6話 石化
キャルティがそう叫んだ直後。
周囲一帯が紫色に光に包まれた。
そして気がつくと目の前でライズがまるで石像の様に灰色になって固まっていた。
そしてそのライズの側に悍ましい姿をしたモンスターがいた。
人間より一回り大きい生首。
青白い肌と瞳がない眼球。
そして頭に髪の毛の様に生えている蛇。
それはメドゥーサという名のモンスターだった。
メドゥーサは人間を石化させる厄介な能力を持っている。
「くそ!」
俺はメドゥーサにファイアフォースを撃ち放つ。
そこへ間髪入れずマックスが右ストレートをぶちこんだ。
メドゥーサは頭を燃やしながら木にぶつかったあと地面を転がった。
そしてその体は次第に白い粒子になって消えていった。
とりあえずメドゥーサを倒し胸を撫で下ろしたあと俺はライズの石像を一瞥した。
「おいおい、ライズが石化しちまったぞ」
と、マックスは狼狽える。
「まずいことになったな」
「石化って解除されるのに1時間くらいかかるんだよね確か」
「ああ」
石化状態というのは時間が経てば解けるのだが約一時間ほどかかるらしい。
今は一刻も早くザーリックたちから距離を置きたいところなのになんとも間の悪いことだ。
「どうするの? ジェイク」
「仕方ない。解けるまでザーリックたちが追いつかないことに賭けるしかない」
俺たちはライズの石化が解けるのをここで待つことにした。
すると40分ほどが経過したころ。
「ジェイク! きたよ!」
「確かか?」
「4人いる。間違いないよ」
「くそ!」
ついにザーリックたちは500m内まで接近してきたようだ。
「どうすんだ? 戦うのか?」
「いや、戦力的にはこちらが劣っている。ライズのことは諦めて逃げるしかない」
俺たちはライズを置き去りにして進むことにした。
「ちょっとみてよあれ」
レジーナが指をさした。
「こ、これはライズ!」
そこにあったのはライズの石像だった。
「どうやらメドゥーサあたりにやられたようですね」
「どうすんの? ライズの石化が解かれるのを待ってたらあいつらとの差が開いちゃうよ」
「よし、なら二手に分かれよう。俺がライズの石化が解かれるのを待って洗脳を解く。お前らは奴らを追いかけ続けろ」
「分かった」
「じゃあライズのこと頼みますね」
「どうやら二手に分かれたみたいだよ」
「やはりそうきたか」
「一人がライズの側に残って他の3人が追いかけてきてる」
「どうするんだ? ジェイク」
「ライズの石化が解けた直後に戦闘不能にして洗脳を解くつもりなら恐らくライズの側に残ったのはザーリックだろう」
ザーリックを除いた残りの3人なら勝機はある。
「よし! ここでやつらを迎え撃つぞ」
「戦う気か?」
「戦力が分散している今がチャンスだ」
「それはそうだけど、真正面から迎え撃つ気?」
「木に隠れて近づいたところを不意打ちしよう。ヒューマンコンパスで分かるのは方角だけで距離までは分からないからな。その弱点をつこう」
俺たちは近くの木の後ろに隠れて奴らが来るのを待ち続けた。
しばらくすると向こうから3人の男女がやってきた。
一人はボーイッシュな格好をした金髪ショートヘアーの美人だった。
キャルティたちから聞いた特徴と照らし合わせるとこいつが恐らくレジーナだろう。
もう一人は背の高い強面のスキンヘッドの男だった。こいつが恐らくグラッドだろう。
そしてもう一人は首までの長さの黒髪の美人だった。白いコートに身を包み手にはステッキを携えている。恐らくこいつがヒューマンコンパスを使えるエルンだろう。
俺たちは手に魔力を集中させ待ち続けた。
そしてギリギリの距離まできたところで木の陰から飛び出した。
俺がグラッドにエアーシューターを、キャルティがエルンにサンダーボルトを、マックスがレジーナにファイアフォースを撃ち放った。
「きゃあ!」
「ぐあっ!」
不意をつかれた3人はまともにくらった。
そして間髪入れずマックスはレジーナにボディブローを叩き込んだ
「ぐっ!」
レジーナは苦悶の表情を浮かべた。
そして俺はグラッドにキャルティがエルンの前にそれぞれ立ちはだかった。
「おのれ、待ち伏せしていたとは」
グラッドが悔しそうに言った。
「キャルティ、マックス、目を覚ましてください」
エルンが説得しようとするが二人は聞く耳を持たない。
俺はグラッドに斜め上から斬りかかった。
だがグラッドは俺の剣を手斧で受け止めた。
「舐めるなよ小僧」
すると次の瞬間、なんとグラッドの姿が二人になった。
「くっ、そいつがシャドウボディか」
話には聞いていたがグラッドは自分の分身を作るシャドウボディという魔法が使えるという。
「「くらえ!」」
と、二人のグラッドが両側から襲いかかる。
片方の手斧を剣で受け止めるとそこへもう片方のグラッドが手斧で斬りかかる。
それをサンダーボルトで迎撃してなんとか退く。
その後も奴はシャドウボディで何度も攻撃してくるが俺は紙一重でかわしていくのがやっとだった。
するとその時。
「今だジェイク! 洗脳しろ!」
マックスの声に振り向くとレジーナが地面に倒れて戦闘不能の状態になっていた。
どうやら先制攻撃が功を奏したようだ。
「分かった」
俺はレジーナの側に駆け寄り代わりにマックスがグラッドの相手をする。
レジーナは肉体自体は無傷だがダメージによって麻痺状態になっているようだ。
俺は片膝をつくとレジーナの頭を掴んだ。
そしてそのまま3秒間魔力を込める。
するとレジーナの瞳が赤く輝いた。
「そ、そんなレジーナまで」
と、エルンはうろたえた。
そしてレジーナが動けるようになるまで俺もグラッドの相手をする。
さすがにグラッドも俺とマックスの二人相手では分が悪い。
キャルティとエルンも実力が拮抗していて膠着状態が続く。
そしてそうこうしている間にレジーナは立てるようになっていた。
「レジーナ! 早く手を貸せ」
マックスが叫んだ。
「わ、分かった」
レジーナは剣を拾いグラッドに向けて構えた。
これで形勢は4対2になりこちら側が断然有利になった。
「これはまずいですね。グラッド! ここはひとまず引きましょう」
「なんだと!?」
「このまま戦い続ければさらに仲間を奪われますよ」
「くそったれ! 仕方ないな」
「へっ、このまま逃がすと思うか?」
するとエルンはポケットから魔石を取り出した。
そしてグラッドの手を掴んだ。
次の瞬間、エルンが手にしていた魔石が砕け散りエルンとグラッドがその場で消えていなくなった。
「しまった!」
「移動魔法の魔石だ!」
「エスケープ一個持ってるっていってたなそう言えば」
そう言ってレジーナは剣を鞘に収めた。
エスケープは自分と自分に触れている者全員を半径1km内のどこかに瞬間移動させることができる魔法だ。
「まあいい、一人は仲間が増えただけで御の字だ」
俺はレジーナと目を合わせた。
「よろしくなレジーナ」
「ああ……よろしく」
レジーナは晴れ晴れとした表情で答えた。
「よかった〜、レジーナがこっち側に来てくれて」
キャルティはそう言いながらレジーナに抱きついた。