪魔の象徴とされる色。さらに黄金の瞳も悪魔特有の色である。 つまり、このまま放っておけば、この猫ちゃんは学園内の人間や精霊に悲惨な目にあわされるということだ。だが結局、学園の内も外も関係ない。リヴァインやネルヴァに居る以上、何処へ行こうと俺たちに対する扱いは変わらない。

「俺が面倒をみるよ。あ、でも宿舎で猫を飼ってはダメかな?」

「別にいいんじゃねえ?アンドリュー、確か猫好きだった気がするし」

 楽観的にバートが答える。

「それいいね!!わたしもレヴァンちゃんにいつでも会えるしッ!!!」

 ベアトリスは大賛成と喜んだ。オードリーも嬉しそうはにかむ。ただ一人、いや、一匹?ユリウスの肩の上で、この世の終わりだとでも言いたいような顔をしている。

(それにしても、バートはさっきアンドリューって言ってたけど一応先生のはず。上下関係が無いのかな?まあ、クラスの生徒も年はバラバラだし一々気にしてたら面倒だからかな?)

 Dクラスの担任アンドリュー・バーンズは、Dクラス唯一の教師であり、当然授業や訓練などあらゆる教育を彼一人でこなしている。そして、宿舎には家事一般を担当するソニア・シモンズ(女性)とダニエル・パーカー(男性)の二人がいる。もちろん三人とも悪魔混じりだ。

 このDクラス関係者の少なさを考えると、改めてDクラスの孤立度が凄いな。まあ、自分としては、正体もバレ難く、動きやすいから別にいいけど。


 

  ◇◇ ◇◇



 訓練所に移動するため、ユリウスたちは中庭を歩いていた。訓練所は、南校舎の隣に設置されており、中庭を突っ切るのが一番早い。

 それにしても、Dクラスがここを通ると一気に周りの雰囲気が変わる。恐ろしいのもを見るような目、憎悪の目。いつも向けられる視線は同じだ。

 今日も変わらぬ扱いを受けるに決まっていると思って疑わなかったバートだったが、何故か違った。人間の女たちはどこかうっとりとした顔をしている。彼女らの視線を辿っていくと、ユリウス・オルセンに辿り着いた。バートはうんざりしたと同時に、飽きれた。

(こいつの顔は人間にまで有効なのか…)

 だが、さすがに見るだけで近づいては来ない。当たり前だな、ここにはオルセン以外も居るし。と、ふとオルセンを見ると、彼は微笑んでいた。満足げに…。

(こいつ…まさか、人間に好意の目を向けられて嬉しいのか……??)

 ありえねぇという視線を向けているバートに気づいたユリウスは苦笑する。

「ああ、違うよ。俺は別に彼女たちの視線に満足しているんじゃないからね?君たちと行動を共にすることによって、彼女らが近寄ってこないことに満足しているんだ」

(こいつ、外見や口調は穏やかだが、やっぱり中身は真っ黒だな…)

 バートは改めてユリウスが危険だと感じた。ふと、この間の噂話を思い出した。

(そういえば、こいつが本当に銀色の悪魔なのか確かめていなかったな…聞いてみるか)


「おい、オルセン。お前、銀色の悪魔って知ってるか?」

 唐突にそんなことを訊ねられ、ユリウスは何の事だか分かっていない様子だ。

「さあ、俺はそんな悪魔のこと聞いたことないな…それがどうしたの?」

 ユリウスは不思議そうに聞き返す。

 バートはてっきり、ユリウス・オルセンが銀色の悪魔だと思っていた為、ガッカリした。

「…いや、知らないならいい」

 バートは話を打ち切ろうとしたが、ユリウスはその噂話が気になるようだ。

「そっちから話を振っておいて、それはないんじゃない?で、その悪魔は一体何なんなのかな?」

 バートは一度溜息を吐き話し始めた。

「俺は実際に見たことないが、人間たちが噂してるのを聞いて知ったんだ。何でも、ここの学園の生徒が外に任務へ出かけた時に目撃したらしいが、銀色の髪をした奴が悪魔を殺してるんだと。生徒たちはそいつが黒髪ではなく、銀髪だったことから悪魔混じりじゃないかと言っていたが、純粋な悪魔がそう簡単に殺られるってのはどうも信じられなくてな」

 やっぱり奴は混じり者でなく本物の悪魔なのか?だがそれじゃただの同族殺し。しかも近くには目撃していた人間がいたんだぞ。普通はそっちを殺すだろ……。

 話し終わって、一人で悶々と考えにふけっていると、唐突にユリウスが言った。

「ああー…それ、もしかしたら俺のことかもしれない」

「――はぁっ!?」

 バートは驚いて目を剥いている。そんな彼を見て、ユリウスは可笑しそうに笑う。

「いや、そんな『銀色の悪魔』なんて名前が付いてたなんて知らなかったから、始めは何言ってるのか分からなかったけどね」

 ユリウスは呆気カランと言い放つ。

「…だがお前、本当に悪魔を殺してたのか?…一人で?」

「俺、この学園に来る前は旅をしていたんだよ。その途中で出会った悪魔のことだね、きっと。そうか、確かこの間ここの制服を着た二人の人間を見逃してあげた気がする。その時俺が殺した悪魔たちは殺されるだけのことをした。そして俺の目的のために殺したんだ」

 バートの問いにユリウスは淡々と答えた。

(目的…?)

「その悪魔、一体何したんだ?」

 ユリウスは笑った。

「人間の街を焼いたんだよ」

 バートは一瞬ユリウスが何を言ったか理解できなかった。

「焼いた?街を丸々…?戦争でか?」

「まあそうだろうね。魔王に命じられた…ただそれだけだと思うよ。わざわざそんな危険なこと自分の感情だけではやらないだろう?」

 ユリウスの話を聞いていたバートは不思議に思った。何故なら……

「何で人間の街を焼かれたからってその悪魔を殺したのか。そう言いたいんでしょう?」

 ユリウスはニッコリ笑う。

「俺は人間のために悪魔を殺したんじゃない。そんな面倒なことはしないよ。ただその悪魔が魔王の手下で、俺の目の前に現れたから…理由はそれだけだよ」

 ユリウスの目は冷め切っていた。

(魔王の仕業だったから?ならこいつの目的は魔王?でも何で…まあ、俺たち悪魔混じりは同じ悪魔混じり以外は全て憎いと思っている奴は多いが、こいつは何でそこまで魔王を?人間より精霊より魔王?)

 考えにふけっているバートをおいて、ユリウスは他のみんなと訓練場へ向かう。

「あっ!おい、待てよオルセン!!」

 皆を追いかけてバートは走った。



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