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初任務5

 魔族の男は壁に寄りかかり、窓の外を覗く。視線の先には、街人に連れて来られた悪魔混じり達がいる。

「へえー、本当に連れて来たな。余程この街の奴らは、お前に逆らいたくないらしい」

 男はそう言って、無駄に豪華な椅子に座る人物へと視線を向けた。

 改めてその人物を見ると、とてもじゃないが、おだててもふくよかとは言い難いほど醜く太った姿は、まさに滑稽といえるだろう。

「確認するが、依頼で来たのは四人で間違いないな?」

「ああ、そうだ」

 領主は淡々と答えた。彼の口調からして、嘘ではない。しかし―――

(四人ね・・・―――)

 魔族の男は、始め雇った人数を聞いた時、領主が嘘を言っているのではと疑った。それもそのはず、外で待機していた男の手下は全部で九人。当然みな悪魔だ。相手は混じり者らしいが、本物の悪魔に適う筈が無い。

 しかし、屋敷で合流する筈だった外のチームからの連絡は一切なかった。単純に考えて全滅したと思ったが、どうも信じられない。そこで、領主と取引をし、街人に混じり者をこの屋敷まで連れて来るよう仕向けた。実際にこの目で確かめなければ納得ができない。本当は四人だけじゃなく、もっと大勢潜んでいたのではという考えも捨てきれないからだ。もしそうだった場合、また状況も変わってくる。ここからの逃走が困難になる可能性もあるのだ。やはり、敵は正確に確かめておく必要がある。

 そうして、計画通り街人が混じり者たちを連れて来た。それを二階の窓から気配を消して覗き見る。

 実は、彼らがここへやって来る前から巨大な魔力を感じていた。そのときはまだ確信は仕切っていなかったが、今ようやく確信が持てた。手下共は本当に殺られたのだ。あの、銀髪の青年に。

 四人の中で一人だけ別格の強力な魔力を持っている。とても混じり者とは思えないほどの魔力の量だ。しかし、微弱ではあるが確かに人間の気配も感じる。

 奴は一体何者なのか・・・。自分でさえあの青年に勝てるかどうか分からない。いや、戦う必要はない。金目の物を集めたらとっととここからズラかるとしよう。

 いざとなったらこのアホ領主でも人質にするか。

 チラッと椅子に座る領主を見ると、彼は金の壺をせっせと磨いていた。本当、利用していながら思うのもなんだが、こいつは信じられないほどの馬鹿だ。

 まず屋敷に侵入してきた俺たちを見た途端、命ごい。そして、訊いてもいないことをベラベラと話し始める。まあ、そのおかげで混じり者の存在を知ったのだが。そして、こちらが有利に事を運べるよう領主を金で動かし、街人も使って邪魔者を捕えることに成功した。

 しかし、この領主ほど金の亡者はいないと思うくらい、この男は金にがめつかった。金をチラつかせた途端、俺たちを排除するために自分で依頼した彼らを何の迷いも無く、見事に裏切ってみせた。

 実に滑稽すぎる。今後、こいつが役立てることと言ったら逃亡時の盾になることくらいだな。

 

 魔族の男は、持たれていた壁から離れ、領主へと近づく。そして、腰にぶら下げていた剣を抜き、領主の首元へ突き付けた。突然の魔族の行動に、領主は驚愕の表情をする。

「お、お前ッ・・・な、な、何のつもりだッ!!・・・」

 激しく焦り、上擦った声音で領主は魔族に訊いた。その問いに、魔族は冷笑を浮かべ、淡々と答える。

「何を言ってるんです、ご領主。人質に決まっているでしょう」

「――――ッ・・・!!」

 領主の反応に、魔族は声を上げて笑う。

「今さら何を驚く必要がある。この状況で、自分が人質にされる可能性があることぐらい馬鹿でもわかることだ。まさか、本当に自分は安全だとでも思っていたのか?」

「お前はッ!言う通りにすれば金と安全は保障すると言ったではないかッ!!」

 領主のあまりの馬鹿さに、ほとほと呆れ返った魔族は、ため息を吐いた。

「その御めでたい脳みそは、何を根拠に俺の言葉を信じたかは知らんが、俺たちは盗賊だ。常日頃嘘ばかり吐いている。約束など、あってないものだ」

 領主は脂汗でギトギトに顔面を湿らせ、悪魔を睨んだ。そんな領主を見て、魔族は「お前は、本当に滑稽だな」と言って嘲笑う。

 青ざめ、静かになった領主を縄で縛り、部屋に待機していた手下に指示を出す。

「お前たちは混じり者の足止めをして来い」

 二人の悪魔は頷き、部屋を出て行った。ドアから視線を外した魔族は目を細め、窓の向こうを見る。

(さあ、どうやってここから逃げ出そうか・・・)


 

 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ 


 

 その頃、ユリウス達は既に屋敷の中へと入っていた。もちろん上半身を縄で縛られたままだ。街人達は、巻き添えは御免だと言わんばかりに、ユリウス達を屋敷の中へ抛りこんだ後、すぐに引き返して行った。

「――ったく、何で依頼人の家に縛られて戻って来なきゃいけねえんだ」

 バートはブツブツと悪態を吐く。彼はまだ、この状況を理解していないようだ。少し考えれば分かるだろうに。ユリウスは溜息を吐く。

 説明すればいいだけの話だが、それはそれで面倒だ。それに、先ほどレイチェルが説明を途中で切ったところを見ると、どうやらバートは理解力が乏しいのかもしれない。とりあえず、雰囲気的にほおっておくこととなった。

「ねえ、でもこれからどうするの?」

 ベアトリスが不安げに言う。

「そうですね・・・やはりまずは依頼人に直接問いただすべきでしょう」

 静かにレイチェルは答えた。

「本当、何考えてんだッ?あの野郎・・・」

 苛立ちを露わにした声音でバートが言う。続いてユリウスが淡々とした口調で言った。

「何も考えてないんだよ」

 全く感情の籠っていないユリウスの言葉に、バートは少し寒気を感じた。

「とにかく、まずはこの縄をどうにかしないと・・・・」

 そう言って、ベアトリスはガチガチに縛られた縄をどうにか外そうと、両腕を動かしてみる。しかし、縄は全く緩まない。炎魔法で焼いてしまおうかと考えていたそのとき、いきなり無数の氷塊が襲いかかって来た。四人は咄嗟に飛び退き、回避した。急いで氷が飛んできた方向に視線を向けると、魔族が二人階段を下りて来ていた。

「お前たちか、仲間を殺したのは」

 魔族の一人が、怒りに満ちた眼差しで四人を睨みつける。

「そうだけど?それが何か」

 ユリウスの「そんなこと、どうでもいいだろう」というこの態度で魔族の戦闘スイッチがONになった。

「―――ふざけんなッッ!!!」

 怒りの叫びと共に、魔族がユリウスに向かって急接近する。彼は素早く懐の剣を引き抜くと、ユリウスの心臓目掛けて突く。しかし、ユリウスは瞬時にしゃがみ込みそれをかわした。攻撃をかわされ、体勢を崩した魔族の腹を、今度はユリウスが勢いよく蹴り上げる。あまりに威力の凄まじい蹴りを受け、動けずにいる魔族に対し、ユリウスはそのまま体を反転させ、さっきとは逆の足で相手の顔を横蹴り。諸に蹴りを食らった魔族は吹っ飛び、豪華な壁に激突し、壁を破壊した。

「別に、ふざけてなんかないよ?」

 余裕の笑みでそう言いながら、ユリウスは雷を纏わせた人差指で、固く結ばれている縄を焼き切った。

「全く、甘いよね。悪魔混じりを魔封石の手錠じゃなく普通の縄で縛るなんて」

 そう言って、ユリウスは仲間たちに視線を向ける。他の皆も、各々魔法で縄を解いていた。

「甘くないと困ります。魔力を封じられてはどうしようも無いですから」

 レイチェルはそう答え、氷の粒を自分の周りに出現させた。狙いは今、吹っ飛ばされた魔族ではなく、もう一人の魔族。無数の氷が四方八方から魔族を襲う。だが、魔族は瞬時に自分の周りを炎で囲った。炎にあてられ、氷はみるみる溶けていき、水滴になって炎の上に落ちていった。その水滴は蒸発し、水蒸気へと変わっていく。瞬く間に、屋敷の一階は白の世界となった。



「何にも見えねえ」

 バートは目を細め、見えない遠くを見ようとする。

「これは困りましたね・・・すみません」

 レイチェルは自分のせいだと謝罪をした。しかし、別にレイチェルのせいではない。これは敵がラッキーだっただけのこと。運良く炎の上に氷が溶け、水蒸気が発生してしまったのだ。このラッキーに乗じて敵は逃げるか攻めるか、どちらだ?

 ユリウスは目を閉じ、気を集中させる。悪魔たちの魔力を感じる。どうやら、逃げる気はないようだ。

 さっき蹴飛ばした悪魔もそろそろ復活する頃だろう。ユリウスは目を開け、口角を上げた。

「―――さてと、ちょっと遊び相手になってもらうかな?」

 隣にいたバートは、「はっ?」という声を上げたが、彼が次の言葉を発する前に、ユリウスはその場から消えた。

「――ッて、おい!オルセンッ!!てめぇはまた勝手に・・・団体行動を知らねぇのかッ」

 ユリウスの相変わらずな単独行動に、バートは悪態を吐く。

「彼はきっと単独で動いた方が楽なのでしょう。殺られることも無いでしょうし。それより、私たちは自分の心配をする必要があります」

「そうよ。ユリウス君は強いから平気。私たちは自分の身を守らなきゃ」

 二人の言うとおりだ。今のこの状況、危険なのは俺達三人だ。

「確かにな・・・―――――ッ!!」

 バートはそう答えると、突然険しい顔付きになった。彼は殺気を感じ取ったのだ。バートは二人に向かって叫ぶ。

「気を付けろッ!来るぞッ」

 バートが叫んだ瞬間、白い霧の中から突如、雷魔法で作られた三体の狼が出現した。狼たちは鋭い牙をむき出しにして、一番油断をしていたベアトリスへ一斉に食い掛る。

 狼たちの襲撃に、反応し切れなかったベアトリスは動けずにいた。そんなベアトリスをバートが突き飛ばす。

「きゃッ!!――――バートッ!!」

 いきなり突き飛ばされ、軽く混乱したベアトリスは、自分がさっきまでいた場所を見て驚愕の表情をする。そこには、標的を見失った狼たちが、目の前のバートに照準を変え、襲いかかろうとする光景があった。そして、体勢を立て直そうとしているバートに、狼たちは大口を開けて猛突進する。

「バートッ!伏せてくださいッ」

「―――ッ!!」

 レイチェルの呼びかけに、バートは急いで床にしゃがみ込む。

 鋭利な鎌の刃の形をした風魔法が、バートの頭をスレスレに通過した。狼たちは鎌の刃を避けられず、胴体を真っ二つに切断された。狼たちの体は、その場で霧散していく。

「あっぶねぇーな・・・」

 バートは後方にいるレイチェルに向かって呟く。

「あのまま、狼に食い千切られるよりマシでしょう」

 シラッと言い切ったレイチェルを見て、バートは眉間に皺を寄せた。

「お前に首落とされるのも嫌だけどな・・・」

 敵に殺されるならまだしも、仲間の攻撃で死ぬなんて、笑えない。

 バートは軽く息を吐き、気を取り直す。

「とりあえず、この視界の悪さをどうにかしねぇとな・・・」

「そうですね。当然、あちらの方が感知能力は高いでしょうし。このままでは防戦一方です・・・ベアトリス、お願いできますか?」

 レイチェルの要望に、ベアトリスはしっかりと頷く。

「分かったわ」

 ベアトリスは目を閉じ、両腕を広げた。彼女の周りから、徐々に空気が動き出す。風がベアトリスを中心に渦を巻いて、その範囲を広げていった。視界を妨げていた分厚い霧が、風に絡め捕られ、消えていった。

 視界が広がり、ようやく敵を確認できた。敵は魔族が一人。どうやら、もう一人はユリウスが相手をしているらしい。

「さて、これで少しは戦いやすくなったな」

 バートは槍を構え、ニヤリと笑った。



  ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



 ベアトリスが霧を消したその頃、ユリウスは階段付近でさっき蹴り飛ばした魔族と交戦していた。

「―――おや?随分視界が良くなったね」

 どうやら、風魔法で霧を霧散させたようだ。さっきの魔力はベアトリスかな?

 少し気のそれたユリウスに、魔族は構う事なく無数のナイフを投げた。ナイフは一直線にユリウスに迫って来ている。だが、ユリウスは避けなかった。彼は、最初に自分を狙って来た二本のナイフを指の間で受け止め、そのナイフで残りのナイフを全て叩き落とした。

 避ける、魔法を使う、など選択肢は他にもあったが、自らの体でナイフを叩き落とすのが、最も敵に精神的なダメージを与えると分かっていて、ユリウスはこれを選んだ。

「こんな攻撃じゃ、俺を殺せないよ?」

 ユリウスはニッコリと微笑んだ。

「あ、これ返すよ」

 そう言って、二本のナイフを魔族に投げる。向かってくるナイフに気を取られた魔族は、ユリウスの接近に反応が遅れてしまった。ナイフを投げたと同時に魔族の懐へ潜り込んだユリウスは、右の拳に氷の刃を作り出し、横一文字(よこいちもんじ)に敵の(はらわた)を切り裂く。

 ビシャッ――っと、魔族の腸から生温かいものが噴射した。

「ぐあッ・・・ぐ・・・く―――」

 魔族は体に上手く力が入れれず、おぼつかない足取りで後ずさる。

「へぇー・・・頑張ったね」

 ユリウスは魔族を褒めた。何故なら、彼は今の一撃で魔族の胴体を真っ二つに切断する筈だったからだ。しかし、魔族は回避に遅れながらも、体を二つにすることは無かった。

「でも、避けない方が良かったかもよ?だって、物凄く辛いでしょ?今さ」

 魔族は声を出す余力も無く、体をフラフラとさせ、ユリウスを睨むだけだった。そんな弱り切った魔族に、ユリウスは冷笑を浴びせる。

「悲しいね。俺は二度も敵に情けをかけはしない。楽に死ねたチャンスを君は自ら手放したんだ」

 ユリウスは、水魔法で水の球体を作り出し、魔族の全身をそれで包み込んだ。

「―――ッ!!がぼッ・・・ごぼ・・・・ごぽ」

 水の球体にスッポリと閉じ込められた魔族は、息ができず苦痛の表情で、もがき苦しむ。致命傷である腹からは、もがくに連れて、じわじわと血が滲み出てくる。徐々に、魔族の動きが鈍くなり、数分後。ついに動かなくなった。そして、魔族の屍が浮いている球体の中は、彼の血で真っ赤に染まっていた。

「・・・ワインみたいだね。飲む?」

 ユリウスは球体を指で指して、隣にいるレヴァンに話しかけた。

「いるか、そんなもの」

 レヴァンは渋面を作り、そっぽを向いた。

「だよね」

 ユリウスは、ははッと笑って、踵を返す。

「バート達の相手は一人だけだし、加勢は必要ないだろうから、次は二階へ行ってみようか」

「ああ。どうやら、親玉らしき奴は上にいるようだな」

 ユリウスとレヴァンは静かに、階段を上っていった。

 


 ユリウスが去った後、残された水の球体は魔力が切れ、パシャンっと弾ける。

 階段下には、屍を中心に円を描くよう紅色の色水が、鮮やかに床を彩っていた。



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