表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

旅の理由は?

美少女もとい美少年、いえいえ、美青年のアレン=レイフォートは大変行儀が宜しい。


「お食事までありがとうございます」


「うん、ああ」


俺の取った部屋に着くや否や、直立から頭を垂れた。夕食を奢ったと言っても、俺の身形に遠慮してくれてか、はたまたその年不相応に小さな身体に相応で少食なのか、俺の財布は大した痛みを感じなかった。


「でも、宿代まで奢って貰って……」


反して部屋に着くなりベッドにべっどり身体を倒した誰かさんが見倣うべき彼の礼儀の正しさには、誰かさんの心の方が痛みます。


「だから、君は俺の命の恩人なのだよ、アレン君。そんな所に立ってないで君も寛ぎたまえ」


相手が年下と言うことで大分偉そうな俺の命令にしっかりと従って、俺の向かいのベッドに座った彼。


しっかり正座である。しっかり俺を正視である。


「足くらい崩せよ」


彼の寛がない身体に俺の寛ぎたい精神は敗れ、苦笑いと共に身体を起こす。


まぁ、俺だって見知らぬ年上のお兄さんと同室で一晩過ごさなければならなくなったら、それなりには態度を改めるだろう。しかし、ベッドから足を投げ出すか、胡座を掻くくらいの失礼はするだろう。相手が国王様とかお偉いさんじゃないんだからさ。


ベッドの上で胡座を選択した俺は取りも合えず煙草を口へ。


次に、まるで木の下を通る人間を恐々と観察する小鳥ことアレン=レイフォート君を観察仕返して見ることとする。



怖い教師を前にした学生のように真っ直ぐ伸びた背筋だが、身体は小さい癖にその姿勢が上官を前にした軍人さんが如く妙に納まる。

皺なんか気にする事なぞ永遠に来なそうな張りのある肌。肩まで垂れた髪は切り時を逃していると思うが、お手入れ万全のお嬢様方よりも光沢に満ちている。そして、髪とお揃いな色、結構珍しき金色の瞳。


そして剣に優れ、魔法に長け。まるで何かの英雄伝のヒーローに成れそうな人物。


「あの、ネイストさん?」


俺の不躾な視線に、瞳の逃げ道を探し惑い、耳を染めて俯く様よ。この気の弱さと可憐さの度合いを少し減らせばの話。ヒロイン志望ならば、後は度胸と技量次第では名門劇場の大舞台にも立てる容姿を持ってるが。


「あの聞いても良いですか?」


「どうぞ、何でも聞いてくれ」


俺は重々しい観察合戦には少々うんざりしてきている。楽しいお喋りは大歓迎しよう。


「……まず、あの時、何をやられたんですか?」


ウン、あの時?俺は何かやらかしましたっけ?主語の無い会話に分かりかねる微妙な顔を向けてみた。


「あの……実はネイストさんがあのオニグモに何かを呟き手を翳した途端に、オニグモ達がまるで動かなくなったのを見てしまいまして……」


ああ。あの格好悪いシーンを見られちゃったのね。うん。


「オニグモさん達にちょいと待ってくれって頼んだら、待ってくれた」


正直に答えたのに眉をしかめるアレン君。


「子供扱いしないで下さい。あれは時元魔法もしくは、空間魔法の類いですよね」


「ちげぇよ」


凄い真剣な眼差しでとても面白い冗談です。


「誤魔化さないで下さい。……あっ!もしかして、国定一級をお持ちじゃないんですか?あの……それなら、この事は黙っています」


誤魔化してはいない。ついでに時元魔法、空間魔法等の使うにはかなりの危険を伴う魔法を無断使用しても国に逮捕されない国定一級魔術士資格というものはお持ちではありません。因みに、もし、アレン君が密告したところで、国に三級と認定されている俺が、現在の国定一級資格者達ですら発動出来ないと名高い、それこそ伝説級な高等魔法を無許可使用出来たと信じる者も居ないだろうさ。それだけの魔才があれば、俺は迷わず一級資格試験に挑戦するし。


それにしても、アレン君はとっても実直な御性格なようだ。


「あの、お願いがあります。僕に時元魔法を教えて下さい」


こう、一度思うと真っ直ぐと進む。大変好ましい態度ではあるね。


「ごめん。ムリ」


「……それは、僕には素質がないと言う意味でしょうか……でも、僕は時元魔法を覚えたいんです。どんな辛い事でも耐えます。お願いします!」


必死なところ大変に申し訳ないが、俺は弟子は取らない主義なのだ。況してや、自分の知らない事は教えない主義なのである。


「何で時元魔法なんて知りたいんだ?」


はっきり言って、国仕えの魔導研究者が求める続けている代物で、現代まで、セイン=セレミスが神の力を借りて行使したという言い伝えしかないのである。そんな伝説級の時間を操る術は、使えるもんなら頼りたいと思う人は多かれど、必死にそれを求めて縋りたい人は、大抵過去に一物抱え込んでるものである。


「それは……過去を変えたいんです……」


だから、さっきの疑問を口に出してしまったのは大いに失態だ。興味だけで人の傷に塩を塗り込んではいけない。


少しは親しんでくれた仲も、俺の不躾な質問に俯いてしまったアレン君に、またしても重苦しい物に。ここは、過去を変える為に頑張れよと励ましてみたり、過去を変えるなんてとんでもないと諌めてみるべきなのか。


「……ライシスさんは何で旅をしているんですか?」


今の吸い辛い空気を払拭、会話を繋ぐ助け船が出てきた。なれども泥船。


「えっと、きっとライシスさん程のお方なら立派な御理由があるのかと……」


過去を変えたいとほざく彼程の重い理由なき、俺が固まった理由をどう取ったやら……。


この子、錐の如く真っ直ぐだ。泥船に真っ直ぐ穴を空けてくれたよ。



えっと、リュックの中に取り置きのウィスキーが……。


「アレンも呑むか?」


「あっ、良いです」


残念ながら、コップが無いので瓶ごと差し出せば、手を振られ、断られる。

素面で話す勇気も無い無能な男の話は酒の肴にはぴったりなのにね。



まぁ、水で薄めずにその瓶をぐぃっといけば、急激に熱くなった喉で言えるのは、相手の底知れない傷の瘡蓋を好機心で剥がしたら、塞ぐ自信はないが、自分の見るにもちっこい傷の瘡蓋は直ぐに塞がるだろうと分かってるって事。


「言っとくけどさ、つまんねぇ男の、つまんねぇ話だぞ」


それでも俺が話安くするための前置きした注意深さ。真剣な面持ちで頷き、足を正すアレン君、ここは気楽に聞いてくれよ。


どうせ、一晩限りの付き合いなんだ。出来るだけ愉しく過ごそうぜ。たまには俺を笑って貰うのも良いかもしれない。


俺が嫉妬するほどの才を持ちしアレン君よ。それは言わないけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ