銀の王子と碧の姫3
慌ただしく二人が出ていき、やっと部屋が落ち着いた雰囲気になった。
「さて、ユリウス君が戻ってきたところで、伝えたいことが・・・」
アンドリューが話そうとしたその時、ガシャンッと食器がぶつかる音がした。アンドリューは溜息を吐き、音源である青年に視線を向ける。
「コンラッド、食事中に寝るのはやめなさい」
肉の刺さったフォークを片手に握ったまま、ダイニングテーブルに顔を埋める彼、コンラッド・メイスンはアンドリューに指摘され、もそりとそのボサボサな藍色の髪を起こす。
先程の騒音は、彼が食器に頭突きをした音だったようだ。
「・・・・おは、よう。こんにち、は?」
目をしょぼしょぼさせるコンラッドの頭は振り子のように揺れている。
「どっちでもいいけど、食事中に寝るのはいけないと何度も言っているだろう」
彼の意味不明な言動には慣れているアンドリューは、彼の言葉はサラリと流して注意を促した。
「ごめん、気を付ける。・・・お腹空いた――」
「ならさっさと食べちまえよ。ホント、お前はマイペースだな」
同じデスクに頬杖をつくバートは呆れ顔でコンラッドを見る。
「・・・・」
コンラッドは、バートに見向きもしなかった。
「無視かよ」
バートは一人、虚しくツッコミを入れた。そんなやり取りを眺めていたユリウスはくすりと笑う。
「面白い人だね」
「いい子なんだけれどね、少しズレているところがあるんだ」
アンドリューが肩をすくめて言う。ユリウスはおもむろにコンラッドへ近づいた。
「コンラッド、話すのは初めてだね。俺の名前分かるかな?」
コンラッドに話しかけるユリウスを見て、バートは半笑いで首を左右に振る。
「ダメダメ。こいつ他人の名前なんか覚えねえから。てか、話すら聞かねえし、通じねえし」
バートがそう言っている中、コンラッドはユリウスに視線を向ける。彼はユリウスをジッと見つめ、おもむろに口を開いた。
「・・・分かる、ユリウス。初めまして・・・俺はコンラッド。よろしく」
ユリウスとコンラッド以外のその場にいた全員が、一斉に目を見開いた。
「何っ!?どういうこと――おわっ!?痛ってぇッ」
バートは驚きのあまり、椅子から転げ落ちた。
「驚きましたね」
普段表情にあまり変化の無いレイチェルも、言葉通り驚いた様子。ラルスは「すげえッ!すげえッ!」と終始飛び跳ね、ルイスは隣で控えめに手を叩いている。
「あははっ!ユリウス、君は本当に何者なんだい?」
ソファーに腰掛けるジュリアンは爆笑し、己の膝をパシパシ叩く。
「素晴らしい」
アンドリューは何故か感嘆の声を上げた。食器を下げていたソフィアとダニエルも手を休め、拍手をしている。
皆の反応に、ユリウスは自分と彼が珍獣扱いされているように思えた。
「そんなにおかしなことかい?」
ユリウスの問いに、ジュリアンが両腕を広げ大げさにリアクションする。
「ああ、そんなにさ。僕はコンラッドが他人の名前を一発で覚えていたところを初めて見たよ」
「って言うより、名前覚えられてんの未だにアンドリューだけじゃね?」
ラルスの言葉に皆、そう言えば。と頷く。
とりあえず、コンラッドというこの青年は何事にも無頓着で、興味を示すものがヒドく少ないらしい。何故ユリウスの名前を覚えていたかは不明だ。
しかし、この時アンドリューもといミハエルは勝手な確信を持っていた。
流石は未来の魔王陛下。その正体が明かされなくとも、彼の凄さがコンラッドの関心を引いたのだろう。
ユリウスを賞賛し一人頷くアンドリューは、はたと当初の目的を思い出した。
「おっと、忘れるところだった。実は君たちに新しい任務の知らせに来たんだよ」
倒れた椅子を元に戻したバートが、やや嬉しそうな表情になった。
「任務?何か久しぶりだな」
「今回の任務に参加させるメンバーなかなか揃ってくれなくてね。やっとユリウス君が戻って来たから、こうして知らせに来たのさ」
ユリウスには、彼の言葉が、自分が懲罰を受けている為に任務が始められないと言外に言っているように聞こえた。ユリウスは少し、苛立ちを覚えた。
ユリウスの美しい微笑みの中に潜む、黒いオーラに気付きながらも、アンドリューは素知らぬ顔でいる。こんなことが出来るのは、かつて同じ経験をしているが故。
「んで?誰が行くんだ?」
急かすバートは、行く気満々だ。アンドリューはこほんッと咳払いをする。
「ええ、では参加者を発表します。そこの今にも飛び出しそうなバート、ここにいないトラヴィスとオードリー、それとラルス、ルイス、レイチェル。そして、ユリウス君の計七名」
レイチェルは少し眉間にしわを寄せて、アンドリューに視線を向けた。
「七人ですか。珍しく人数が多いのは、それだけ危険な任務。ということでしょうか?」
彼女の的を射た言葉に、アンドリューは肩をすくめる。
「そう言うこと。それと、今回は人間と精霊とも一緒に任務を行う。といっても、Dクラスは別行動だけどね」
「それって、一緒にとは言わないんじゃないか?」
首を傾げるラルスがそう言うと、アンドリューは小さく笑った。
「あいつ等が居ようが居まいが関係ねえ。どうせ、汚ねえ仕事を押し付けられるのは俺たちだ」
不満いっぱいの表情バートは吐き捨てた。アンドリューは眉を下げ、小さく息を吐く。
「そして、悪いけど今回もそんな感じの仕事なんだ。君たちの任務内容は彼らのサポート。ちょっと敵地に乗り込んで、敵の数を減らしてくること」
レイチェルは、さらに眉間にしわを寄せた。
「・・・それはサポートというレベルではないのでは?」
彼女の・・・いや、この場にいる生徒全員の疑問に対して、アンドリューは苦笑いを返しただけだった。