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初任務4

 街の東、森の奥深く、三人は悪魔の調査をしていた。今のところ、悪魔の姿も人間の姿も見かけない。今日は何も起こらないのかと、思い始めたその時。

「・・・・まずいですね」

 レイチェルが首を巡らせ、辺りを慎重な面持ちで見渡す。

「ああ、囲まれたな・・・」

 バートも辺りを見渡し、ボソッと呟く。彼らは調査中ずっと気配を消していた。だが、それは向こうも同じ。さらに、敵の方が一枚上手だったのだ。三人は緊張を張り巡らせ、警戒する。前後の茂みから彼らを挟み込むように、悪魔が姿を現した。数は全部で五人。三人では少々キツイ数だった。

「さっきからこそこそと嗅ぎ回ってるが、お前ら人間じゃねぇな。混じり者か・・・ここで何をしている」

 悪魔の一人、魔族が三人に問う。

「答える必要はありません」

 レイチェルは、不利なこの状況でも冷静に答える。悪魔は不敵に笑った。

「そうかい。だがな、こっちは邪魔者がいると困るんだ」

 悪魔にとって、バート達が邪魔ということは予想通り、これから街の人間に何かするつもりらしい。

「・・・・邪魔者ね、で?その邪魔者をどうするんだ?」

 バートが挑戦的に訊ねる。

「そんなの決まっている」

 魔族がそう言った瞬間、悪魔たちは目の色を変えた。

「消せ」

 その号令と共に、悪魔たちは一斉に襲いかかって来た。レイチェルは瞬時に結界魔法を発動させたが、悪魔の攻撃を防ぐには強度が無さ過ぎる。もって数秒だ。一瞬でも防いだその隙を狙って、攻撃するしかない。バートとベアトリスは身構え、攻撃のタイミングを計る。魔族の放った炎魔法が結界に衝突する直前、バートは叫んだ。

「レイチェルッ!!結界を一旦解けッ!そんで俺達が攻撃したら直ぐにもう一度結界を張れッ!範囲は狭くていい。強度だけに集中しろッ」

 攻撃が迫っている中、結界を解けなど何を言っているのか。バートの意味不明な指示にベアトリスが叫ぶ。

「ちょっとッ、バート何するつもりッ」

「お前は風魔法を炎に向けてぶっ放せ。俺は炎魔法を掛ける」

 この魔法属性の組み合わせ、推測される状況はただ一つ。

「なッ・・・それって、まさかッ」

「そのまさか」

 バートの作戦は正気と思えなかった。敵の炎魔法を利用しようというのだ。自分たちの魔法で同じことをするより威力は凄いが、ヘタしたらこっちまで被害に遭う可能性が高い。

「作戦の内容は理解しましたが、無謀ですね」

「無謀も何も、相手が五人って時点で無謀決定だろ」

「確かにその通りです」

「じゃ、時間もねえし。やるぞ」

 もう直ぐ目の前まで炎が迫っていた。レイチェルは作戦通り、結界を解く。

「ああーッもう!!」

 ベアトリスは意を決して、風魔法を放った。バートも炎魔法を放つ。三つの魔法が衝突する寸前、レイチェルが再び結界魔法を発動させた。予想通り、いや、予想以上の大爆発が起きた。

 凄まじい炎の威力と爆風で、辺りは焼け野原と化した。五人中、二人の悪魔が動かなくなり、残りは三人。それでもまだキツイ数だった。バート達は、レイチェルの頑張りのおかげで掠り傷程度で済んだが、敵も咄嗟に結界魔法を発動させたようだ。特に目立った外傷はない。今の爆発を防いだということは、それなりの強さだということ。

 オルセンの提案通り、俺達で固まって行動していて正解だった。これで二人しかいなかったら、確実に命は無かっただろう。今でも、命の保証は全く無いが。

「どうする、一対一で戦うか?」

 敵との間合いを慎重に取りながら、バートが小声でレイチェルに訊ねる。

「いえ、それは危険です。お互い、カバーし合える距離で戦いましょう」

 三人は小さく頷き合った。木が燃え、見晴らしの良くなった森に緊張が走る。始めに動いたのは、獣族のチーターだった。彼は、その脚力を生かし、瞬時にバートの懐へ潜り込む。

「――――――――ッ」

 バートは全反射神経を使って、ギリギリ攻撃をかわした。今、一瞬でも動くのが遅れていたら、喉笛を食い千切られていた。額に冷や汗が滲む。

 バートは腿のベルトから三本の棒を引き抜き、慣れた手付きで組み合わせる。完成したのは槍だった。その槍を構えつつ、バートは球体の炎魔法を連続で獣族に放った。獣族が向かってきた火弾を軽やかにかわしていく間に、バートは獣族の方へ走り出す。獣族が最後の火弾をかわした直後、素早く槍で突いた。獣族はそれをかわし切れず、脇腹に深々と刺さった。バートは槍を引き抜き、体勢を崩したままの獣族に雷魔法を放つ。まともに雷を食らった獣族は激しく感電し、プスプスと音をたてながらバタリと倒れた。

「まずは一匹・・・」

 バートはそう言って、一旦息を吐いた。と気が緩んだその瞬間、魔族が後方から風魔法を放ってきた。研ぎ澄まされた風の刃は猛スピードでバートに迫る。気付いた時には、目の前に迫っていた。

 (やばッ―――)

 避けることもできず、ただ風の刃を見つめることしかできなかった。しかし、死を覚悟したバートの目前に、突如光の壁が立ちはだかる。レイチェルの結界魔法だ。

「何を油断しているんですッ。敵は一人ではないんですよ、全員倒してから気を抜いて下さい」

 レイチェルはバートに文句を言いつつ、攻撃の手は休めない。バートに攻撃を仕掛けた魔族に槍の形をした氷魔法を連射する。避け切れないと思ったのか、魔族は炎魔法で対抗してきた。

「おい、こっちも忘れんなよッ」

 バートは遠距離攻撃はレイチェルに任せて、自分は接近戦で応戦する。棲い速度で槍を突いたり振り回したり、実にパワフル且つ豪快な戦闘スタイルだ。彼の戦いにおいての考えは、とにかく相手に攻撃のすきを与えないこと。そのせいで焦り始めた敵は必ず隙を見せる。

 案の定、かわすばかりで一向に攻撃を仕掛けられない魔族は苛立ち始めていた。敵の集中力が欠けてきて、動きが単調になり、こちらも攻撃しやすくなった。

 バートの怒涛の攻撃が続く中、レイチェルが魔族の刺客から風の刃を放つ。それに気づいた魔族は一瞬気を取られ、バートの槍を肩口に食らってしまった。

「ぐッ・・・・クソッ!」

 それでも、魔族はなんとかレイチェルの攻撃を避けた。そして、後方へ飛びのき、バートとの距離を取る。

「ガキがいい気になってんじゃねェー!!」

 魔族はそう言って、バートに火弾を連射し、動きを封じながらレイチェルの方へ猛スピードで向かう。レイチェルは魔族のあまりの速さに攻撃する事も避けることもできず、魔族の蹴りを食らってしまった。そのまま勢いよく地面に叩き付けられたレイチェルは直ぐには置き上げれず、近づいて来た魔族に首を掴まれてしまった。

「ぐッ・・・・」

 魔族はレイチェルに跨り、首を絞めているのとは反対の手を氷魔法で覆い、即席の刃を作った。それを頭上へ振り上げ、醜悪な顔をしながらこう言った。

「ただの混じり者が生きいがるからこうなるんだ」

「レイチェルッ!!」

 バートは急いで助けに向かうが、距離がありすぎる。敵がレイチェルに近すぎるせいでヘタに魔法も使えない。ベアトリスも助けに行きたいが、自分はもう一人の魔族を相手にするので手一杯だ。

 焦る彼らとは裏腹に、レイチェルを見下ろす魔族の顔は勝ち誇ったかのような表情だった。そして、最後に下品な薄笑いをし、勢いよく腕を振り下ろす。

「「レイチェルーッ!!!」」

 二人は同時に叫んだ。レイチェルもここまでかと、瞼を堅く閉じる。

「・・・?」

 しかし、いつまで経っても己にやって来るはずの衝撃が来ない。不思議に思ったレイチェルは目を開き、その瞳に映った光景にただ驚くしかなかった。そう、血を流しているのは自分ではなく、今まさに自分を殺そうとしていた魔族だった。彼は額に短剣が突き刺さったまま、前のメリに倒れた。何が起こったのか、全く状況が飲めないまま、とりあえずのしかかっている魔族の屍を退かし立ち上がったレイチェルの背後から、知った声がした。

「やっぱりこっちに来て正解だったかな?」

 そう言って、颯爽と木々の中から姿を現したのは、優雅に微笑むユリウスだった。そして、その肩には当然のように黒猫レヴァンが居座っている。

「オルセンッ!?お前・・・何でこっちに・・・?」

 レイチェルと同じく驚愕の表情を見せるバートはこちらへと走って来た。

「話はもう少しあとでいいかな?先に害虫駆除しないとね」

 ユリウスはベアトリスと対峙している魔族を一瞥すると、そちらに向けて手をかざす。掌には眩い光が凝縮され、それは金色の矢となって魔族を狙う。それをどこか呆然と眺めていたバートはハッと我に返り、ユリウスを止めに入った。

「おいオルセンッ!何する気だッ近くにはベアトリスもいるんだぞッ!?」

 バートの静止の言葉にユリウスはきょとんとした顔をする。

「そんなこと、見れば分かるけど?それがどうしたんだい?」

「それがどうしたって・・・当たったらどうするんだッ」

 彼の返答にユリウスはさらに不思議だとでも言うような表情をする。

「え?そんなヘマしないよ」

「しないよ。って・・・・」

 バートからすれば、そんなヘマしない方がおかしい。何故なら、敵はベアトリスを挟んで向こう側にいるからだ。魔法を撃てば、どう考えたってベアトリスにも当たる。こいつは一体何を考えているんだ。そんなに魔法に自信があるのか?

 バートが疑心暗鬼になっている間に、ユリウスはさくさくと進めていく。

「ベアトリスさん!そこ動かないでね」

 ユリウスはそれだけ言うと、一度片足でトンッと地面を鳴らした。すると、地面が敵目掛けて一直線に盛り上がっていき、魔族の真下で勢いよく突き上がった。下から跳ね飛ばされた魔族は空中に舞い上げられる。そこを狙って、ユリウスは掌で既に出来上がっていた金色の矢を放つ。矢は、見事に魔族の喉元を突き抜けた。

「・・・・・・」

 一瞬だった。三人はただ唖然とする。そもそも、魔法を二つ同時に発動させることなど可能なのかというところに驚きを感じたし、一発の矢で急所を狙い撃ちしたことは、もう感心するしかなかった。言葉も出ない。天才とは本当にいるのだとこのとき三人は深く心に刻んだ。そんな周りの目など何処吹く風のように気にすることなくユリウスは話し出す。

「さてと、もうこの森には悪魔たちいないみたいだよ」

「お前の方は悪魔いなかったのか?」

「?いたよ。四人ね」

「そうか・・・」

 こっちは結局この人数で三人しか仕留められなかったというのに、こいつは一人で六人・・・なんだか情けなく感じるバートだった。

「それはそうと、レイチェル」

「なんでしょう」

「実は、まだ悪魔いるんだよね」

「お前今いねぇって言ったじゃねぇか」

 ユリウスは軽く溜息を吐く。

「この森には。と言ったんだよ」

 何だかユリウスの口調と馬鹿にしたような目がイラッときた。

「一々お前は紛らわしいんだよッ!!」

 勝手にキレてるバートを無視して、レイチェルはユリウスに先を促した。

「で?他の悪魔はどこにいるんです」

「街の中。正しくは領主の屋敷かな?」

 さらっと笑顔で答えるユリウスだが、言ってる内容は最悪だ。レイチェルはつい、反復してしまった。

「領主の屋敷・・・・」

「それって、不味くない?依頼人じゃないの・・・」

 ベアトリスも少し焦った口調になった。そんな中、ユリウスはまたもさらっと言う。

「あの肉団子の財宝を狙っているらしいよ」

 肉団子って・・・おいおい、どんだけ嫌ってんだよ・・・。バートは段々ユリウス・オルセンという奴が分かってきた。気にくわない奴にはとことん酷いことを言うということ。

「とにかく、依頼人の危機ですから急いで街へ戻りましょう」

 彼らは、真っ暗の深夜の森を駆け抜けた。





「おい、これはどういうことだ」

 バートがどこか怒気を含んだ口調で訊いた。

「どういうことと言ってもね。見たまんまじゃない?」

 ユリウスは、さも興味がなさそうに返す。

 街へ戻って来た彼らの目に映っていたのは、棒きれや、窯、桑などを手に持った街人たちだった。どう考えてもこれから畑仕事をするようには見えない。そもそも、こんな夜中に畑を耕したりはしない。これは一体どういうことなのか。

「おい、てめぇら何のつもりだ」

 バートの問いに街人の一人が答える。

「お前らを捕えろと領主様のご命令だ」

「領主が?何故だ」

「そんなことは知らん」

「何も知らず、何故私たちを捕えようとするのです」

「お前たちは悪魔混じりで、領主様の命を危険にさらす悪党だ。領主様の命令は絶対・・・」

 ユリウス達の正体がバレている。領主が命令と共に話したのだろう。

「ふーん。まあ、悪魔混じりだの悪党だのは置いといて、本音は領主の機嫌を損ねると生活に苦しむからでしょ?」

「・・・・・」

 沈黙を肯定ととったユリウスは一度薄笑いして、両手をひらひらと上げた。

「わかったよ。捕まえれば?」

「なッ!?おいッ、何考えて・・・」

 ユリウスのあまりにも早い降参にバートは驚き問い詰めようとする。しかし、そんな彼をレイチェルは止めた。

「今は彼の言うとおり、大人しく捕まった方がいいでしょう」

「なんで・・・・」

「馬鹿ね、あんた街の人と遣り合う気?」

 ベアトリスが飽きれた目でバートを見る。

「・・・それは―――」

 確かにそうだ。ここで街の奴らと遣り合ってもなんにもいいことなどない。体力の無駄使いなだけだ。

「それに、どうせ私たちは屋敷へ向途中だったんです。変わりはありません。屋敷へ入ってからは、目的が変わるかもしれませんが・・・・」

「それ、どういう意味だ?」

 レイチェルの言わんとしていることが分からず、バートは尋ねた。

「・・・・分からなければ別にいいんです」

「?」

 ユリウスにはレイチェルの言っている意味が理解できた。依頼人が俺たちを捕まえようとしているということは、考えられる理由は二つ。屋敷に侵入した悪魔に俺たちの存在を知られ脅されたか、もしくは金でもチラつかせられ寝返ったか。多分後者だろう。おそらく、悪魔たちは街へ商売にやって来る商人らから盗んだ大金を使って、領主を利用し、それに伴って街人も使い俺たちを排除しようと考えている。さっき相手をした悪魔たちは連携して動いていた。本来三チームで街から金目の物を盗む手はずだったのだろう。しかし、実際は外の奴らは俺たちに殺られ、残ったのは屋敷へ忍び込んだ奴らだけ。そして、街で何も騒ぎが起こっていないため、悪魔は不信に思い、領主から俺たちのことを聞き出した。仲間が戻ってこないことを考えると、殺られたと考えるだろう。そして、相手が手強いと知ると、自分たちが有利に戦える状況を作ろうとする。それがこの結果。俺たちを街人に捕まえさせ、屋敷へ連れて来させた後、始末をする。

 ユリウス達は街人に縄で縛られ、屋敷へと連れて来られた。屋敷の門がゆっくりと開く。


―――まあ、盗賊にしては頭を使ったと思う。でも、これが成功するかどうかは・・・・どうだろうね?

 

 ユリウスは目の前の屋敷を見据え、笑った。

 

 

「漆黒の世界」ブログでは、「銀色の悪魔」「猫旅」以外に、新しく「召喚騎士」という作品を連載しています。よろしければお読み下さい。

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