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18話 見守る夕津姫と手を打つ健二


 ――その日の夜。


 神社清掃の日課を終えた健二は、再び学校を訪れていた。

 輝夜がやり残した作業を引き継ぐためである。


 残業する教師たちだけが残った静かな学校で、健二は気合いを入れていた。


 A(),upane(ウパネ)! Ka() upane(ウパネ)

(一歩上がれ! もう一歩上がれ!)


 A(),upane(ウパネ)! Ka() upane(ウパネ)

(一歩上がれ! もう一歩上がれ!)


 Whiti(フィティ) te() ra()! Hi()

(そして太陽は輝く!)


 自分と合わせて、輝夜を鼓舞する渾身のハカ。

 怜奈たちに嘲笑われたこともあり、健二は踊りやかけ声にいっそう力を込めていた。


 その様子を、窓の外からえびす顔で見つめる神様がいた。


『はぁ……。いつ見てもいいのう、ケンジの踊りは。ゾクゾクするわ』

『……ウチは別の意味でゾクゾクするにゃ。誰かに見つかったらホラーにゃ』

『誰かに見つかったら、か』


 ふと、夕津姫が真顔になる。


『あの娘、怜奈とかいったか。薄らとケンジの姿を認識していたようだな』

『確かに。一瞬だけぼんやりとしか見えてなかったようだけど、もしかして霊感――』

『ぽけーっと浮かれた表情をしよって。あのような輩にわしのケンジは渡さんぞ、雌猫め』

『夕津姫様。それはウチへの当てつけですかにゃ?』


 ネコマタが睨む。しれっと顔を逸らした神様に、ネコマタは続けて言った。


『最近、『影絵の界』が不安定になっている気がするにゃ。たぶん、健二しゃんの感情が前よりも強くなってきている証拠だと思うにゃ』

『ケンジの平穏を守るのはわしの役目じゃもん』

『だったらちゃんと仕事しろにゃん』

『我が眷属が相変わらず厳しい……』


 夕津姫は大きく息をつき、それから頬杖を突いた。神である彼女は、空中でも姿勢が自在だ。


『影絵の界の件……ケンジが長く続けてきた恩返しにも、転機が訪れようとしている兆しなのかもしれん。また降るかな、(ひょう)が』

『あれ? 雹は夕津姫様が降らせているって言ってなかったかにゃ?』

『さあて。どうじゃろな』

『神の風上にも置けない姑息な態度にゃ』

『だからわしは本物の神でありお前の創造主だと何度言えば――まあいい。おそらく、ケンジが自分から姿を見せに行くのなら、相手はあの輝夜とかいう小娘じゃろうが、さて。わしのケンジを受け入れるだけの覚悟が、あの娘にあるかな?』

『そういうの老害ムーブって言うにゃ』

『いい加減泣くぞ?』

『じゃあウチは健二しゃんの隣に行ってくるにゃん。夕津姫様はもう帰って大丈夫にゃ』

『本気で泣くぞ?』


 どこまでもぞんざいな眷属が窓から倉庫の中へ入っていく様子を見ながら、夕津姫は呟いた。


『ケンジ。たとえ加護がなくても、わしはお前の味方じゃ。だから心置きなく恩返しを続けよ。いいな?』


◆◆◆


「……ん?」


 健二はふと外を見た。

 ハカで気合いを入れ直し、これから本格的に作業を始めようとしたときである。窓の外に気配を感じたのだ。


「にゃー」

「……ネコマタ」


 窓の外にネコマタを見つけ、健二は中へ招き入れた。本当に自由気ままだなと健二は思った。

 それから、スマホのメモ帳をネコマタに見せる。


『これから大事な作業があるから、大人しくしているんだよ』

「にゃ」


 わかった、とばかりに短く鳴くネコマタ。

 賢い猫をそばに従え、健二は材料の山に向き直る。そこには、輝夜が組み立てに四苦八苦していた舞台装置が置かれていた。


 健二は説明書を手に取る。


(トライアングラープリズムスクロール式回転背景幕、か。わざと大げさな名前にしてあるんだろうな)


 この説明書については、輝夜の作業を見守っているときから不審に思っていた。幾重にも折りたたまれた紙を丁寧に開き、中身を確認していく。


 そしてすぐに気付いた。

 この説明書、あちこち改ざんされた偽物である。


 よく見ると、ところどころに不自然な線がある。これは、原本の上に別の紙を当ててコピーした跡だろう。

 でたらめな内容のページが混ざっているうえに、ページの順番もわざとバラバラにされている。

 輝夜が混乱したのも無理はない。そもそも、これは説明書として成り立っていないのだから。


 手の込んだ嫌がらせは他にもある。


(このレール、本来は使わないはず。こっちの歯車も)


 健二は、説明書の断片的な情報と放置された材料から、おおよその完成形をイメージできていた。

 そこから、明らかに不要な、あるいは規格の合わない材料を見抜いたのである。


 嫌がらせでここまでするか、と健二は思った。

 だが同時に、怜奈ならやりかねないとも思った。


 単に輝夜を笑いものにしたかっただけの上級生たちとは違い、怜奈には何か根深い怨みがあるように感じた。輝夜の存在をどうしても否定したいという強い意志が伝わってくる。


 健二は無言でレールを脇にどけると、ポケットから怪しいお守りを取り出した。いつもの霊感商品である。


「……ん(これがあれば、きっと九鬼怜奈の心にも効くはず)」

「うにゃ」


 ぺしっ。

 ネコマタが前脚でお守りもどきをはたき落とす。こんなものに頼るなと言いたいらしい。

 健二は少しだけしょんぼりして、お守りもどきをしまった。


 改めて材料の山を見る。

 今のままでも組み立てることはできそうだが、実際に舞台装置として使うには何かが足りない気がした。


 健二は、改ざんされた説明書をスマホで撮影した。怜奈たちの嫌がらせの証拠として使うだけでなく、もうひとつ別の使い道も考えていた。


 健二は説明書の画像にいくつか私見を加え、とある人物にメールで送った。


『彼女』は仕事柄、舞台装置に詳しいはずだ。身近にプロの職人もいるだろう。

 正しい手順、正規の部品を調達できないか相談したのだ。


 すると、夜だというのにすぐに返事が来た。


『了解。私に任せて』


 短いが、力強い言葉。健二は目を閉じて感謝した。


(返さなきゃいけない恩が、また増えたな)


 お礼の返事をしてから、健二はスマホをしまう。そして徹夜覚悟で組み立て作業に取りかかった。

 できるところまでは、仕上げておきたい。


 たとえ最後まで完成できなくても、この作業には意味がある。


 健二は、この件をただの嫌がらせで済ませるつもりはなかった。


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