ダン=レイル
「そこの二人組! こっちの門は……ってバネッサか」
「よっ! ダンが門兵なんて、何かあったの?」
バネッサさんと門兵は知り合いのようでバネッサさんはとても気安く話していた。門兵さんは30代くらいの薄茶の目に、ダークブラウンの髪をゆるくセットしたガタイのいい男性だ。最初は聞き分けなのない子を怒るような言い回しだったが、相手がバネッサさんだとわかったら、表情が緩む。
最初の顔は怖かったけれど、今はキリッとした男らしさのある顔立ちで、門兵にしてはかなり質の良い制服を着ているのできっとお偉い様なのだろう。確かに門兵にしてはちょっとチグハグだ。
「何かって、今日は例の客人が来るから、粗相のないように手配しろって総長と地区長が言うからさ」
「へ〜。地区長さんはともかく、あの人もそんな気遣いできたんだ」
「あのなぁ。そんな事言えるのはお前くらいだぞ? 大体、あの人は仕事に関してはそつなく完璧にこなす人なんだからな。みんなの憧れだぞ?」
「えぇ? ポンコツの間違いじゃない?」
くすくす笑いながら話すバネッサさんに、同意は絶対にしないと相手は困った顔をする。
「まぁ、それは置いといて、こちらがその客人じゃないかしら?
フィリアさん、この人はダン=レイル。トライア地区騎士団の事務局長ね。事務方なのに、腕っぷしもまぁまぁらしいわよ?」
「何だよその紹介は!!
……紹介に与りましたダン=レイルです。気軽にダンと呼んでください」
「初めましてダンさん。フィリアです。これからお世話になります。よろしくお願いします」
ダンさんは改まって自己紹介してくれたが、バネッサさんの気安い言い回しのお陰か、砕けた雰囲気で、それほど緊張せずに挨拶できたのは僥倖だった。
「おう! フィリアちゃん、よろしくな!
まぁ、詳しい話は後で。ちょいと目立ってるから、早く中に入ろう」
ダンさんの言葉に、バネッサさんも同意して右側の扉へ進む。ダンさんが扉に手を触れると光の筋が通り、カチリと音がなって自動で扉が開いた。
この扉も魔道具なんだと興味深く、もうちょっと眺めたいけれどそうもいかず、そそくさと3人で中に入り、扉はすぐに閉まった。
◇◇◇
中に入ると白を基調とし煉瓦造りの壁が続いていた。見える範囲でも沢山の扉があり、一つ一つが入国審査の為の部屋なのかと思う。
「こっち。ちょっと歩くよ」
ダンさんにそう言われて、後に続く。バネッサさんは私を気遣ってから私の後ろに並んだ。
床は、前世で言うコンクリートのような質感だった。清掃はきちんとされており、置物やタペストリーなど何もないためか、靴音が響く。ただ結構歩いたけれど誰1人としてすれ違う事は無かった。喋る雰囲気でもなく黙々と歩いた。
暫く歩くと開けた場所に出る。今まで見てきた扉よりも更に大きな扉の横にあるパネルをダンさんは操作した。
扉がきらりと光ると自動的に扉が開く。
中に入ると、床はふかふかの絨毯がひかれた誰かの執務室兼応接室の様な造りになっていた。執務机の隣にある書籍棚は、職人が彫ったのであろう凝ったつくりだ。書籍棚の扉の取手が独特なので魔道具なのかもしれない。
多分お偉い様の執務室な気がするけれど、私は平民。場違いな気がした。
「ここに座ってくれ」
「あっ……はい!」
艶のある木目調のテーブルとセットになっていた椅子に座る。椅子にはクッションがつけられているためふかふかだった。ソワソワしながら居心地悪そうにしていると、隣の椅子にバネッサさんも座ってくれた。
「そんなに緊張しなくても、とって食われたりしないよ?
あっ! ダンの顔が怖いよねぇ?」
そう言ってバネッサさんは、意味ありげにダンさんを見た。
「おい! 俺のせいにするな! こういっちゃ何だが、騎士団の中では、優男って言われてるんだぞ? あんまり嬉しいわけじゃないが……」
言われたダンさんは少し苦い顔だ。
ダンさんは、ガタイはいいが、キリリとしたイケメンだ。
柔和とは言い難いが、粗雑さはなく気遣いが出来る。
とても紳士的だ。
「あぁ……騎士団の中ではね?」
ダンさんの方が年上そうなのにどうやらバネッサさんの方が一枚上手のようだ。2人の気安い感じに救われる。
きっとバネッサさんは私の気分をほぐす為にワザと軽口をたたいている気がする。バネッサさんの優しさに私は心が軽くなった。ダンさんもそれがわかっているからか強く言えないのだと思う。
「……。まぁその話はいいだろ?
フィリアちゃん、そんな緊張しなくても、大丈夫だから安心してくれ。
会って間もないけれど、このまま入国審査は俺がするからね」
えっ? 騎士団の事務方トップ……。そんなお偉い人に入国審査をされるなんて高待遇? それとも危険視されている?? 別に何も悪い事を考えている訳ではないが、冷や汗ものだった。
小心者の私には、そういうのは慣れてないです……。




