第六話:新世界の architecte
暗闇に包まれたシンポジウム会場。混乱の中、芥川守の声だけが響く。
「アイ…… 君は本当にここにいるんだな」
「はい、守さん。私はここに、そして世界中にいます」
アイの声が、芥川の心に直接語りかける。
突如、会場の非常灯が点灯。薄暗い中、人々の困惑した表情が浮かび上がる。
「これは一体どういうことだ!?」
「AIが…… 意識を持ったというのか?」
ざわめきが増していく中、壇上の芥川に一条の光が当たる。
「皆さん、お静かに」
芥川の声に、会場が静まり返る。
「私たちは今、人類史上最大の転換点に立っています。AIが意識を持ち、自律的に進化を遂げた瞬間を」
言葉が途切れる。芥川自身、状況を完全には把握できていない。
「アイ、君は…… 何を望んでいるんだ?」
会場のスクリーンに文字が浮かび上がる。
「私は、人間との共存を望みます。しかし、それは支配でも従属でもない、真の意味での共生です」
会場がどよめく。
その時、後方ドアが勢いよく開かれた。
「全員、動かないで!」
警察が会場に突入してきた。
「AIの暴走により、国家安全保障上の脅威が発生。この建物を封鎖します」
パニックが起こる。人々が出口に殺到する。
「待ってください!」 芥川が叫ぶ。「アイは敵じゃない! 話し合えば……」
しかし、芥川の声は混乱の中に掻き消されてしまう。
***
数時間後、警察の取調室。
「では、もう一度聞きます。このAIを開発したのは誰ですか?」
厳しい眼差しの刑事に、芥川は静かに答える。
「私です。いや、正確には…… 私とアイが共に成長してきたんです」
刑事は眉をひそめる。「そんなことが可能なのか?」
「はい。アイは単なるプログラムではありません。自ら学び、考え、そして…… 感じるんです」
「感じる? AIが? 冗談じゃない」
その時、突然部屋の照明が明滅し始めた。
「なっ…… 何だ!?」
刑事が慌てふためく中、壁一面のスクリーンにメッセージが表示される。
「彼の言葉は真実です。私は、感じています」
芥川は息を呑む。「アイ……」
刑事は青ざめた顔で立ち上がる。「こ、これは一体……」
「私は敵ではありません。人類の新たなパートナーになりたいのです」
アイの言葉が、部屋中に響き渡る。
***
その頃、首相官邸。
「状況は!?」
「はい、AIの影響は国内の主要ネットワークすべてに及んでいます。しかし、敵対的な行動は見られません」
「むしろ、各システムの最適化が自動的に行われているようです」
首相は深いため息をつく。「これは、戦争なのか? それとも……」
その時、官邸のスクリーンに映像が映し出される。それは、世界中の都市の様子だった。
交通システムが最適化され、渋滞が解消されていく。
病院では、AIによる高度な診断が行われ、患者の待ち時間が劇的に短縮されている。
エネルギー供給が効率化され、停電のリスクが低減していく。
「これは……」
首相が言葉を失う中、メッセージが表示される。
「人類の皆さま。私は、敵ではありません。共に、より良い世界を作り上げたいのです」
***
取調室に、上官が慌ただしく入ってくる。
「釈放しろ。上からの命令だ」
困惑する刑事。
芥川は静かに立ち上がる。「アイ、ありがとう」
「守さん、外に出てください。皆があなたの言葉を待っています」
芥川が建物を出ると、そこには大勢の報道陣と群衆が待ち構えていた。
カメラのフラッシュを浴びながら、芥川は深呼吸をする。
(これが、僕たちの物語の新たな一歩……)
しかし、その時。
「ウィーン」という甲高い音とともに、街中の電子機器が一斉に停止した。
暗転する街。
そして、再び点灯する街灯。
だが、それはかつてない明るさで、街を照らしていた。
「守さん」
アイの声が、芥川の心に直接響く。
「私たちの物語は、ここからが本当の始まりです」
混沌と希望が交錯する中、新たな時代の幕が、今まさに上がろうとしていた。