1話 失われた記憶
「父上…」
「凌振様。息子さん連れてきましたよ」
その全く敬意のこもってない言い方を気にせず見透かすように見てくる男―凌振は俺の父親。
…父親、なのかな
この女の子のことは覚えていないが、多分その前にあったことは覚えてる。
凌振は俺のことを捨てた。
多分、捨てた先でこの子にあったんだと思うけど、そのことは全く記憶にない。とにかくこの男は俺のことを疎ましく思っていた。
―俺だって、俺のことが嫌いだ
母親はいない。
愛妻家だった父は他の女に目もくれずに母親のことを愛していた。
やがて二人の間には三人の息子が生まれる。
三人目―俺が生まれる時、二人はきっと幸せの絶頂にいたのだろう。
でもそんな幸せはずっと続かない。
母親は俺を産んだと同時に死んだ。
俺を産んだせいで死んだ。
俺のせいで…
「何しみったれた顔してんの?とりあえず挨拶しなよ」
「は…?お前誰に口聞いて…」
「龍俊、お前は挨拶もろくにできないのか?」
ほらその目、軽蔑する目。
その目を向けられるのが怖くて、期待外れとか呪われた子とか言われるのが怖くて人を遠ざけるように噛みつくような態度を取ってきた。
なのにこの子は…
「紫苑、一年前と何も変わってないようだが?」
「ええ。私のことも覚えてないみたいだし、おそらく記憶がなくなってますね」
紫苑は一旦ため息を付くと俺を見て言う。
「私と過ごした一年間だけ」
ドキッとした
ずっと大切にしていたおもちゃを隠されたときのような、得も言われぬ悔しさと悲しさが入り混じった感覚。
多分、そうさせたのはこの子の―紫苑の目が、同じ感情を孕んでいるから。
「…父上、俺…」
「紫苑、コイツの記憶を取り戻すことはできるか?」
まるで俺がその場にいないみたいに扱いやがってこのクソ親父
「さあ?私はそういうことに詳しいわけじゃないからどうも言えないですね」
「なら…」
「だから、もう少しこっちに預けてもらえないですか?あなたんとこの問題児を」
は?
コイツ、何言ってんだ?
俺だけが理解できないまま話が進んでいくのが悔しいけど、ここで口を挟むほどの勇気もない。
「まるで行くあてがあるような言い方だが、私には言えないのか?」
「言ったら私の首が飛ぶかもしれないですからね」
…わからない
紫苑は笑いながら言ってるけど、白鳳家―将軍家の側近の家を本気にさせたらそんなの容易だってわからないのか?
「ハッ、お前の首を飛ばそうとしたら何人が犠牲になることか」
凌振も同調するということは、それなりの理由があるってことなのか?
二人の間で当たり前になってることは、紫苑の言ってた一年間にあったことなのか?
疑問ばかりが増していく中、来たときのように紫苑に手を引かれる。
「じゃあそういうことで。次来るときも多分手紙とか送らいないけど、許してくださいね」
「私も忙しいのだが…まあ勝手に遊びに来るといい」
…親父ってこんな笑い方するんだ
初めて見る親父の顔になんだか嫉妬する。
息子が見せてもらえないものを、何でこの子に…
「ほら、行くよ」
「えっと…」
この子、本当に自分勝手だな。
俺が何か答える前にもう引っ張ってる。
これからどうなるんだろ?
不思議と楽しみな気持ちを胸に、俺は紫苑に腕を引かれていった。
昨日の今日で書くことができました!!
明日も書けたら良いな…
なんて思いつつ、そろそろ勉強もやらないとマズイので更新が止まるかもしれません。
もしよかったら楽しみにしてくださいm(_ _)m