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deficiendo――sideU






その時感じた違和感は、―――ほんの小さなものだったけれど。




あなたはおしろにいくことになったのよと、かあさまがおっしゃったのはみっかまえのことでした。

どうしてリバティなんだろう。

だってね、リバティはおかしいの。せなかにはねがはえたりね、おててとかのかたちがかわったりするの。

あとね、あとは、おうたがきこえるの。すごく、すっごくきれいなの。

きれいで、きれいなんだけど、でも、そのおうたをきくとむねがきゅってなるの。

なんだろう。すごく……、さみしい、おうた。




このこがこれからリバティのめんどうをみてくれるよって、おとうさまがおっしゃいました。

おとうさまは?おかあさまはっていったら、だいじょうぶだよ、いつでもあえるよって。

うん。そうだよね。ずっといっしょよって、おかあさまはいつもリバティにわらってくださっていたもの。


おとうさまがしょうかいしてくれたこは、すごくとても、きれいなこ。

かみのけはもえてるみたいにまっかで、けれどはんたいにめはこおってしまいそうにまっさお。

まるで、かあさまがいつもよんでくださるえほんのなかのおうじさまみたい。


けれどすごく…そう、さみしそう。


まるでとおさまもかあさまもいつもあそんでくれるメイドのアリーやきれいなおはなをかあさまにってくれるにわしのマイクやいっしょにねてるテディベアのフランソワや…

とにかくまわりにあるたいせつなものがぜんぶなくなっちゃったみたい。

なにもかもきえて(デフィチエンド)なくなってしまったかのような、さみしいうたのひと。



<そう―――それが、最初。>



そのあと、おしろのなかをあんないしてもらってるんだけど、すごくきげんがわるいみたい。

つめたくてさみしいうたがもっとつめたくなって。どうしよう、ってこまってたら、そのこがこえをかけてきたの。

「…着いたぞ。お前の部屋だ。」

「う、うん…えっと、その、じゃなくって、えっと、」

「…別にかしこまらなくてもいいけどさ。それより。」

「?」

「…言いたいことがあるなら言えばいいだろう。質問なり、不平なり不満なり。不愉快だ。」

なんだかよくわからないけど、とりあえず私のせいみたいなので、しょうじきにいうことにしたの。

おとうさまもおかあさまもうそはだめだって、いつもおっしゃっていたもの。

「うたが…きこえるの。」

「は?」

「うた。すごく、さみしそうなの。あなたの、うた…。」



〈その瞬間から彼の歌に混じり始めた、言葉では到底表しきれない激情の全てを。

―――幼い私が、理解できるはずもなく。〉



「そう。…その歌はまだ、聞こえる?」

「ううん。うたはきこえるけど、さみしそうじゃないよ。」

うたがさみしくなくなったのがうれしくてせいいっぱいえがおでこたえたら、そのこも「それは良かった」って

えがおでかえしてくれて。―――やっぱり、わらったほうが、きれい。


「じゃあ、分からないことがあれば何でも聞くように。足りない物や欲しい物があれば、言ってくれれば出来る限りそろえてあげる。」

やさしいことばだったんだけど、なにかが…、なにかが、ちがうようなきがして。

でもそのこがわらってくれたから、きにしないことにしたの。

「まだ名前を言ってなかったよね。俺はヴァルツェ―――ヴァルツェ・セクエンツィア。…君は?」

「リバティだよ。リバティ・インプローヴィス。」

「そう。良い名だね。」



〈その名に刻まれた意味を狩るのが目の前の男だと知るよしもなく…

けれど幼いが故の過ちだと一笑に付すには、―――失ったものが、あまりにも大きすぎた。〉




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