書庫室内で……ちょっとズルをする
扉を開けると、木製の無機質な本棚があり、上から下まで一面に書籍が広がる。
私は、高揚しながら周りを見る。
ざっと、題名に目を通すと、この国歴史から法律関係の本が多い。学問に関する書籍も並んでいるが、娯楽本は無さそうだ。
車庫室の真ん中にある唯一の椅子に腰掛ける。
今時計を見ると、昼まで後数時間はあった。
貰った薄い冊子を読んでも、書籍を読む時間はあるだろう。
本を先に読みたい衝動に駆られるが、先ずは冊子の方が重要だと、冊子を高速で読んだ。
◇◇◇
冊子は読み終わった。
そして最初の一冊に手を伸ばす……。読んでいるうちに思い出す。と言うか悪いことを考え始めた。
午後の講習まで数時間、どう転んでもここにある一冊ないし、二冊しか読むことが出来ない。それは物凄く勿体無いことではないか!?
もうここにある書籍さん達とは出会えないかもしれない。
物凄く……物凄く勿体無い!!
フィリアの中で良心と邪心が攻めが合う。
最終的に……邪心が勝った。
そう言えば最近お話ししてなかったなと思いつつ、申し訳なさそうに彼を呼んだ。
「ブレンさん……?」
私がそう言うと、ぐにゃりと前の空間が歪む。
「お呼びですか? フィリア様。
ずーっと忘れられていたブレンにございますよ?」
どうやら、最近呼んでいなかった事を根に持っているようだ。少し前までは、私が呼ばなくてもちょくちょく声を上げていたのに、それも最近めっきり減っていた。
これは怒っている。拗ねている? いや捻くれていそうだ。
ここは素直に謝るしかない。
「すみません。ブレンさん」
「構いませんよ。フィリア様が忙しかったのは十分承知していますし、私も出て来れない理由もあったので」
ブレンさんは私が謝ると、表情を緩め、許してくれた。どうやらブレンさんも忙しかったらしく。そこまで怒ってはいなかったみたいだ。
ブレンさんのいる世界は時間感覚がない。
時間が止まっているのだ。
ここではどんなに本を読んでも時間が経たない。
つまりは……本が読み放題なのである。
ブレンさんにこの書庫室の本が読み終わるまで、いてくれないかと話したら呆れられた。
全ての本を読むなんて一体何日……何ヶ月かかるのかと……。
難しい学問の書籍を読み解きながらみていくとなるともっとかかるかもしれないなと思いつつ、本好きとしては諦めきれなかった。
ブレンさんによると、たしかにここでは時間感覚はないが私自身の時間は止まっていないらしい。つまり、私自身の衣食住が必要になるのだ。
衣食住自体の用意はブレンさんでも出来るが、何ヵ月もこの空間にいるのは健康には良くないらしい。
なので、ブレンさんによって今回の要望は却下された。
私が落ち込んでいると、ブレンさんはとんでもないことを言い出した。
「そんな事をしなくても、一度この場所に入ったのですから、コピーは完了しています。仰っていただければ、この場所に時を戻してお連れすることは可能ですよ?」
「はい?」
どうやらブレン様がいれば、いつでも書籍に目を通す事が出来るらしい。ブレン様々だ。
そんな事をしても良いのかと思いつつ、やっぱり本が読みたいので、嬉しくもあった。
「どうか、これからよろしくお願いします」
「フィリア様くらいですよ? 私をこんな風に使うなんて……。フィリア様は本の事となると目の色が変わりますからね。仕方ありません。ただし、こちらの感覚で、寝る前の2時間と致しますが良いですね?」
私が夜更かし(実際の時間は立っていないけれど)ばかりするのがわかっていたのか、先にブレンさんに釘を刺された。
私は、了承して今の一冊を読み終わるまでは、とりあえずここの空間に居させてもらう事になった。
「ブレンさんって有能ですよね」
「今更気づいたんですか? これだって、本来の私の使用法ではありませんよ? もっとちゃんと活用して下さい」
ブレンさんに呆れられながら言われてしまった。
こんな主人でゴメンナサイ。
久々、ブレンの登場でした。
と言うか、フィリアが望めばどんな書籍もブレンなら取り寄せられるんですけどね。
元々興味のあった魔道具やルルーシオ王国の歴史……。
ダンさんから許可を得ているという点で、邪心が出たのでしょう。
フィリアなりの線引きがあるのでしょうね? たぶん。言い訳?
本好きには贖えなかったのかな。




