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穏やかな午後の、魔法のジャム作り
エマさんの午後は、台所の窓を開けることから始まります。
「さて、今日は風の精霊さんが機嫌良さそうね」
庭で採れた真っ赤な「ルビーベリー」を大きな銅鍋に入れ、指先を少し動かして微風の魔法をかけます。すると、鍋の中のベリーたちが楽しそうに踊りながら、自分たちでヘタを落としていくのです。
そこへ、ひょっこりと窓枠に現れたのは、半透明の小さな羽を持つ「砂糖の精霊」。
彼らは甘い香りが大好き。エマさんが「少し手伝ってくれる?」と声をかけると、精霊たちはキラキラした粉を鍋の中に振りまきます。これが隠し味。
「ありがとう。お礼に、後で冷めたてのジャムをひと舐めさせてあげるわね」
コトコトと鍋が鳴る音。
湯気と一緒に広がる、甘酸っぱい香り。
エマさんはお気に入りの椅子に座り、編み物をしながらジャムが煮詰まるのを待ちます。
特別な事件は起きません。
たまに近所の子供が「お腹空いた!」と飛び込んできたり、旅の商人が珍しい香辛料を持って立ち寄ったり。
エマさんの魔法は、誰かを倒すためではなく、「今日のご飯をちょっと美味しくするため」にあるのです。




