食堂
コンコンとノックの音がする。
時間を見ると正午前だった。
楽しい時間はあっという間だ。
私が返事をすると、扉が開き、バネッサが入ってきた。
「フィリア?
もうちょっとでお昼の時間。初期講習は午後イチからだし、早めにお昼ご飯食べちゃいましょう!
ここの食堂中々おいしいのよ? これから住む家は、ここからちょっと遠いんだけど、用事で立ち寄る時は昼はここなんだぁ!
案内するね?」
「はい。ありがとうございます」
お昼だと言われたらお腹が空いてきた。現金なやつである。
書庫室を出て、ダンさんに書庫のお礼を言い、そのまま退出した。
バネッサに連れられて、クネクネ移動する。
うん。バネッサがいないと道に迷うなと思いつつ、少ししたら食欲をそそる匂いがしてきた。
一度建物から出て、アーケードを通る。アーケードに沿って芝生と簡易のベンチがたくさん置かれていて、遠くにはテーブルと椅子がセットで置かれている。上にパラソルがついている所まであった。多分、外で食べることも出来るのだろうと思いつつ、アーケードを抜けると大きな二階建ての建物が見えてきた。
無駄を一切省いたかのような四角い建物は、窓と換気口はあるがそれだけだ。
それに、目の前に扉のようなものはあるが、真ん中で切れ目があるだけで、取っ手がない。不思議に思っていると、バネッサさんは扉の両側にあった腰の高さまである四角柱に、住民パスを近づける。
ピッと言う音と共に扉が開く。
「こんな感じで勝手に開く扉をこちらではオートドアって言うんだけど、大体がサティカが必要なの。
だからこんな風に近づけたらいいからね。許可されてないエリアならブーってなるからすぐ分かるわ。ブーってなっても扉が開かないだけで何もないなら安心してね?」
めちゃくちゃ先進的だなと思いつつ、私も恐る恐るサティカを近づける。ピッと音が鳴り、入室を許されたようだ。
これはどんな仕組みなんだろうか? と興味をそそられるが、とりあえず腹ごしらえだ。バネッサに続いて入室した。
中に入ると更に美味しそうな匂いが充満している。
左手は規則正しく白いテーブルと長椅子が並んでいて、右手側が五つほどのブースに別れている。その上の看板にはメニューがのっていた。
正面には色とりどりの食事が並べられている。どうやら正面のブースはバイキング形式らしい。
「今日は何にしよっか??
気になる食べ物とかある?」
バネッサが聞いてきたので私は迷わず答えた。
「和食に興味があります!!」
こちらでも、和食と言うのかはわからなかったが、バネッサさんには通じたらしい。
「なるほどなるほど!
あっちのブースにラーメンやうどんもあるんだけれど、それは家でも作れるから、今日はバイキングで、少量ずつとってどの味が好きか確認しましょう? 和食ブースはあっちね」
バイキングのブースもいくつかに別れていて、洋食や中華っぽい食べ物がブース毎に分かれているようだ。
バイキングブースの1番奥が和食ブースらしく、そちらで色々選ぶことにした。
和食ブースだけでも何十種類も並んでいて心踊る。
煮物や漬物、汁物に、だし巻き卵、魚の塩焼きから味付けのりまである。
ほー!! こちらの世界に来てから初めての和食である。
嬉しくてウキウキしながら、備え付けの取り皿に盛り付けていった。
空いている席にバネッサと対面で座り、いただきますの挨拶をしてから食べ始める。和食もあるためか箸も常備されていた。
久々の和食……美味であったのは言うまでも無かった。
パリッとした海苔にご飯……それだけで何杯もいける。
シンプルな豆腐とわかめの味噌汁はほっこりした。
だし巻き卵……バイキングだと甘めの卵焼きが多いが、ここはダシのきかせた甘さ控えめだった。私が好きな味。
筑前煮のレンコンはシャキシャキして歯応えがあり、醤油の香りが鼻をくすぐる。懐かしさのあまり、思わず笑みが溢れた。
お腹が空いたのもあって、一心不乱に食べていた。
落ち着いた時に、バネッサが慈愛の目で見ていたことに気恥ずかしくなった。
すっすみません。だって美味しいんだもん。




