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14話 まん丸ニコニコ会長さま


 ――翌日の放課後。

 輝夜はある決意を固めていた。


「これ以上、やっくんに助けてもらってばかりじゃダメだ。私も自力で何とかしないと」


 昨日は一晩落ち込み、今日もいつもどおりを装いながら放課後まで乗り切った。

 その間、『やっくん』は何度も励ましのメールをくれた。そのたびに輝夜は、心の中に力が溜まっていくのを感じた。


 彼の言葉はどうしてこう自分の心に響くのだろうと、輝夜はいつも思う。


『やっくん』の言葉があったおかげで、杵築やクラスメイトたちにメンタル不調を悟られずに済んだ。

 だが、このままではいけないという思いも募っている。


 そこで輝夜は行動に出ることにした。

 向かったのは生徒会室。

 まずは生徒会のリーダーである生徒会長に、直接身の潔白を訴えるつもりだった。

「高嶺輝夜が裏で学校を牛耳ろうとしているのはデマである」と、ひとりでも多くの実力者に認めてもらうのだ。


「失礼します」


 生徒会室に入るときはさすがに緊張した。怜奈や与志郎がいたら、また何か言われるかわからないからだ。


 輝夜は室内を素早く見渡す。幸い、怜奈たちの姿はなかった。

 内心でほっと息を吐き、会長席に向かう。

 そこに座っている大柄な男子生徒に、輝夜は声をかけた。


「会長。今、よろしいですか。少しお話があります」

「おー、高嶺たん。お疲れー」

「た、高嶺たん……?」

「や。その方が親しみがでるかなと思ってさー。けど、さすがに下級生の女子を下の名前で呼ぶわけにはいかないしねえ。だから、高嶺たん。どう?」

「は、はぁ」


 曖昧な笑みで応じる輝夜。


 ニコニコとえびす顔を浮かべる生徒会長の名は、那智(なち)ぽん汰。

 冗談のようだが、(れっき)とした本名である。


 まるでどこかのマスコットキャラクターのような名前にふさわしく、ぽん汰は丸々としたふくよかな体型をしている。

 年がら年中微笑んでいる、超がつくほどのんびり屋だ。それでいて、時々濃いめのオタク気質を見せる3年生である。

 ついたあだ名は『ぽんた会長』。

 輝夜とはまた違った意味で生徒から慕われている人物である。


 ぽん汰は言った。


「うーん、緊張をほぐすナイスアイディアだと思ったんだけど、不発だったかー。まあいいや。今ならここにいるの僕だけだから、遠慮なく話してどうぞ。高嶺さん」

「はい」


 表情を引き締める輝夜。

 ぽん汰はどうやら、輝夜が何を話そうとしているか薄々感づいているようだ。さすが、生徒会長になっただけの人物であると輝夜は思った。


 それから輝夜は、掲示板の噂について説明と弁解を始めた。

 記事の削除を行ったのは自分ではないこと。

 自分に学校を牛耳る力はないし、たとえあったとしても行使するつもりは微塵もないこと。

 今回の件で生徒会に迷惑をかけたことを詫びた上で、噂の沈静化に力を貸して欲しいこと。


 高嶺家の令嬢として鍛えられた弁舌を生かし、輝夜は熱心に訴えた。

 ぽんた会長はじっと輝夜の言葉に耳を傾けていた。そして、輝夜が話し終わると同時に、引き出しから一枚の紙を取り出した。


「実は今朝、僕のところに手紙が届いててさあ。クロバラって名前、知ってる?」

「えっ!?」

「あ、やっぱり知ってる子か。その子がね、この手紙で君の無実を訴えてきたのさ。ご丁寧に、君が誹謗中傷されている記事のスクショまで添付してね。しかもだよ、『他の人には僕のことを伏せて下さい』だってさ」


 丁寧な字で綴られた手紙を眺めながら、ぽん汰は感心していた。


「いやぁー、びっくりだね。しびれるよ。今どきこんな古風なやり方を思いつくなんて、送り主はかなりの懐古趣味なんだろうね!」

「やっくんは懐古趣味なんかじゃありません」

「やっくん?」

「あ、いえ」


 輝夜は視線を外した。やっくんのことを他人に話すのは気が引けたのだ。彼との繋がりは、輝夜だけの大切なものである。

 輝夜は頬が緩むのを感じた。


(やっくん。また助けてくれた。ホント、敵わないなあ)


「おやおやおやぁ?」

「なんですか、会長」

「いやー、もうね。何というかね。尊いね! ごちそうさまだよ! 今の君を天翔祭ポスターに採用すれば大盛り上がり間違いなし――なんて、冗だ」

「そのお手紙をいただけるなら考えます」

「君はそれでいいのかい?」

「ください」

「ダメ」


 頬を膨らませる輝夜。ぽんた会長は声に出して笑った。


 それから手紙をしまったぽん汰は、輝夜に向き直った。彼の表情が少し真面目になっている。


「さて、ここからは会長として話させてもらうよ。高嶺さん、君の訴えはよくわかった。こうして嘆願の手紙も届いたくらいだ。本当に根も葉もないデマだったのだろう」


 ただ、とぽん汰は指を立てた。


「今回の件で、学内の一部がざわついているのは確か。それ以上に、我が生徒会内部で歪みが生じている。会長として、あまり好ましくないんだよね。この状況」

「確かに……」

「そこでだ。ほとぼりを冷ますために、君にはしばらく、表だった生徒会活動から距離を置いてもらおうと思う。具体的には、今度のプレイベントでは裏方に徹して欲しい。これは会長としての指示だ」

「それは、しばらく生徒会室には顔を出すなということでしょうか」

「そこまでは言ってない。けど、そうだな……高嶺さんは転校して日も浅い。おまけにこの人気振りだ。今は学友との交流を優先した方がいいかもね」


 プレイベントの件は心配しなくていいとぽん汰は言った。もともと輝夜の転校と生徒会入りはイレギュラーだったのだ。イベントをこなすだけの準備はすでに進められていた。


 ぽん汰がふにゃりと表情を緩める。


「ということでさー、気晴らしにどっか遊びにいっておいでよー。ゲーセンとか、アニマイトとか、コミケのネタ出しにファミレスに籠もったりとかー」

「会長にとってはそれが気晴らしなのですね」

「めっちゃアガるよー」


 ガッツポーズするぽん汰に、輝夜は微笑んだ。


(やっくんと再会できたら、一緒にいろいろな場所を回ってみるのもいいかも。もしかしたら、やっくんも会長みたいにサブカルチャーが好きかもしれないし。コミケのネタ出しが何のことかはよくわからないけど……やっくんが望むなら、何だってしてあげたい。それだけ、私はたくさんのことをしてもらっているから)


 やっくんと一緒なら、きっと何だって楽しい。いつか来るであろう将来をイメージすると、自然と頬が緩んだ。

 その様子を、ぽん汰はえびす顔で見つめていた。


「美少女が悦に浸る姿はいいものですなあ」

「会長、なにか?」

「なんでもないでーす」



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