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運命的な出会い?

“大神オシリスの宣託を授かり、救世の旅へと出た賢者。ある時、小さき村を救うため、幾千の魔物の群れに挑む。さしもの賢者も苦戦を強いられたが、彼の人を救おうという強き心に導かれ現れた者、賢者を救う。


己の剣腕の優れるに神の道を外れし外道と成り下がりし者。賢者の清きに心を改め、賢者を生涯の義兄と仰ぎ、賢者と共にこの世を救う勇者となる。


この有名な話の様に、一度神の道を外れた者出会っても、神は見捨てない。そして、神は賢者の姿を借り勇者と出会い、正しき神の道へと導いたのである”


セレミス教大司教カミル=ハウゼン、教託より

シーベルエ建国暦千九百八十七年、春月四十四日。


今年の冬は例年に比べ酷く寒かった。その冬が出張り、今年の暦上の新年は珍しく雪で迎え、自然界上の春は二十日も遅刻してやって来た。


そんなお寝坊してやっと満開になった花々で彩られた森。春風が咲き誇る花の薫りを届ける心地好く吹き抜けている。


その爽やかなる風の列を横からぶったぎるのは、汗でベトベト、激しい息遣いな俺の顔。春風さんにこの汚ない顔で行列を乱してゴメンね、と謝るポエットな傍目に痛々しい行為をしたいが、遺憾千、只今、珍しく大変先を急ぐ俺は足を止められないのだ。もし、貴方達が俺の足を止めさせてくれるならば喜んで謝罪をしよう。


しかし、春風が俺の謝罪を望むはずもなく、後ろから聞こえる足音達から逃げる俺はどこ吹く風である。


こうなったらダメ元で神様にでも頼みましょうか?でも、神様はこんな善良な人間である俺を苛めるのが大変お好きな方らしいからなぁ。



故あって故郷を旅立ち半年。お財布の中身が少々心もとなくなってきた俺が立ち寄った田舎宿屋の旅人向けの求人掲示板にて、この金貨三枚の楽な仕事を見付けた時はその情報をくれた神様と宿屋の亭主に僅かばかり感謝したもんだ。


魔獣。魔力の素、魔素を取り込み過ぎて突然変異した生物の総称。一概に、魔素を求めて他の生物の魔素を含む血肉を求める傾向にある。特に魔素を多く持つ傾向にある俺達人間は彼らの好物である。


そんな魔獣にカテゴライズされ、オニグモと言われる人の顔大の危険な蜘蛛が、この農村近くの森に住み着いたので退治して欲しいと言う依頼。オニグモは剣の腕は中の下、魔法は中の上と各々の師匠達に酷評を戴いた俺でも軽々と退治した経験のある為、何より金貨三枚という破格な報酬に釣られて二つ返事に請け負った。


今はその軽率な返事を後悔している。そして恨む。何故、この田舎にも駐留、もしくは左遷されている騎士団員達がそんな楽な魔獣討伐を旅人に任すのか、何故、そんな魔獣にこんな破格の報償金が付いているのか、良く考えなかった俺自身を……。


そして、感謝してやったのに、天に持ち上げてから地に落としやがった神様。何より、オニグモの数をウッカリしていたのか、敢えて言わなかったのか、教えてくれ無かった宿屋の亭主。お前ら、死んだら化けて出てやるからな。


最も今は誰かを恨むよりは村へ逃げ帰る為に一生懸命に足を動かす事に専念した方が良いに決まっている。こんな片田舎に置かれる騎士団員、腕は期待出来るもんじゃ無いが、俺一人で後ろから追ってくる大群のオニグモを相手にする自信は無い。居ないよりはマシで在ることを願う。


しかし、その俺に残された救世の道すらも断つ神様。今日は大変サディストでいらっしゃいますね?


「嘘だろ、おい」


孤独な一人旅をしていると独り言が増えるものであると実感し始めた今日この頃。でも、今の発言は決して寂しき独り言じゃない。


突然、俺の目前へと木の上から降ってきた三つの物体。各々八個、計二十四個の黒い目玉をギラ付かせ、これまた各々八本、計二十四本の鋭い鉤爪付きの足をワサワサと動かし、これは各々二本、計六本の最大の武器、口角に付いた鋭いギロチンの刃を連想させる触角をギチギチと鳴らす。後ろからはもっと多くの音が聞こえてくる。


全力疾走後の急停止で事態に付いて来れずに肺が痛む中、活路を塞がれた事で俺にしては珍しく考えるより先に身体が動いた。


久しぶりに鞘から抜き放った剣をそのまま真ん中の一匹の頭へ叩き下ろす。奇声を挙げて、気持ち悪い黄色い体液を出した一匹。


窮鼠の反撃に左右に跳ねた二匹のオニグモ。右側の一匹が着地と同時に此方へ鋭い爪を振りかざし跳ね掛かって来る。一か八かに振った俺の剣がその腹を切り裂く。それと同時に左側から掛かってきたオニグモの爪は避け損ねた。


左腕を掠ったそのオニグモへ急造で出来るだけ体内から引き出した魔力を細い雷撃の矢へと変えて眉間へと放つ。


地に伏した三匹のオニグモの遺体に、俺だってやれば出来んだよ。とか、調子に乗ってみたり。


と、のんびり出来る場合じゃあ無かった。この三匹に俺が善戦している間に、俺との距離をかなり縮めた二十匹近くのオニグモの大群。今にも俺へと襲い掛かろうとしている。


「ちょっと待て!」


結構、息がきつかった。責めて息を整えさせて欲しい。そんな願いを声を出し、剣から離した左手を前に突き出す。そんな通じないはずの言語やボディーランゲージが効いた。俺の虚声といきなり突き出した左手にビビって固まるオニグモ達。俺もその偶然に驚きだ。


まぁ、待ってくれてありがとう。出来れば俺が安全圏に逃げるまでそのまま待機して下さればもっとありがたい。


しかし、警戒しながらも俺ににじり寄って来るオニグモ達。やっぱり逃がしちゃくれないようだ。


俺は此処でこいつらに喰われて死ぬのかと思えば何だか笑えてきた。


責めて出来るだけ、道連れを増やしてやろう。もしかしたら、俺でも何とかなるかもしれない。人間死ぬ気になれば、何でも出来るってね。少し自棄になってる俺は剣に左手を添える。


「良し!掛かって来い!」


最後まで見苦しく足掻いてやるよ。そんな想いを込めて力一杯叫んだこの言葉に触発されたオニグモ。


先陣を切った四匹が一斉に俺に飛び掛かってくる。


あ、これは無理だ。さらば、俺よ。恨むぜ、神様。



「助太刀します!」


それは光の如く輝いた金の髪。宙に跳び上がった四匹の黒い影を一振りで八つ裂いた彼女の体躯には合わない大剣。オニグモ達の醜い悲鳴に響いたはその体躯に相応しくソプラノな凛と張った声。


目の前に現れた救世主。赤々と染まった剣をオニグモ達に大振ると、また突然、少女の目の前に盛大な炎が巻き上がる。オニグモ達の断末魔を飲み込んだ盛大な魔法を呆けて見上げるしか無かった俺。


興奮していた。俺が欲しかったものを持つ少女。俺が行けなかった場所に立つ少女。彼女の持つものを羨んでいた。


「あの、終わりました」


燃え上がっていた炎が風に溶けるように消え、その声に見たのは遠慮がちに此方を背丈上、上目遣いに窺う金の瞳。


改めて見た顔は、小さく可愛らしく、染めた頬で口や目元を凛と結ぼうとしている様が見て取れ、それがまた可愛らしい。こんな娘がさっき、騎士団真っ青な剣技を使い、国定一級魔法師真っ青な魔法を使ったと思えない。


「ああ、ありがとう。お嬢ちゃん」



俺の出したお礼に眉を潜め口を歪めた少女。何か御不満なのか?もしかして、その可愛い顔で礼は要らないから金をくれって言うのか?


「あの、僕、男です。一応、成人してます。十六です」


少し落ち込んだ様に言われた爆弾発言。多分、良く間違えられるだろう。十五歳未満の少女に。だが、間違えた奴を責めるのは酷と言うもの。だって、一般的成長期を過ぎてなお、俺の胸元に届かない頭、声変わりをする気配を見せない高い声、何より男らしさの固さを感じさせない柔らかく纏まった少女らしい愛嬌を持つ顔。神が大いなる失態を犯さなければ、彼は女性として立派に生きていけただろう。


「あのう?」


どうにも成人男性と認識出来なく彼の容姿を再び検討していた俺に困ったようにはにかむ少女もとい少年。そんな顔をするから少女に見られると教えてやりたい。


「取り敢えず、助かったわ、あー、……少年?」


命の恩人に申し訳無いが未だ半信半疑である。


「……アレン・レイフォートです。えっと?」


「ライシス・ネイスト。しがない旅人だ。だから、そんな畏まらないでくれ」


生命の恩を売ってもらったのに、此方に頭を下げて名乗る事は無いと思うんだけど?


とにかく礼儀正しい子である。元は深紅に染められていただろう黒ずんだボロボ外套を羽織っているが、凡人離れした貴族令嬢のような雰囲気を持っている。残念ながら、貴族らしき威厳は持たず、どう見ても凡人にしか見えないだろう俺ごときに緊張しているようだが……。


「あのう、ライシス・ネイストさん?」


「好きに呼んで良いが、フルネームは止めてくれないか?」


フルネームで呼ばれるのはトラウマがある。フルネームはあの恐ろしいお方がお怒り時に用いるのだ。申し訳無いが別の呼び方を。


「あっ、ごめんなさい。えっと、ライ、……ネイストさん。あのぅ、一つ聞いても良いですか」


「あぁ、別に謝る必要ねぇし、ファーストネームで良いぞ。後、君は俺の恩人。遠慮も謙遜も要らねぇよ」


此方が配慮する立場。俺、実は国王とかじゃないんだ。頼むから、気軽にね?大分、聞き憎そうにしてるけど、何なら少々のお金なら貸すよ?


「……ここ、何処でしょうか?」


顔を真っ赤に小さな声を出した少年。うん、迷子なんですね?俺は迷子に救われたんですね。


「ここはナールスエンドから南に五十キロほど下った所にある何も無い森だ。……近くに小さい村が在るんだけど一緒に行くか?」


なるべく彼の抱える羞恥心をこれ以上刺激しない様に優しく問いかけた俺。どうやら地理感の無いらしい俺の命の恩人は顔を赤一色に染めたまま、頼り無く小さく頷いた。

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