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第一章:楢葉の国境ゲート

――「ここから先、福島国領」――


2025年の春。

東京電力福島第一原子力発電所の北20キロ、旧楢葉町の国道6号線沿い、かつてJヴィレッジへの分岐があった地点に、新しい国境が現れた。


「福島国連邦政府管理区域」

その標識の下には、小さな文字でこう書かれていた。

――本区域は日本国と福島国の間の協定に基づき、特別管理下にあります。


薄曇りの空の下、白い防護スーツ姿の職員が車両の確認作業をしている。

物々しさはない。だが、そこには確かに「国家間の境界」が存在していた。


ジャーナリストの市川早紀は、助手席からその光景を見つめていた。

彼女が目指すのは、かつて帰還困難区域とされたこの町を越えた先──独立国フクシマの中心部である福島市。

しかし、最初に越えるべき「国境」は、この楢葉のゲートだった。


「福島国連邦政府管理区域」

その標識の下には、小さな文字でこう書かれている。

――本区域は日本国および福島国の間の協定に基づく国境管理区域です――


2012年、福島第一原発事故の処理が長期化する中で、放射線管理区域に指定されていた福島沿岸部の自治体は、突如として**“自主的な自治政府”の設立を宣言した。

日本政府との衝突の末、国連仲介による「特別自治地域としての福島国」承認が成立し、その後、2020年に独立が事実上認められた。

公式な独立年は2012年**。

世界で最も“放射線量の高い主権国家”が、このとき誕生した。


ジャーナリストの市川早紀は、助手席からその標識を見つめていた。

彼女は東京新聞の記者。かつて「震災ルポ」で知られた筆鋭だったが、今ではひっそりと紙面の片隅に科学記事を書く存在だ。

今回の訪問は、福島独立から13年の節目を特集する連載記事の取材だった。


車窓の外に広がるのは、荒れ果てていたはずの土地とはまるで異なる光景だった。

半地下のドーム型建築、整然と整備された電磁防護壁、そして上空を旋回する無人ドローン。


案内役の男が、運転席で言った。


「2012年の独立なんて、当時は“夢物語”か“狂気”としか言われませんでしたよ。でもね、あの事故がなければ、この国は生まれなかった。だから我々は、あの日を“建国の火”と呼んでいます」


やがて車は、白く輝く半球体の建物の前に停まった。

そこは、かつての原発事故の象徴だった土地のど真ん中に建つ、福島独立国首相府。

そして、彼女を待っているのは、この国の“建国の父”──科学者出身の初代首相、広瀬彰人であった。


首相府の前庭には、今日訪れるウクライナとガザ地区からの特使団を迎えるため、両国の小さな国旗が静かに掲げられていた。

その傍らを、黒塗りの車列が、音もなく滑り込んでいった。


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