決断
「アーレン王国から離れてくれないか?」
アーレン王国から離れると言うことは、つまり国外追放!?
所謂バッドエンドってやつ!?
私って悪役令嬢だったっけ??
じゃなかった。今回は違う。別に断罪されてないし打診されているだけで命令ではない。
「勿論、住む場所も生活していく基盤も用意する。
他にもフィリア嬢の希望にそう様に進めるつもりだ。
ただ、希望にそったとしても今までの生活と変わる事は確かだ。負担を強いることはわかっているつもりだ。
最初だけではなく、私が生きている限り、困ったことがあれば頼ってくれて構わない。考えてはもらえないだろうか?」
私はもう何年もルイス王子とは会っていないから何とも言えないけれど、教皇様が言うのだから、ルイス王子の思いはそうなのだろう。
ルイス王子はどうしてそのように望んでくれるのかな。
魔力授受に対する恩義が強すぎるとか?
過去の思い出が美化され過ぎているのかもしれない。
ただ一つ言えるのは、私がアーレン王国にいる事でルイス王子の婚姻の妨げになっているとしたら不本意だ。
「私がアーレン王国から居なくなれば、ルイス王子は前を向いてくれるのでしょうか?」
ルイス王子の気持ちがどれほどなのか、わからないし、わかったとしても恋愛経験の少ない私が考えた事でどうにもならないだろう。ここは年配者に聞くことが1番だ。
「ルイスも王族だ。自分の立場はわかっている。
ただ、今の状況はフィリア嬢が頷けば、もしかしたら叶うかもしれないと言う状況だから諦めきれないのだろう。
ルイスは半端者専用の魔力ポーションが出来てから、教皇の座を譲れと私に言ってきているのだよ。
教皇の座は臣籍降下した王族がなるのは通例で将来的にはルイスが継ぐ可能性が高い。けれど、それは今ではないのはわかっているはずなのにだ。
私がルイスに今の地位を譲ればどうなるかわかるだろう?
フィリア嬢が半端者のままアーレン王国から出国すれば、2度と戻らないと言う意思表示にもなる。
あの子ならその意図を理解するはずだ。
……今のフィリア嬢の平穏な生活を捨てさせてしまうんだ。
それでも、もし道を間違えるなら、私が責任を持ってルイスを導くよ」
穏やかな声音なのに、最後の言葉は剣呑としていた。優しい叔父様のような雰囲気にしていただいているが、時折みえる風格が物語っている。王族とはこう言う威厳がある方が多いのだろう。
時には身内にだって厳しい判断をせざるを得ない。それが王族だ。
私には遠い存在だと改めて感じさせられた。
万が一にでも私が王族にでもなったら全てにおいて足を引っ張りそう。
小心者で目を合わすのも苦手、極度の人見知りが王族なんで務まるはずもない。
そんな未来は絶対にこないと言い切れる。
それならば、答えは一つなのだ。
「わかりました。私はアーレン王国を出ようと思います」
「そんなすぐに決断しても良いのかい?
私が言うのも何だけど、ご家族や友人にも相談してからの方が良いんじゃないかな?」
私が是を主張すると、教皇様は時間をかけて良いと諭してくださる。きっと教皇様は、本来とてもお人好しな方なのではないかと思う。慈悲深い方と言う噂は本当の様だ。
多分、教皇様も誰かに頼まれてここにいるんじゃないかなと邪推するけれど、あまり藪蛇はつつくものじゃない。これ以上、お世話になっている教皇様の手を煩わすのも気が引けたし、誰かの為になるなら私は出来ることをしようと決めたのだ。今回もその一貫だ。
確かに、エイムの皆やジョアンナ達との生活は得難い有難い日々であるが、何かしら通信できるようにお願いしよう。
魔法薬を作ることは、他の場所でもできるだろうし、私はもともと本に囲まれていればそれ程孤独に感じない。
前世もそうだったのだから大丈夫なはずだ。
「私はもう成人していますし、私の決断を家族は尊重してくれます」
半端者として神殿に入る事も家族は、認めてくれたのだ。今思えば、お母様は私の意思を尊重せず、無理矢理レベルを上げて魔法使いにさせることは可能だったと思う。でもそれをしなかった。最終的に私の意思を汲んでくれたのだ。今回も、もしかしたら家族を悲しませてしまうかもしれないけれど、許してくれると思う。
教皇様が用意してくださる場所なら、安全と最低限の生活は整っているのだろうし不安はない。
グレゴリーさんにサバイバルの授業を受けたのも大きい。あれ以上悪い状態にはきっとならない。うん。何とかなるかなと思ってしまう。
何よりこの国の為になるなら、私はやれる事をするだけだ。
「そうか。では日を改めて詳細は話し合おう」
「かしこまりました」
話も纏まったので、退出の挨拶をして私は礼拝堂を後にした。




