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【完結】半端者の私がやれること〜前世を中途半端に死んでしまった為、今世では神殿に入りたい〜  作者: ルシトア
第二部 ルルーシオ王国編

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憂い side教皇

 フィリア嬢が辞してから、私は肘掛けに肘をつき頭を傾げた。フィリア嬢の前では王族の威厳と大人びた態度を崩すことはなかったが、本来の私はこう言う相手に強いる交渉事は苦手だ。それが自分にとって不本意なことなら尚更。今くらい気を抜いても構わないだろう。


 歳の離れた兄上がいた事もあり、私は両親にも甘やかされて育った自覚はあった。大体のことはニコニコ笑ってお願いすれば、自分の思い通りに進んでいた事が多い。まぁ元々平和主義、事勿れ主義、無理難題を言わない事が、幸いしたのかもしれないが。

 自分の納得いかない仕事は放棄してたり、逃げていた部分はあり、それも許された。そのせいで神殿予算が減らされてしまったと陛下()に言われてしまった時は申し訳なかったし、情けなくもあった。その分出来るだけ私財で賄ったが勿論足りるわけもなく……。

 それを彼女を含め多くの協力により、居住区は維持管理できるようになった。安堵したのは言うまでもない。

 そのツケなのか、今回の交渉は放棄したかったがそれは難しかった。

 本当に柄にも無いことをしたなと思う。功労者の1人を国外へ追いやる手伝いなどしたく無かった。

 久々に酒でも飲むか。そんな気分だ。


 …………。


 ここはこの世界の創造神であるクリスタラスケート様を祀る中央の礼拝堂だ。レベルを上げる礼拝堂は中央神殿に二つあり、その一つである半端者居住区内のものだ。半端者居住区の外にある大きな礼拝堂よりも、ここが神に1番近いと言われている。

 その神聖な場所で、私は1人の女性に今後を大いに左右する決断をさせた。あっさりと決めてしまった彼女にも驚いたが、彼女にこんな決断をさせてしまった私に神はお怒りになるだろうか?


 彼女……フィリア嬢は私を認識するとすぐに、必要以上に端により、最敬礼をした。その後も、ビクビク怯えて不安顔……人見知りで小心者。聞いていた通りだった。

 私は視線を逸らし話しやすいようにした。

 ただ、話していくに連れて変化が生じた。私の話に耳を傾けて思案し始めた時は、目に強い意志が宿り始め決断も早かった。彼女のルイスの為になるのなら、と言う思いが感じられた。自分の事など後回しのようだ。彼女は自分の事には小心者だが、人の為なら素早い勇気ある決断を下す。それに感服する。そしてそれがまた心配にもなる。幼い頃の記憶を美化しすぎていたと思っていたが、ルイスは見る目があったのだな。

 自分の口角が上がるのがわかった。

 ああ言う部分が彼女の魅力なのだろうと、納得していたら後ろからヒヤリとした圧を感じた。


「ご苦労様でした。うまく行って何よりです」


 言葉自体は威圧のある声ではないにも関わらず、こんなに圧のかかった声は聞いたことがなかった。

 私の考えていたことを見透かされ、それに苛立っているみたいだ。牽制か……それとも嫉妬?

 私は立ち上がり振り返える。

 そこにはルクセル領の騎士服を身に纏った青年がいた。

 本来なら魔法使いの彼がここに入れるはずがないのだが、彼には関係のないことなのだろう。アーレン王国の結界すらも解析してしまった男だ。何でもありなのだろうな。

 最近になって彼は王城に出入りしている。侍女や下働きの女性に人気があるらしいが、今の表情を見れば百年の恋もさめるのではないだろうか。


 眉間に皺を寄せ何とも言えないドス黒いオーラをまとい全身で不快だと告げている。物語にある魔王がいたらこんな感じじゃないかと思う。

 彼がこんなに表情を露わにするのは珍しい。それ程までにフィリア嬢は彼にとって特別な存在なのだろう。これは私への牽制だろうが……。私にとっては親子ほどある年齢。対象外なのだが……。


「……これで満足ですか? オリバー殿。

 私の可愛い庇護者を取り上げるようなことをして。

 ……これをオリバー殿が指図したと、フィリア嬢が知ったらどう思うか……」


 これは意趣返し。不本意な交渉もあって、今では少し意地悪してみたくなった。

 自分の庇護下にいる恩義のあるフィリア嬢を不本意ながら国外へ出すのだ。これくらいは許されるだろう。本心を言ったまでだ。まぁその功績をお膳立てしたのは、目の前にいる此奴なのだが。これはほんの一部の者しか知らない。本人も自分の功績とする気はないようだ。今回の事はオリバー殿も仲介役らしいが……彼がいなければうまく行くことは無かっただろう。


 今は魔王のような様相だが、普段のオリバー殿は焦茶色の目と髪、精悍な顔立ちながら、笑顔が柔らかで話し上手、相手の懐に入る術が飛び抜けている。交渉術も素晴らしく、この10年にも満たない間にアーレン王国を掌握してしまった陰の実力者。

 文武両道で、本人には全く隙がない。文官としても優秀で、ずっと苦労していた過激派一味を、選別し適切に処理した手腕は素晴らしい。処理の仕方は交渉だけではなかったがみたいだが……。

 お陰で国の内部分裂は避けられ、多くの貴族が穏健派に戻ってきた。

 更に、王国の結界解析もして、改良し、今よりも維持管理しやすくなった。

 その為、王族はオリバー殿に頭が上がらない。

 オリバー殿がその気になれば自身が国王になる事も可能だろうが、その地位には興味はないらしい。

ビンセントが冗談か本気かはわからないが、オリバー殿に次期国王の打診をした事がある。


『私はフィリア様の護衛騎士なので』


 そう言った後、とても誇らしげで満足そうな笑みを浮かべていたオリバー殿を思い出した。普段は感情を表に出さないのに驚いた。

 オリバー殿の最優先事項はフィリア嬢の事だ。後は円滑に進めるための付属品のようにしか思っていない。


 今回の交渉はオリバー殿に頼まれたものだ。

 オリバー殿は、フィリア嬢に殊更の思い入れがあるにも関わらず、国外に出す理由がわからない。可愛い子には旅をさせろ精神か? それにしてはリスクが高すぎると思うが……。

 そう思っていると更に圧力がかかる。


「私がそのようなヘマをするとでも?」

「まぁ、そうだろうな」


 やはりフィリア嬢には知られたくないのだろう。まぁオリバー殿なら、フィリア嬢に今回の事を露呈する前にその人物を消し去ってしまうだろうな。……今の俺って大丈夫? 明日にはいなくなってたりして。ははは。


「けれど何故フィリア嬢を国外に? 彼女は今の生活をとても気に入っているように思えたが……」


 フィリア嬢は、今の居住区での生活に満足していた。オリバー殿は主人の意思を尊重すべきだと思うが……。


「確かにここで一生を過ごすのも穏やかな日々なのでしょう。フィリア様にはここでの生活があっているのも承知しています。

 ……けれど、私はフィリア様に懺悔の日々では無く、前に進んで欲しいと願っているのです」


 オリバー殿はさっきまでの魔王はなりを顰め、憂いながらも切なる願いを口にした。


 やはりルイスの事は付属品のようだ。本来の目的は、別にあるのだろう。まぁ私も長いものには巻かれろ精神だ。これ以上つつくのは藪蛇だろう。これ以上深入りするのはやめた。


オリバーは、フィリアに内緒でこっそり半端者居住区を、出入りしてました。

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