4話 願いの祠
この山絶対おかしい。
少なくとも人が住んでいい場所じゃないぞ…
記憶を無くす前の俺はどうしてこんなとこ登れたんだ?
「ねえちょっと遅くない?早くしなさいよ」
「うるさい!俺はこんな山…」
こんな山、切り崩してしまいたいなんて言ったらまた拳骨食らうだろうな…
ギュッと口をつぐんで壁みたいな坂道を登る。
「ほら、あれ」
「え…」
汗だくで着物が駄目になるんじゃないかと思って数分後、目の前に現れたのは山頂にできた洞窟だった。
「どうして山頂に洞窟が?」
「そんなん知らないわよ。でもまあ、隠すためとか防御機能とか、色々考えた結果ここになったんじゃない?」
そんな事を言いながらまっすぐ洞窟へ入っていく紫苑。
慌ててついていくとそこには青白い光をまとって輝く刀が突き刺さっている。
「これアンタなら抜けんじゃないの?」
「何で俺が?」
「アンタが倒れてた隣にこれが刺さってたの。今までこんなものなかったのにね。その時私が触ろうとしたら弾かれたけど…アンタはしっかりと握ってたから」
倒れていながら握ってたってどんだけ大切なものなんだよ?
俺がやったはずなのに、何故か他人事にしか感じないそのことに疑問を抱きながらも刀を触る。
―紫苑…―
「!」
「なんかあった?」
今の…俺の、声?
紫苑には聞こえていないみたいだし…この刀が、話しかけてる?
―守るよ―
刀の光は大きくなり、そのまま俺を包み込む。
やがて眩しさに目を閉じ、また開けたときには真っ白な世界になっていた。
「…ここは?」
―お前は?―
「…俺は龍俊。お前こそ誰なんだ?それでここはどこなんだよ?」
―龍俊…お前、アイツのことどう思ってる?―
「は?あいつって…アレのことか?」
脳裏に血管を浮かせて殴る凶暴な女が浮かぶ。
紫苑のことどう思ってるって…というか何だよコイツ…もっとすごい話期待してたのにここで恋バナ?
「アイツのことは触れたら危険な狂犬くらいにしか…」
―…お前、後で殴られろ―
後でって…
「イダっ!」
「寝言くらい可愛いこと言えないの?」
どうやら俺は眠ってたらしい。
目の前にはやっぱり血管を浮かせて拳を握りしめている紫苑がいる。
「まあ良いわ。それで、なんかわかった?」
「いや…ぜんぜ…」
―じれいの…かすみ―
「!…慈霊の…霞」
「もしかして…それがその刀の名前?」
「もしかしてって…なんか知ってんのか?」
「いや、なんにも」
コイツ…それっぽい反応するならなんか知っとけよ…
「でもまあ、抜けたみたいだし良いんじゃない?」
「えっ、ああ確かに」
刀はいつの間にか俺の手の中でしっかりと握られている。
拒絶されなかったってことは、認められたってことでいいんだよな?
刀に認められるっていう表現が正しいかわからないけど、さっきのことを考えるとやっぱりその言い方が一番しっくり来る。
「…これからよろしくな」
刀はさっきみたいに何か話すことはしない。
だけどなんだか、よろしくって言われた気がするな。
「何考えてんのか知らないけどさっさと降りるよ」
「ええ…さっき来たばっかじゃん」
本当に降りたり登ったり疲れるなぁ…
腰を抑えながらゆっくりと立ち上がると、光の指す方へまた歩いていく。
しばらくは筋肉痛続きそうだな…
これ以上激しい動きをしたら体を壊しそうだからゆっくりしよう。…親父もいつでも遊びに来いとか言ってたしな。
…遊びに来いって、俺はアンタの家族じゃないのかよ
―バゴンッ―
俺の思考を途切れさせるように鳴り響いた轟音とともに、後ろの洞窟が破壊された。
「―!紫苑!」
「…これは…面倒くさいね」
初めて見る紫苑の焦った表情。
目の前には黒く何かウニョウニョした鳥みたいなやつ―妖怪が暴れていた。
次回バトルシーンです!
お楽しみにm(_ _)m