移住・初回講習
手の震えが治った頃、入って来た後ろの扉が閉まり、前の脇にある扉から人が入った来た。
年齢は40代くらいの優しげな女性だった。目は茶色で、落ち着いたダークブラウンの腰まである髪は緩く編まれていてとても似合っていた。服装は受付の人と同じ制服だった。清潔感のある紺を基調とした制服は白い差し色が、高潔な装いになっていた。
その女性はスマートな足取りで教壇に立つと、にこりと笑い、話し始めた。
「こんにちは。
トライア地区へようこそ。歓迎致します。
これから初回講習をさせていただきます担当は私、ルイーズと言います。この地区で入国審査官兼、相談員もしています。
皆さんにはコーディネーターが一人一人に付きますが、これも何かの縁ですので、私にも気兼ねなく相談してください。サティカには、私とコーディネーターの連絡先は予め入れています。後でその説明もさせていただきますね」
ルイーズさんの話はとてもわかりやすかった。私達の不安や期待をくんで一つ一つ丁寧な説明がある。
どうやら言語によって部屋が別れていたらしく最初にその説明があった。冊子に書かれていることが殆どであったけれど、時々ユーモアを交えながら話すので、退屈はしなかった。
休憩を挿みながら、進んでいく。休憩時間になると、壁際に飲み物やちょっとした軽食まで用意される。至れりつくせりだ。ルイーズさんの話だけでなく。前世の職業適性検査のようなものまであった。
「これから行う検査は、あくまで皆さんの適性を測るものになります。最後に一人一人の適性についてと、この地区のオススメの職業と免許が書かれていますが、必ずその中から選ばないといけない訳ではありません。これはあくまで参考程度で構いません。
ただ、この地区は多くの免許が存在しています。免許を取るとお給料も高くなる傾向があるので、何か資格を取ることはオススメしています」
そう言って、ルイーズさんはサティカを操作する様に指示があった。サティカをするりと撫でるとタッチパネルが現れる。ルイーズさんの説明を聞きながら、操作していく。皆、すぐに慣れていた。読む事が出来ない人に対しては、頭に直接、声が流れる設定も出来るようだ。フォローが凄い。
私も早速してみた。そう言えば就職前にもやったなぁと思いつつ進めていく。これを考えた人は、もしかして、私の様に異世界転移か転生した人なのかな? と思う。
周りの人達も真剣だ。皆が全てアデラストーリーを夢見ている訳ではないけれど、この地区に馴染もうとしているのは伺えた。
検査を終えて、最後のボタンを押すと結果が現れる。
この検査は6つの項目で示される。
A…空間や奥行きを正しく判断する力
B…場面に応じて適切な言葉で表現する力
C…文章を理解して数的な処理を行う力
D…文字や数字を比較して違いを正しく見抜く力
E…図形を見比べて違いを正しく見抜く力
F…眼と手・指を共応させて正しくコントロールする力
それらを元にこの地区でおすすめの職業と資格が書かれていて、資格をタップすると、必要な技能期間、知識、試験内容や訓練施設等詳細が書かれてある。
私の検査結果は、前世とあまり変わってなくてちょっと凹んだ。
勉強は、今世でも頑張った為か平均よりも良い数値だが、B……つまり、場面に応じて適切な言葉で表現する力が、平均を大きく下回っている。咄嗟に言葉が出ないのですよ。はい。サービス業務は向いていないのはよくわかっております。
ホッとしたのは、おすすめの職業に、魔道具師。免許に魔道具作成免許も書かれてあった事だ。
お勧めになくても、選ぶつもりだったが、やっぱりお勧めに示されていると嬉しかった。
「適性検査が終わった人は、これから意向についてアンケートがあります。それを入力したら今日の初回講習は終わりです。アンケートの最後に希望職種がありますが、今の時点で構いません。迷っている場合は、コーディネーターとも相談して、変更も可能です。その場合は1週間以内にお願いします」
移住後、職業の選択によって最長で2年のサポートがある。その間に専門学校や訓練校、研修を受けるのもありだ。インターンシップの様なものもあり、充実していた。
私は、まず魔道具作成免許5級だ!! そのまま5級の講習も申し込めたので登録しておく。
「勿論、最初に選んだ職業から転職出来ないと言う事はないので、まずは興味のあるところから体験してみるのも良いと思いますよ」
魔道具に関しては未知の世界だ。やってみてダメだったら別のことを考えよう。
逃げ道がある事に、気持ちが楽になった。




