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requiem




血塗られた楽曲を、紐解きましょう。




「…明日?」

いつものように、ヴァルツェが部屋に入ってきても逃げるかのように本に視線を落としていたユトだったが、

告げられた言葉に顔を上げた。

「そう、明日。本当は明後日だってのは百も承知なんだけど、急な任務が入ってね。」

「…ここのところ本当に立て続けなのね。」

「まぁ、お世辞にも賢王とはいえないからね、あのジジィは。」

仕方ないだろう、とヴァルツェはわざとらしく溜息を吐いた。

「…ゆっくり羽を伸ばしておいで。そしたらまた、仕事が待ってる。」


それは、仮初の自由。





「…以上だ。何か質問は?―――無いな?では解散とする。」

―――あと2回日が沈めば彼女はまたその手を赤く染めざるをえない。

変えられない現実に、知らず溜息が出た。

「たーいちょー。いい加減に止めてくんないスか?その溜息。こっちまで鬱になりそーなんスけどー。」

半ば悲鳴じみたディスの声。横でアイスがくすくすと笑っている。

溜息をやめろやめろと茶化すようにいつも言われているがじっとりと睨みつけてくるその視線に、

本当に不快にさせてしまったのだと知る。

「…すまない。」

「まーたユトっちのことスかー?隊長もしつこいっスね。何したって今更あの二人が仲直りなんて出来るはずないじゃないスか。手遅れってやつっスよ。」

彼としては些細な仕返しのつもりなのだろう。けれどその明るい声に笑って相槌を打てる余裕は、無かった。

「………。」

「人間諦めが肝心っスよ、隊長。あぁそれとも隊長って、ユトっちに惚れてるとか?カタブツなあんたでもやっぱし、」

「っお前に、何が分かる!!?」

叫んでしまってその瞬間後悔したけれど、言い訳をする気にもなれなかった。

同僚の顔も見れず逃げるように部屋を出る。

乱暴に閉めてしまったドアの音すらも、まるで己を責めるように聞こえた。



「…なんスか、あれ。」

痛々しいドアの音に肩を竦めると、それまで成り行きを見守っていた金髪の同僚がくすくすと至極楽しげに

笑うのが見えた。

「―――その笑い方、直す気ねっスか?…不愉快っス。」

「あら、失礼。貴方の気を損なうつもりじゃあなかったんだけど、ね。」

そんなことこれっぽっちも思ってなんかない癖にこの道化めと心の中で悪態を付く。

けれど彼女はそれすらも見透かして楽しむように。アイスの笑顔は微塵も揺るがない。

「ただ…、」

「ただ?」

「…いい加減割り切ればいいのに、って思って。」

不意にベリルとサファイアのオッドアイが細められる。何か遠いものを見るかのように、懐かしげに。

「なぁ、あんたは知ってるんスか?―――大将とユトっちと隊長の間に…何があったのか。」

「…そうね…。あれはなかなかおもしろい出来事だったわよ。」

癖のない金の髪、処女雪のような白い肌。流れるように綺麗な線を描く身体。

非の打ち所のない美貌。ちぐはぐな色の瞳はけれど艶めいて輝く。


形の良い唇に見るものをぞっとさせるような毒のある笑みを佩いて。アイスは語る。

「―――ねぇ、昔話をしてあげましょうか?」

「昔話?」

「そう。昔話。…私にとってはただの…暇つぶしにしかすぎなかったけれど…確実に何人かの運命が

狂ったときの、お話。」


それは月に捧げられた歌。


譜面を流れる五線譜は赤黒い血。

敷き詰められた夥しい音符は腐臭を放つ臓器。

演奏は断末魔。

獣をその身に宿す少女は6年。その曲だけを爪弾いて生きてきた。




それは月に捧げられた、悲しき鎮魂歌(レクイエム)






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