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銀の王子と碧の姫2


 昼時、Dクラスのメンバー達は宿舎の一階にて昼食を摂っていた。

「そういや、気付けばもう一週間経ってんじゃねえか?」

 スプーンを口に咥えながらバートが言う。

「ええ、丁度今日で一週間になります」

 レイチェルは向かいに座るバートにそう答えて、手元のティーカップを口に運んだ。

「何か、この一週間は穏やかだったね」

 ジュリアンが足を組みながら言うと、隣に座るベアトリスがフォークをテーブルに置いた。

「そうね、任務も無かったし」

「てかよ、あいつはたった一週間の懲罰で、何でお前らは一か月もぶち込まれてたんだ?」

「ふぉうふぉう。ふぁにふぁななにふぁっふぁむあ?(そうそう。何やらかしちゃったんだ?)」

 バートに続いて、パンを咥えたラルスも訪ねた。

「まったく、今さらソレ訊いちゃってくれる?」

 やれやれ、と大きく頭を左右に振るジュリアンの顔は、何やら嬉しそうだ。余程この事について話したかったらしい。

 そもそも、一週間誰もこの話題に触れなかったのが不思議である。

「ハッキリ言おう。僕には何の非もないんだっ」

 力強くそう言うと、ジュリアンは静かにお茶を飲んでいるトラヴィスに向かって、ビシッと人差し指を突き付けた。

「全ては彼の所為だっ!」

 ジュリアン曰く、全ての元凶らしいトラヴィスは、不機嫌そうに彼を睨みつけた。

「俺は共用した覚えはない。お前が勝手にやったことだ」

 フイっとそっぽを向くトラヴィスの態度に、ジュリアンがわなわなと手を震わせる。

「元はといえば、君が命令を無視して勝手に行動したのがいけなかったんだろうっ」

「確かに、俺は命令無視をした。だが、それはお前が命令に逆らった理由にはならない」

「ぐっ・・・」

 最もな意見に、ジュリアンは言葉を詰まらせる。トラヴィスは不敵に笑い、さらに続けた。

「大体、あんなポンコツの命令に従っていたら今頃あの任務に行っていた奴らは全滅していた。命令無視といっても、そのおかげで人間どもは無駄死にせずに済んだんだ。で?俺のどこが悪いだと?」

 ジュリアンは何も言い返せず、唸った。

 トラヴィスの言うとおり、彼の行動のおかげで死者が出なかったのは事実。そして、成り行きとはいえ、自分が命令に逆らったことも、また事実である。

「それとも何か?お前はあのままポンコツの指示に従って無駄死にでもしたかったのか?」

 軽く鼻で笑ったトラヴィスに、ジュリアンは悔しそうに叫んだ。

「トーラーヴィースぅーーーっ!!」


 懲罰の理由を訊いただけだというのに、何故か喧嘩に発展した。周りは面倒なので、誰も止めようとしない。仲間内の小競り合いなど、いつものことなのだ。

 ただ、ずっと続くと流石に鬱陶しい。関係ないバートが少々苛立ちを覚えた頃に、仲裁役が登場。

「はい、そこまで」

 ぱんっと手を叩いて皆の注目を集めたのはDクラスの教師、アンドリューだった。

「どっちの所為でもない。君たちは正しい選択をした。おかしいのは指揮者の実力の無さと、上の贔屓の所為。だから喧嘩はおしまい。いいね?」

 宥める彼は、あくまで学園に非があると言う。とても学園の教師とは思えない発言だが、実情それが真実であり、Dクラスの生徒たちはアンドリュー・バーンズという教師だけは信じている。

 そして、アンドリューの言ったことに納得したのか、ただ萎えただけなのかは分からないが、二人は争いをやめた。ジュリアンは軽く首を左右に振りながらソファーに腰掛け、トラヴィスは舌打ちをして自室に戻っていった。

 その場にいた全員が溜息をついていると、外に通じるドアが開かれた。部屋に入ってきたのは一週間ぶりに帰ってきたユリウスだった。

「やあ、何か空気が重いね。もしかして、お邪魔したかな?」

 にこりとした表情で図ったかのように入ってきた彼に、ジュリアンが話しかける。

「むしろ、なんてタイミングがいいんだ。と褒めたいくらいだよ」

 ユリウスはソファーに腰掛けるジュリアンに視線を向けた。

「それはどうも。やっぱり君も同じクラスだったんだね。改めてまして、俺はユリウス・オルセン」

「僕はジュリアン・アシュレイ。ジュリアンでいいよ。よろしくユリウス」

「よろしく」

 挨拶を交わす二人の間にベアトリスがズイっと入り込む。

「久しぶりね、ユリウス。ねえ、レヴァンちゃん何処にいるか知ってる?」

「・・・まだ諦めてなかったのかよ」

 ぼそりと呟いて、テーブルに頬杖を付くバートの顔は呆れ果てていた。

「ん~・・・、見てないな。多分、ここらの木の上で寝てるんじゃないかな?」

「そう、探してみるわ。オードリー、行きましょうっ」

 ユリウスから情報を入手したベアトリスは、食事を丁度終えたらしいオードリーを呼ぶ。

「う、うんっ」

 急いで椅子から立ち上がったオードリーは、つまずきそうになり、顔を赤らめながら外へ向かうベアトリスの後を追う。

 パタパタと部屋を出て行った彼女等を、ユリウスはやや眉を下げて見つめていた。

 

 ごめんね、お二人さん。と、ユリウスは心の中で謝る。

 謝罪の理由は、何処の木を探しても黒猫はいないから。彼はここに戻った途端、逃げるようにユリウスの部屋へ逃げ込んだのだ。当分、姿を現さないだろう。

 クスリと小さく笑うユリウスは、必死に身を隠すレヴァンに同情しつつ、面白がっていた。



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