7話 女郎蜘蛛の凛
どうする?
考えないといけないことが多すぎてどれからすれば良いのかわからない。
まず紫苑にどうやって伝えるか、いや、それ以上に今操られている人たちが生きているのかどうかの確認のほうが先か?
「あなた、見えてるでしょ?」
「!」
呆然と立ち尽くしているとすぐ後ろから声をかけられて咄嗟に距離を取る。
そこにはさっきまで座っていた花嫁―指から無数の糸を出す人形の妖怪が立っていた。
「…お前、誰だ?」
「私は女郎蜘蛛の凛。よろしくね?新郎さん」
「は…?」
コイツ何言ってるんだ?
思わず新郎の方を見て言葉を失う。
新郎は…かつて新郎だったものは頬が痩け、青白い顔色になりながら転がっていた。
「―!」
すぐに駆け寄り心臓と脈の確認をしたが、もはや手遅れだということだけがわかる。
「…お前、どういうつもりだ?」
「どういうつもりって、私は女郎蜘蛛よ?質の高い男を食らって力を得るの。だからこの村で一番の質があるのを食べたんだけど…やっぱり駄目ね。美味しくないわ」
今の言葉でなんとなく、どうして紫苑には見えず俺にだけ見えるのかわかった気がする。
「お前、男から妖怪だとバレることを…隠してないだろ」
「あれれ?バレちゃった?」
凛は眉を吊り上げて不敵な笑みを浮かべる。
「だって私達を祓うのはいつだって巫女だったからね。それだったらはじめから男への防御機能をなくして女からは絶対にバレないようにするほうが効率がいいと思ったの!」
「…」
妙だと思ってた。
どうしてここには男しかいないのか、どうして紫苑が気づかないのか。
まさかとは思ってたけど…そんなのありかよ…
「…随分と沢山教えてくれるんだな」
「だって…どうせアンタ、ここで死ぬんだもん!」
―!
無数の蜘蛛の糸が乱れ技のようにバラバラに飛んでくる。
それにその糸一本一本が…
「…重い」
こんなに硬い糸、いちいち対処してたら先にこっちの刀が折れそうだ。
「さっき言ったでしょ?貴方は私の新郎さんなの!貴方可愛い顔してるわぁ…そういう顔、好みよ」
コイツ…話す余裕があるなんてどうかしてる…
というか紫苑にはこれがどう見えてるんだ?
ちらっと見てみると笑顔で村長と話している。多分、これは女郎蜘蛛が紫苑に―女性に見せている幻覚だ。ならどうすれば…どうすれば紫苑は女郎蜘蛛に気づく?
―隣村の長の―
―祝詞を―
…そうか
俺達は最初から、この男に誘導されてここまで来た。
もしあえて盛大にまつりをしたのが、旅人たちを寄せ付けるためだったとしたら…
一番最初に切るべきは…
大丈夫だ。
慈霊之霞も共鳴して光を出している。
切るべきは…
「ここだっ!慈霊之…霞!」
その勢いのまま村長の後ろ―背中から生えた蜘蛛の糸を断ち切る。
村長はそのまま倒れて動かない。
でも大丈夫だ。おそらく息はある。
「…貴方、面白くない人ね」
「何だよ…!」
速い…速すぎる
この一瞬で俺は無数の糸に縛り付けられて宙に浮いていた。
刀は…下に落ちている。
あれがないと俺は、戦えないぞ…
「バッカじゃないの?あんな使い捨ての男一人消したくらいで何よ?単に私の動きが速くなるだけよ?あっ、それともあのオジンが動かなくなったらあの女が気づいて助けてくれると思った?ざーんねん!あっちからしたら急におじいさんが倒れたとしか思わないわ!」
「よく喋るな…」
「だって…これから美味しくいただく子には愛を持って…でしょ?」
っ―
糸が体に食い込んでくる。
このままだと本当に…
「あの女…巫女でしょ?だから厄介なの。アンタも同じような力あるみたいだけど…」
凛はおかしそうに笑いながら叫ぶ。
「弱いじゃん!」
…そうだよな。俺は弱い。
何も知らない、覚えていない中で、こうやって強い相手と渡り合えるわけがないんだ。
だけど、全身が伝えてくれてるんだよ。
「おいブス」
「は?」
「―っ!」
苦しい…もう息をすることすらしんどくなってきた。
あと少しでも糸を強められたら背骨が折れるぞ…
だけど…
「お前が思ってるよりも…紫苑は強いぞ」
「何言って…!」
そうだよ、全身が教えてくれてるたんだ。
紫苑がいれば、絶対大丈夫だって。
「うちの龍俊に何してるわけ?」
明日も頑張って書きたいと思っていますが、もしかすると間に合わないかもしれません…
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m