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81話 ガラポン運試しの結末


 パンフレットによると、ここは地学部のブースらしい。

 部活のフィールドワークで採取したものが主な景品だ。


 手回し式ガラポン抽選器は手作りらしく、温かみのあるデコレーションが随所に施されている。


「お願いします!!」

「は、はい。どうぞ」


 鬼気迫る小学生に若干気圧されながら、受付の男子生徒が小銭を受け取る。

 エリスが健二を振り返った。


「特賞を狙います!! 見ててください、カグ兄様!!」

「うん。頑張って」

「ふん! ……んん? んんんむぅ!?」


 ガラポンが大きすぎて、一番上までハンドルが回せない。顔を真っ赤にして粘るエリスに、慌てて男子生徒が踏み台を持ってきた。


 気合いを入れ直してガラポンを回すエリス。

 しかし、一向に玉が出てこない。何度回してもガラガラと賑やかな音がするだけだ。


「んんんううううう……! な、何で出ないんですか!」

「エリス、ちょっと代わろう」


 次第に泣きそうな顔になってきたエリスを見かねて、健二が前に出た。渋々場所を譲ったエリスの代わりに健二がハンドルを握った途端、ぽろりと赤い玉が落ちてきた。


「おおっ! おめでとうございます、2等が当たりました!」


 男子生徒が教室の奥から小さな箱を持ってくる。中には500円玉くらいの大きさの白っぽい石が入っていた。


 健二は目を凝らし、そしてすぐに瞠目した。


「これは、翡翠の原石?」

「さすが用務員さん。ウチの景品は全部、各地で採取してきた宝石類です。特賞は何と、大きな水晶結晶ですよ!」


 この説明には、健二だけでなく輝夜や千影も驚いた表情になった。

 千影がエリスに言う。


「ねえ、エリスちゃん。1回だけ私がやってみてもいい? こういうパワーストーンに興味があるの」

「……まあ、いいですけど。1回だけですからね。あと、勝つのはエリですからね!」

「心配しなくても、そうそう特賞なんて当たらないわよ。万が一当たっても、クロバラくんにプレゼントするから気にしないで」

「千影お姉ちゃん、それは盛大なフラグのつもりかな?」

「千影さん! さりげなくやっくんにアピールしないでください!」


 ジト目になる美少女ふたりに軽く手を振ってから、千影はガラポンを回した。1回転でガラポンから玉が転がり出た。

 色は――虹色。


「あら?」

「おめでとうございます!! 特賞ゲットです! 素晴らしい!」

「あらあら、まあまあ」


 頬に手を当てて、困惑と喜びが入り混じった表情を浮かべる千影。彼女の手に、ペットボトルほどの水晶結晶が手渡された。


「すごいな、千影さん。おめでとう」

「ありがとう。それじゃあ、はいこれ」


 そう言って、千影はためらいなく健二に水晶を手渡した。「もらえないよ」と断る健二に、千影は水晶越しに健二の顔を覗き込みながら言った。


「これを私だと思って大切にしてね。きっと御利益あるわよ」

「御利益……そういうことなら、大切に保管させてもらうよ」

「ふふ。ずっしり重いでしょう? 想いの大きさだと感じてほしいな」

「ち・か・げ・さん!?」

「ふふふ! エリスちゃんの運の良さって、本当なのかも。ありがとう、エリスちゃん」


 にこやかに告げる千影に、エリスはまたフグのように頬を膨らませた。


「エリだって当ててやる! 今度こそ!」


 ムキになったエリスは、両手でハンドルをつかんでぐるんぐるん回し始める。


「エリス、落ち着いて。手作りの抽選器なんだから、壊れてしまう」

「むううううううう! こんにゃろー!」


 政財界に隠然とした影響力を持つ名家の次期当主らしからぬ、実に子どもっぽい癇癪を起こしながら、ガラポンを回し続けるエリス。

 さすがに止めようと健二が手を伸ばしたとき、かららん……と乾いた音がした。

 他より少し大きめの、金色の玉だった。


 エリスが飛び上がって喜ぶ。


「やったぁ! カグ兄様、金色だよ。ゴールドだよ! 1等間違いなしだよ! どうだ、見ましたか。これがエリの実力――」

「あら? この玉、何か表面に書いてあるわね」


 千影が金色の玉を拾い上げる。中には小石でも入っているのか、じゃらじゃらと音がした。


 玉の表面には手書きでこう書かれていた。


『おめでとう 大ハズレ』


「あの、すみません。それはウチの部員がおふざけで1個だけ入れたハズレ玉でして」

「ふえっ!?」

「元々は音を演出するためのものですが、まさかこれが当たるとは」


 冷や汗を浮かべる受付男子。健二が冷静に尋ねる。


「ちなみに、これは何等?」

「えーっと……もしよろしければ、そのままお持ち帰りください。中の砂は角が取れた綺麗な(れき)ですよ」

「と、いうことだけど、どうする、エリス?」

「むううううううううううう!!」


 もはやフグを通り越して風船のように頬を膨らませたエリスは、肩掛けポーチから本革財布を取り出し、万札3枚を受付テーブルに叩き付けた。


「これで! お願いします! 足りなければ帯封ひとつでもふたつでも!」

「ストップ、エリスちゃん!」

「子どもがそんな大金をほいほい出すんじゃありません!」

「景品全部取るまで諦めないもん!!」

「それもう運関係ないから!」

「むううううっ!!」


 癇癪を起こすエリスに、輝夜と千影が慌てて止めに入った。健二はテーブルから3万円を回収すると、エリスの財布に戻した。

 受付男子が恐る恐る尋ねる。


「あの、帯封って」

「100万円の束だね」

「やっくん、冷静に答えちゃダメ!」


 輝夜に叱られ、健二は「ごめん」と謝った。


 その後、エリスが「ガラポンが壊れてるんじゃないかな!?」と泣きながら訴えるので、健二が素早く調べたところ、抽選器に何の問題もないことがわかった。


 健二は腕を組み、眉間に皺を寄せた。


(おかしいな。これではまるで、玉の方がエリスを避けたみたいだ。あるいは、大ハズレ玉を引くようにあらかじめ運命付けられていたとか。それこそ神がかり的だよな)


「あ、あの、用務員さん。どうでしたか?」

「大丈夫。抽選器は正常だよ。でも何か不具合が起きたら言ってね。すぐ修理に駆けつけるから」

「は……はい。ありがとう、ございます」


 呆気に取られる受付の生徒を背に、健二たちは店を後にした。

 ふくれっ面に疲れたエリスは、すっかりしょげかえっていた。



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