銀髪の青年
今日はこのシュヴァリエ学園に、新入生たちが入ってくる。
この学園には、十五歳から入ることができ、クラスは実力でA~Dクラスに分けられる。Aクラスが最高位、それからB、Cと来てDクラスが最下位。
まあ、当たり前といったら当たり前なんだが、Aクラスには精霊が多い。どう考えても人間より強いからな。たまに、武術に長けた人間がAクラスに行く場合もある。
ちなみに、Dクラスは最下位と言われているが、正直のところAクラスと同じかそれ以上の奴はたくさんいる。じゃあ、何故Dクラスにいるのかって?それは、彼らが悪魔混じりだからだ。
奴らは強い。魔力も腕力もけた外れだ。人間もほんの少しだけ魔力がある。だが魔法単体ではとてもじゃないが戦力にならない。だから人間は魔法を補助として使用し、武器や体にさまざまな補助魔法をかけて戦う。
そんでもって、俺はバート・ケイン。Dクラス。人間と悪魔のクウォーターだ。どちらかというと人間の血のほうが多い。だが、そんなのは関係ない。ここでは少しでも悪魔の血が混じっていれば、実力があろうとなかろうと、強制的にDクラス行きだ。
結局、俺たちみたいな半端者の存在は人間様や精霊様はもちろん、悪魔にすら認められない。
…ま、もう慣れたけど。
そんで、こんな事情だから毎年Dクラスに入ってくる奴は極わずか。酷い時はゼロ。今だってクラスの人数はたったの9人。
だから俺は新入生が入ってくる時は楽しみにしてる。今年はどんな奴が仲間になるのか…。
バートは中庭から、自分のクラスがある校舎に向かっていた。校舎は各クラスごとに分けられており、学園の南がAクラス。西がBクラス。東がCクラス。そして北がDクラスになっている。四つの校舎で囲む中央には、共有施設と中庭がある。だが、Dクラスの者たちが共有施設を使うことはほとんどない。
中庭をずんずん突き進んでいると、バートは人間と擦れ違った。彼らは怯えた顔をして通り過ぎて行く。
俺たちに対する人間や精霊の態度は二つに分かれる。今の奴らのように俺たち悪魔混じりを恐れるか、逆に攻撃的に接してくるかのどちらかだ。
正直、俺的には前者の方がまだいい。後者は相手をするのが面倒だ。だからといって無視するのも疲れる。奴らはしつこい。
ちなみに今擦れ違ったのはCクラスの連中だ。クラスは制服を見れば分かる。Aクラスは白、Bクラスは緑、Cクラスは青、Dクラスは黒色の上着をそれぞれ着用している。Dクラスの制服が黒色なのは、悪魔が黒い髪だかららしい。制服を作ったのは人間だ。こんなどうでもいい所にまで皮肉を織り交ぜてくるあいつ等は、頭がどうかしている。
勝手にイライラしていると、後ろから声が聞こえてきた。さっき擦れ違った奴らが何やら話している。バートは歩みを止めた。話し声に耳を澄ます。結構距離はあるが耳はかなり良いほうだ。
「聞いたか?先週また出たらしいぞ。銀色の悪魔が…」
……銀色の悪魔?
聞き慣れない言葉にバートは少し興味を持った。さらに耳を澄ます。
「それ本当か?でもあれって結局ただの噂なんじゃねえの?」
「それがな、先輩がこの間任務に行ったとき、その銀色の悪魔に命を救われたらしい」
「救われた?」
「ああ、任務で商人を護衛をしていた際、悪魔に襲われ殺されそうになったところを、その銀色の悪魔が現れ、悪魔だけを殺して去って行ったんだと」
「え、何そいつ同胞殺し?」
「さあ、でも何回か悪魔を殺してるとこを目撃されてるらしい…ただその悪魔は呼び名のとおり髪が銀色だ。普通、悪魔は黒髪のはず…」
「だったらそいつ悪魔じゃなくて、悪魔混じりなんじゃね?」
「…そうかもな。でも、悪魔を虫けらのように殺してたらしい。悪魔より強い悪魔混じりなんていたら、シャレになんねえな」
「あんま気にするもんじゃねえよ。どうせ殺された悪魔が弱すぎただけだって」
「そうだな」
…………。
悪魔を殺し回る悪魔混じり……ね。
正直驚いた。悪魔混じりだからそりゃ、人間よりは強いに決まってる。だが、相手が純粋な悪魔なら話は別だ。当然奴らの方が腕力も魔力も格段上。だが、その悪魔混じりかも知れねえ銀色の悪魔とやらは、簡単に悪魔を殺した。こんな凄いことに、興味を持つなという方が無理だ。
是非、その銀色の悪魔に会ってみたい。そして仲間にしたい。Dクラスは危険な任務ばかりだ。ほとんどが悪魔狩り。
まあ、それはAクラスもだが、あいつ等は人数がいくらでもいるから俺達よりは楽だろう。
だからこそ、そんな強い奴が仲間になってくれたらありがたい。
ま、そんなすげえ奴はこの学園に入る必要無いだろうから、まずありえないが。
バートは少し軽い足取りでクラスへと向かった。
◇◇ ◇◇
教室で自分の席に座っていたバートは驚いた。心の底から驚いた。
――嘘だろ……。
いつものようにスーツを崩して、だらしない姿をした教師。アンドリュー・バーンズと一緒に教室に入ってきた新入生を見てバートは唖然とした。
いや、バートだけじゃなく、生徒のほとんどが固まっていた。会った瞬間感じた。新入生の魔力が桁外れであることに。そしてバートが何より驚いたのは、銀髪であるということ……。
人間はあまり魔力に敏感じゃないが、俺たち悪魔混じりや精霊は魔力を感じることができる。だから分かった。こいつはただの悪魔混じりなんかじゃないということが。そんで、俺は疑った。もしかしたらこいつが銀色の悪魔じゃないか?と。
大体の生徒は、彼の魔力の強さに驚いていたが、明らかに女子はそれ以上のことに興味津々だった。そう、新入生の彼は……かなりの美形だった。男の俺でもそう思ってしまったのに、女子が反応しないはずがない。
特に、隣に座っているベアトリス・エイリー。紫色の腰まである長い髪に黄金の瞳。色濃く悪魔の血を受け継いでいる彼女は半魔だ。彼女の眼はうざいほどランランに光っている…。
ひとつ前に座っている、茶色い瞳と髪を持つ彼女の名はオードリー・マクレーン。
彼女は、もじもじしている。後ろから見ている俺が諸分かるくらいに……。あいつは、かなりの恥ずかしがり屋で引っ込み思案である。
そして最後の女子はレイチェル・アイアンズ。髪は灰色のボブカット。瞳はアメジスト色。彼女は、無反応。魔力には反応したが、彼の容姿については興味が無さそうだ。
…そして、クラスの中で最も無反応だったのが、コンラッド・メイスン。黒に近い藍色の髪に黄金の瞳。この男は俺と同じクウォーターだ。といっても俺とは真逆で、悪魔寄り。多分このクラスで最も悪魔に近い存在だ。
だった、……か?
今はさらに悪魔に近そうな奴が目の前にいるからな。ついでに、コンラッドは大抵、何にも興味を示すことは無い。常に何にも動じず、何を考えているのかもさっぱり分からない奴だ。……たまに、頭のネジでも外れてんじゃねェかと思うことがあったりする。
例の銀髪美青年は穏やかな笑みで話し始めた。
「ユリウス・オルセンです。よろしく」
……何となく、壁を感じる奴だな。特にあの穏やかさMAXのほほ笑み、あれはどう見ても処世術。あの笑顔で、上手く世間を渡っているのだろう。……その技で、勘違いする女もいるんだろうな。
だが、終始男にあんな穏やかな笑みをされても、俺は苛立たしいだけだった。
いい加減、その顔止めろ。と思う。
勝手にバートが苛立っていると、彼はユリウス・オルセンと目があった。ユリウスは、バートを見て一瞬真顔になったが、再び微笑み返してきた。
(……あいつ、俺があの笑顔に苛立ってるのを分かっててやってやがる。あの野郎、絶ってぇ腹黒だ)
バートはユリウスから視線を外し、頬杖をついて窓の外を見た。
一方、ユリウスはというと…。
(へえ、威勢の良い奴がいるな。ああいう敵対心?反発的な態度の人には結構好意が持てる。うまくやってけそうかな?)
…などと、思っていたりする。
ユリウスは、皆に気付かれないよう、静かにほくそ笑んだ。その時、窓の近くに生えている木に寝そべり、黒猫レヴァンは飽きれた表情をしていた。
(ユーリのあの顔は、弄りがいのありそうな相手を見つけた時の顔だな……)
黒猫は、主の悪巧みを感じ、バートに同情の目を向けた。




