表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/7

1話 ブレインウォッシュ

なだらかな草原の上を一台の馬車が走っている。


馬車にはビリー少佐とその部下2人が乗っていた。


そしてビリー少佐の傍には脇に抱えることができる程のサイズの宝箱があった。

この宝箱の中に入っているレアアイテムを王宮に持ち帰り陛下の元へ届けるのがビリー少佐達の任務だった。


「はあ……まだつかないんすかね」


部下の1人は不安そうな顔をしながら言った。


「まだデオールまでは5時間ほどかかるだろうな」


と言ってビリー少佐は窓の外の景色に目をやった。


「この辺ってモンスターが多いじゃないですか。さっさと通り過ぎてほしいですよ」



するとその時、馬車に衝撃が走った。


「うわあ!!」


「な、なんだ!!」


ビリー少佐と部下達は慌てふためいた。


そして馬車は動きを止めた。


ビリー少佐達は何事かと思い外に出る。


するとなんと片方の車輪が破壊され焼け焦げていた。


一体何が起こったのだろうか。


するとその時。



「ふっふっふ……」


と、不敵な笑みがどこからか聴こえてきた。


振り返るとそこには5人の男女が立っていた。


5人の男女は冷笑を浮かべながらひたひたと歩み寄ってくる。



もしかするとこいつらの仕業だろうか。


「お前達がやったのか?」


ビリー少佐は尋ねた。


「ああ、そうだよ」


と、背中に剣を背負った黒いコートを着た男が言った。


「きさま! 何者だ!」


部下の1人が声を荒げた。


「ザーリック盗賊団だ」


黒コートの男が答えた。


「なんだと!?」


それは周辺の国々で名を馳せている凶悪な盗賊団の名前だった。

もし本当にザーリック盗賊団だとしたらとても勝てる相手ではない。


「一体なんの用だ」


ビリー少佐が尋ねた。


「ブレインウォッシュの魔導石を持っているはずだ。そいつをいただきにきた」


「なに!?」


それは今まさに本国へ持ち帰ろうとしていたアイテムだった。

こいつらはいったいどこでその情報を掴んだというのだろうか。


「おとなしく渡せば命は見逃してやる」


「ふざけるな!」


部下の1人がそう言った。


するとその時。


黒コートの男が手を前に伸ばした。


その直後、男の手から眩い一条の光が放たれた。


そしてそれが部下の1人の体を貫通する。


「ケビン!!」


部下の1人は血を撒き散らして卒倒し絶命した。


すると今度は黒コートの男の隣にいる女が手を伸ばした。


そしてその手から放たれた電流がもう一人の部下に絡みついた。


「ぐああぁ!!」


もう一人の部下は体を激しく痙攣させる。


そして黒焦げになり地面に倒れた。


「やれやれ、素直に渡せばいいものを」


黒コートの男はそう言いながらにやけた。


「く……おのれ……」


目の前で2人の部下を失いビリー少佐は激しく動揺する。


「どうだ? 渡す気になったか?」


拒めば間違いなく殺される。しかしこのままおめおめとアイテムを差し出す訳にはいかない。


ビリー少佐は意を決し馬車の中の宝箱を脇に抱えた。


そしてポケットからある石を取り出す。


それは怪しげな模様が描かれた石だった。


ビリー少佐はその石に魔力を込めた。


すると石は砕け散りビリー少佐はその場から突然消えていなくなった。




「なに!?」


「消えた!」


「しまった!」


「移動魔法か!」


どうやら奴は瞬間移動の魔石を使って逃げたようだ。


目の前で獲物を逃してしまったザーリック達は少しばかり狼狽えた。


「どうする? ザーリック」


とライズが聞いた。


「落ち着け。もし使ったのがエスケープだったらまだ半径1km圏内にいるはずだ。まだ諦めるのは早い。手分けして探し出すぞ」





俺の名はジェイク。

俺は以前3人の仲間とパーティを組んでいた。


大して強いパーティではなかったがそれなりに楽しくやっていた。


嬉しいことも辛いことも分かち合い力を合わせてモンスターを討伐していくことに充実を感じていた。


3人のことは心の底から仲間だと思っていた。


だがそんなある日のことだった。


俺たちは運悪くとてつもなくレベルの高いモンスターと遭遇してしまった。


俺たちは一目散に逃げようとした。


だが俺は足を滑らして転倒してしまった。


するとそのモンスターの触手が俺の体に巻き付いた。


俺は仲間に「助けてくれ!」と大声で叫んだ。


すると3人は足を止めて振り返った。


だがしかしなんと3人は俺を助けようとはせず再び背を向けて走り出してしまった。


俺は「待ってくれ! 見捨てないでくれ!」と必死で叫んだ。


だが3人の背中はそのまま見えなくなってしまった。


そしてそのモンスターは俺を食べようとした。


だが俺は直前に持っていたアイテムを使ってなんとか九死に一生を得ることができた。


しかし俺の仲間に対しての信頼感は完全に崩れ去ってしまった。


仲間だのパーティだのなんてのは上辺だけ。いざという時になれば簡単に裏切る。


所詮人間とはそういうものなんだと。


それ以来人を信用できなくなった俺は誰ともパーティを組むことなく活動を続けていた。


そして3年ほど月日が経った。



獣人タイプのモンスター、ゴブリンは醜い乱杭歯をむき出しにしながら歩み寄ってくる。


そして携えている棍棒を振りかぶって襲いかかる。


俺はそれを後ろにステップして難なく回避した。


そこへすかさずロングソードで袈裟斬りを喰らわせた。


ゴブリンは耳障りの悪い奇声をあげて倒れた。


その体は灰のように崩れていき綺麗さっぱりなくなった。


するとそこに光る小さな石のようなものが残っていた。


これはモンスターのコアと呼ばれるもので様々な薬の原料になったりする。


俺たち冒険者はこのモンスターを倒して得られるコアを集めてそれを売り生計を立てている。


俺はゴブリンのコアを拾い上げると小袋に入れた。


中には今日手に入れたコアがぎっしりと詰まっている。


今日は調子が良く中々の稼ぎだ。


ならそろそろ切り上げて町にもどろうかと考えていたその時。


「うわーーー!!」


野太い悲鳴が森の中で木霊した。


何事かと思い聴こえた方角に向かって森の中を走った。


すると目に飛び込んだ光景に思わず木の後ろに隠れた。


一人の男がモンスターに襲われていた。


服装を見るとどうやらネルビア王国の軍人とおもわれる。


そして襲ってるモンスターはというと。


身長は2m越え。短い角と牙と紅い眼球。


人間がどんなにトレーニングしてもなれないような隆々とした筋肉。


高レベルの獣人タイプのモンスター、オーガだった。


「ひいい! く、くるな!」


その男は腕から血を垂らしながら必死に抵抗していた。


あのオーガは俺でも倒せるかどうか分からないレベルのモンスターだ。


気の毒ではあるが助けに行く気にはならない。


するとオーガはその男の、両肩をがっしりと掴んだ。


そして男の首筋に噛み付いた。


「ぐああぁ!!」


悲鳴とともに血が噴き出した。


そしてオーガが手を離すと男は力無く卒倒する。


どうやら止めを刺されたらしい。


男が動かなくなるとオーガは興味を失い踵を返してどこかへ行ってしまった。


俺はオーガの姿が完全に見えなくなってからその男に近づいてみた。


身体中が血まみれでとても悲惨な姿だった。


するとその男の傍に小さい宝箱が転がっていた。


俺はそれを拾い中を開けた。


その中には怪しげな模様が刻まれた宝石のように輝く石があった。


「こ、これは……魔導石か」


魔導石とは使用すると新しい魔法を使えるようになるレアアイテムのことだ。


しかし誰でも使えるというわけではなく適正にあったものだけが使えるらしい。


俺はその魔導石を右手に持って掲げてみた。



するとその時。


何者かの声が聴こえた。


『魔導石を手にし者よ。そなたに新たなる魔法を授けよう』


「な、なんだ!?」


突然のことに俺は狼狽えた。


『授かる魔法の名はブレインウォッシュ。他人を洗脳し意のままに操ることができる魔法だ』


「ブ、ブレインウォッシュだと!?」


『発動条件は他人の頭に触れた状態で3秒間魔力を込めることだ。するとその者は洗脳されお前の言うことに絶対服従するようになる』


「……………………」


『ただしもし第三者が洗脳されている者の頭に触れ3秒間魔力を込めると洗脳は解除される。そして同時に洗脳できる人数は7人までだ』


するとその魔導石は突然砕け散ってなくなった。


新たなる魔法。ブレインウォッシュ。洗脳し意のままに操る。


あまりのことに思考がまとまらず俺はしばらく立ち尽くしていた。


するとその時。


「だれだお前は」


その声に振り返ると一人の男がたっていた。


半袖に半ズボンの動きやすそうな格好で頭にはバンダナを巻いており腰には2つのナイフを装備している。


「お、お前こそだれだ!?」


と、聞き返した。


「俺はザーリック盗賊団だ。聞いたことぐらいあるだろ?」


「なんだと!?」


それは近隣諸国で活動している悪名高い盗賊団の名前だった。


「ん? おいおい……」


その男は軍人の死体に気付き歩み寄ってきた。


「見つけたと思ったら死んでんじゃねえか」


男は軍人の死体を一瞥して俺の方を見た。


「お前がやったのか?」


「ち、違う!」


「だろうな。この傷口はモンスターの仕業だ」


男はそう言うと軍人の服を弄った。


「だがモンスターがアイテムを持っていくわけがねえ」


そう言うと俺に鋭い視線を向けた。


「お前が奪い取ったんだろ? こいつの魔導石をよ」


「だとしたらどうする?」


男は腰に装備している二本のナイフを抜いてくるくると回した。


「素直に渡せば痛い思いせずに済むとだけ言っておこう」


「やってみろよ」


俺は背中のロングソードを引き抜いて構えた。


あの魔導石は既に効力を失い砕け散ってしまったのだがそれを正直に話したところでこいつは見逃してはくれないだろう。


「くくく、後悔するぜ」


両者は得物を構えたまましばし膠着状態になる。


























評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ