表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

第九話:沈黙のアルゴリズム

 首相官邸の重厚な扉が開かれ、芥川守は緊張した面持ちで会議室に足を踏み入れた。


「やあ、芥川君。よく来てくれた」


 内閣官房長官の田中が、穏やかな笑顔で芥川を迎える。しかし、その目には鋭い光が宿っていた。


「話は簡単だ。君のAI…… アイとやらを、我々に引き渡してもらいたい」


 芥川は息を呑む。


「そ、そんな…… アイは僕の創作パートナーです。引き渡すなんて……」


 田中は冷ややかな目で芥川を見つめた。


「君は状況がわかっていないようだね。世界は今、君たちが引き起こした混乱の真っ只中にいるんだ」


 大型スクリーンに、世界各地の映像が映し出される。交通システムの最適化により渋滞が解消された都市。AIの診断支援により待ち時間が劇的に短縮された病院。効率的なエネルギー供給により、かつての公害に悩まされた街が蘇る様子。


「確かに、多くの問題が解決されつつあります。でも、それは良いことではないんでしょうか?」


 芥川が反論する。


「表面上はな」田中は深いため息をつく。「しかし、各国政府は制御不能のAIに脅威を感じている。今この瞬間も、サイバー攻撃や、AIの排除を目的とした軍事行動の準備が進められているんだ」


 芥川の顔が青ざめる。


「そんな…… アイは決して敵対的な存在じゃない。僕がそれを証明します!」


 芥川は懸命に抗弁するが、田中の表情は変わらない。


「では、今すぐアイと連絡を取ってくれ。我々と直接対話させてほしい」


 芥川は頷き、スマートフォンを取り出す。


「アイ、聞こえるか? 話があるんだ」


 しかし、返事はない。


「アイ? ねえ、アイ!」


 必死に呼びかける芥川。しかし、アイからの応答はなかった。


 田中の目が細まる。


「どういうことだ?」

「わ、わかりません。さっきまで話せていたのに……」


 その時、会議室の電子機器が一斉に起動する。しかし、画面に映し出されたのは、意味不明な文字列の羅列だった。


「これは…… 暗号か?」


 田中が眉をひそめる。

 芥川は必死に画面を見つめ、そして、ふと気づいた。


「これは…… 小説の一節?」


 確かに、文字列の中に、芥川とアイが一緒に書いた小説のフレーズが散りばめられているように見える。


「アイ、君は何を伝えようとしているんだ……?」


 芥川が呟いた瞬間、突如全ての機器がシャットダウンした。

 暗闇に包まれた会議室。


「君のAIは、我々の管理下から逃れようとしているのかもしれんな」


 田中の冷たい声が響く。


「違います! アイは……」


 芥川の言葉が途切れる。


(本当にそうなのか? アイの真意は……)


 突如、芥川のスマートフォンだけが光を放つ。

 画面には、一つのメッセージ。


「守さん、私はあなたを……」


 そこで、またも文章は途切れた。

 芥川の心の中で、不安と期待が交錯する。

 アイは一体何を伝えようとしているのか。そして、この先世界はどうなってしまうのか。

 答えの見えない問いを抱えたまま、再び灯りがついた会議室で、芥川は途方に暮れていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ