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第18話「スピンとロピン」

震える手でテルルフォンを鳴らすスピン。

だが、ベクトガルドはそれを意に介さず、圧縮した二つの「ゼロドラ」をボイドに向かって投げつけた。

ボイドはボロボロの体を無理やり起こし、自身も「ゼロドラ」を凝縮。さらにそれをコマのように高速回転させた。魔力の刃と化した「回転圧縮ゼロドラ」が、飛来する砲弾を迎え撃つ。


ガリガリガリガリッ! ズドオオォォン!


一つを真っ二つに切断し、二つ目は相殺。衝撃でボイドの腕の骨が軋む。

ベクトガルドは感心したように苦笑いを浮かべた。


「兄上、やはり恐ろしい男だ。魔力量はこちらが圧倒しながらも、技術でそれを補うか。……だが、これならどうかな?」


ベクトガルドの周囲に、一つ、二つ、三つ……無数の圧縮されたゼロドラが浮遊し、増殖していく。

ボイドの顔から血の気が引いた。奴は、圧倒的な「量」で押し潰すつもりだ。


ようやくスピンのテルルフォンが繋がる。


『スピン様? ついにマジックワームを捕まえられましたかなぁ?』


呑気な爺やの声に、スピンがキレ気味に怒鳴った。


「ちょっとちょっと! 『女神ロピン』って誰よ! 私がこの世界の唯一の創造主でしょ!? そのロピンって人がボイドの弟を無敵にしちゃって、ボイドが殺されそうなのよ! 意味わかんないんだけどーーー!」


『ええっ!?』


驚愕する爺や。だが、少しの沈黙の後、震える声で答えた。


『ロピン……ああ、ロピン様! なんということだ。ロピン様とスピン様は、かつて合わさったはずなのに!』


「知ってるのね、爺や! 一体あいつは何なのよ!?」


『遥か彼方、一三〇億年以上前のことです。最初は二人だったのです。空間を創造したスピン様と、時間を創造したロピン様。ですが、空間のないところに時間は流れず、時間のないところに空間は存在し得ない。二つの概念はすぐに一つとなり、それこそが唯一の創造主……今のスピン様なのです』


「じゃあ何で、もう一人が地上にいるのよ!」


『それは……ボイドが天界に来た事で、巨大なバグが起きたのでしょう。一つであったスピン様を、再び二つに引き裂いてしまった。……全く、すべて魔王ボイドが原因!なのです!』


その会話を耳にしたボイドは、自嘲気味に笑い、ベクトガルドを見た。


「聞いたか? お前は俺の行動を『正しい』と言ったが、結果はこれだ。俺は憎しみの連鎖を壊そうとして、世界の「法則」まで壊してしまった。その後始末に奔走するのが、俺の現実だよ」


ボイドは残された全魔力を振り絞り、回転ゼロドラを生成する。

対するベクトガルドの周囲には、数十の黒い球が輝いていた。


「兄上、そのおかげで俺はこの力を得たのだ。感謝こそすれ、責める気はない。あとはあんたが俺と同化すれば、より完璧な魔王の誕生だ」


スピンと爺やは超高速で会話を続ける。


「やばいやばいやばい! ボイドが取り込まれちゃう! 爺や、どうすればいいの!?」


『確証はありませんが、スピン様とロピン様が再び一つに戻れば、あの男の力も元通りになるはずです。ロピン様は、ただカレイド・スープが飲みたかっただけなのです。その純粋な欲求が、男の歪んだ願いを鏡のように反射してしまったに過ぎません。スピン様が説得すれば、必ず通じるはずです。ロピン様はあなたの一部なのですから。まずは彼女を探してください、グラを使って!』


「グラちゃん、まだ検索中よ! 間に合わない! ベクトガルドを止めないと!!」


だが、無情にもベクトガルドの手が振り下ろされた。

放たれた無数のゼロドラが、光の奔流となってボイドを襲う。ボイドは最初の数発を粉砕したが、続く暴力的な物量の前には無力だった。

絶叫すら飲み込まれ、ボイドの全身が貫かれ、爆散する。

肉体の大部分を失ったボイドは意識を失い、床に転がった。

それを冷酷に見下ろすベクトガルド。ボイドは物言わぬ肉塊と化していたが、「永遠の命」の加護が、僅かずつ、執念深くその体を再構成しようとしていた。


「フッ。あまりに遅い治癒だが、確かに死にはしないようだな。その力も俺がもらう」


ベクトガルドの手から青白い光が伸び、ボイドの残骸を空中へと引き上げる。

ついに二人が融合しようとした、その時。

ベクトガルドは違和感に気づいた。広間から、あの喧しい女神の気配が消えていたのだ。


「……逃げたのか?」


その直後。ベクトガルドとボイドの間の空間が、紙を裂くように切り開かれた。

隙間から放たれた一閃の輝き。

二人を繋いでいた魔力の糸が切断され、ボイドの体が床へ落ちる。


「な、何だ!?」


裂けた次元の向こうから「オッカムの剣」が突き出され、眼鏡をかけた女性が凛然と姿を現した。

勇者、パウリだ。

パウリの背後に控えるディーヨンがぼやく。


「我の使い方、荒すぎではないか!?」


「いっけぇー! パウリ!!」


女神スピンは拳を掲げ、不敵な笑みを浮かべた。

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