表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/75

51話 心を打つメッセージ


 輝夜と千影は顔を見合わせ、頷き合った。

 それから千影がスマホを操作する。輝夜にも画面が見えるように、テーブルの上に置いた。


 最初に表示されたメッセージは、短かった。


:顔を上げて、涙を拭いて


「クロバラくん。やっぱり私たちのことを見てるんだね。今も」


 千影が呟くと、すぐに返信が来た。


:うん。今も見てる


(珍しいな。やっくんがこんなはっきりと『見てる』って言うなんて)


 輝夜はちらりと辺りを見回した。だが、やはりそれらしい人影は見当たらない。

 どこから見ているのかは考えないようにした。輝夜と千影にとって大切なのは、やっくんがそばで寄り添ってくれているということだった。


:凪砂さんの話は聞いたよ

:引退イベントを中止にするつもりなんだね

:本当に残念だ


「ねえ、クロバラくん。私、あのとき凪砂さんに何て言えばよかったのかな。何て言えば、凪砂さんは思いとどまってくれたのかな」


 千影は、すぐそばに彼がいるとわかっているためか、直接語りかけた。

 普段は大人っぽく落ち着いている千影が、今はすがるような弱々しい声を出していた。その様子に、輝夜は胸を締め付けられた。


 数秒後に届いたメッセージは、輝夜が想像していたよりも現実的な内容だった。


:凪砂さんにかける言葉が見つからなくて後悔しているなら

:それは早く忘れた方がいい


「過ぎたことは気にするなってこと? でも、そんなこと言われても私……」


:喫茶店を出た後、凪砂さんがどんな表情をしていたかわかる?


 ふたりの少女は目を丸くした。

 あのときは衝撃が大きすぎて、輝夜も千影もずっと俯いていた。そのため、去っていく凪砂の表情を見ることはできなかった。


:泣いていたけど、笑ってもいたよ


「笑って……?」


:千影さんは、凪砂さんの告白がショックだったんだよね?

:でも、それって凪砂さんのことを深く思っていればこそだろう

:凪砂さんには伝わっていたんだよ

:千影さんが、誰よりも真剣に凪砂さんのことを思い、慕って、信じていたことを

:だから彼女は笑っていたんだ

:千影さんがいてくれて良かったと、信じてくれて嬉しかったと、凪砂さんは思ったんだよ


「……っ!」


 千影は口元を抑えた。

 大きく嗚咽を漏らし、大粒の涙を流す。

 輝夜はハンカチを取り出して千影に差し出した。すると、すぐに輝夜のスマホにやっくんから「さすがたかちゃんだね」というメッセージが届いた。


(さすがと言いたいのは私の方だよ。やっくん)


 千影がハンカチで涙を拭いていると、おもむろに店長がやってきた。冷たくなった飲み物を、サービスで取り替えに来てくれたのだ。


 店長は、小さなメモ用紙を一緒に置いた。そこにはやっくんの字で、『3番テーブルにココアを』と書かれていた。


 店長は穏やかな口調で言った。


「不思議な、そして優しいご友人をお持ちですね」

「……はい」


 涙を拭った千影が、微笑みながら頷いた。

 店長が去った後、千影は「ありがとう、クロバラくん」と言った。『どういたしまして』と返信があった。


 輝夜は「千影さんだけずるいなあ」と思ったが、口には出さなかった。すると、またやっくんからメッセージが届いた。


:たかちゃんもグッジョブだよ


(もう……。私の考えもお見通しなんだなあ)


 やっくんは他人を思いやる気持ちに長けている。だからこそ、凪砂の表情とその気持ちにも気づけたのだろうなと、輝夜は思った。


 温かく甘いココアを飲んで、千影は落ち着いたらしい。やっくんは千影のスマホにメッセージを送ってきた。


:凪砂さんが12年間走り続けた軌跡は、誰にも消せない

:千影さんが芸能活動の指針とした凪砂さんの言葉や行動は

:千影さんの中に生きているよ

:だから今度は、千影さんがこれからの芸能活動で

:凪砂さんの軌跡を証明していけばいいんだ


「うん。そうだね」


:凪砂さんは決してファンや仲間を軽んじているわけじゃない

:イベント中止の決断だって、相当悩んだはず

:その気持ちは、きっとファンにも伝わっているし、伝わる

:だから千影さん

:君が凪砂さんの代わりに、彼女の気持ちをファンや皆に伝えてみたらどうだろう


「え?」


:不安に押し潰されても、それでもファンに伝えたかった感謝の想い

:きっと千影さんなら理解できるはずさ

:千影さんが凪砂さんの気持ちをファンの皆に伝えれば

:凪砂さんがステージ上で絶望を感じることもなくなるはずだ


 やっくんの言葉に、千影は大きく目を見開いた。


:これができるのは千影さんだけだよ

:凪砂さんが最後の最後に不安を拭い切れないのなら

:ファンの力で吹き飛ばしてしまえばいい

:そのためにも、千影さんがイベントに参加する意味は大きいと思う

:大丈夫

:俺も協力する

:俺が何とかする

:だからもう一度言うよ

:顔を上げて、涙を拭いて

:一緒に、凪砂さんを笑顔にしよう


「うん」


 頷きながら、千影は再び目尻に涙を浮かべた。

 その様子を見た輝夜は、背もたれに深く身体を預けて天を仰いだ。


「敵わないなあ、やっくんには」

「敵わないなあ、クロバラくんには」


 意図せず台詞が重なり、輝夜と千影は小さく吹き出した。


「ねえ、千影さん」

「ええ。そうね。輝夜ちゃん。あれ、やろうか」


 ふたりで決めた、やっくんへのサイン――ハートリップ。感謝と尊敬の気持ちを伝えるために、輝夜と千影は指先を唇に当てた。


 すると、その直後に千影のスマホが振動する。

 一枚の写真がメッセージアプリに添付されていた。


 それは、やっくんがハートリップをしている口元の画像だった。


「~~~~ッ!!?」


 がたたっ、と一斉に立ち上がった輝夜と千影。あやうく振動でカップの中身が零れそうになった。


「こ、こ、これはやっくんの自撮り画像!? 口元だけだけど、ハートリップしてくれてる!?」

「輝夜ちゃん、写真に映っている座席の色で、どの席かわからないかしら!?」

「千影さん、一緒に探しま――」


 はた、と気付く。

 近くのテーブルにいた女性客が、驚いて目を丸くしていた。


 赤面しながら、輝夜と千影は席に座り直す。

 直後、メッセージが来た。


:さすがに恥ずかしいからやめなさい


「はい、ごめんなさい」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ