sideメイソン 5、いけすかない奴
メイソン視点の話です。
……いや、確かに少し前に、害獣をひたすら倒す方が精神的には楽だと言ったが、これは無いだろう?
目の前には大小様々な害獣がいた。かれこれもう1時間近く倒しているように思うがが一向に減っていない気がする。
実際は1時間経っていないのか?
ここは時間の感覚がおかしくなる。腹は空かないし、眠気も来ない。
一体何日経っているのかもわからなくなってきた。
精神的な試練の後は身体的にか……と思いつつ、取り敢えず目の前の敵を倒していくしか無い。
途方に暮れてしまえば一気に畳み掛けてくる気がする。気を引き締め、威嚇しつつ集中する。
必死に、害獣を倒していると空間全体に響く男の呆れた声が聞こえてきた。
「遅すぎです。いつまで続くのですか? さっさと倒してください」
馬鹿にされたような声に思わず苛立ちを覚えた。
思わず言い返してしまう。
「仕方ないだろう? この数だ。お前なら何とか出来るのか? それともお前が親玉か?」
俺の問いに、心底うんざりだといった声音で男が返事を返してきた。
「はぁ、どうしてフィリア様はこんな男の心配をするのか。
もう帰って来なくても構わないと思うのですが、それではフィリア様が悲しむので致し方ありません」
男の返事が聞こえた途端、自分以外の全てが止まったように害獣達がぴくりとも動かない。俺は呆然とした。
「これは一体なぜ? それにフィリアって?」
「ちょっと時間を止めただけです。
少ししたら、また動き出すので、今のうちに話を詰めましょう。
私はフィリア様の専属護衛騎士でオリバーと言います。お見知り置きを。
貴方の自己紹介は結構ですよ。メイソン様?
立ち話も何ですからこちらへどうぞ?」
今度は、はっきり右側から聞こえた。俺は漸く力を抜いて男の声がする方に向いた。
時が止まった害獣達が囲む中、そこだけはまるでお茶会の様にテーブルと2つの椅子が置かれてある。その椅子に座り、足を優雅に組んでティータイムを楽しむ年上の男の姿があった。
見覚えのない騎士服を着ているので、どこかの領主の騎士団に所属しているのだろう。騎士にしては細身だと思うし、佇まいはさながらどこかの領主貴族と言われても良いほどに洗練されていた。
鑑定は出来なかった。まぁしなくてもわかる。
コイツは魔法使いだ。
焦茶色の目と髪は、一見それほど強く無いと思われがちだが、醸し出すオーラが物語っている。
この数の害獣の時を止めているのがその証拠だ。
かなり高位なのは間違いない。
オリバーと名乗った男は、また直ぐ動き出すと言っていた。事実なのだろう。
正直言って少し休憩したいと思っていたので、素直に、だが雑に椅子に座った。
出された紅茶も一気に飲んだ。
俺に紅茶なんて似合わないなぁと思いつつ、鼻から抜ける香りは、リラックス効果があるのか緊張していた体の力が抜けた。
「……呆れた。そんなに一気に飲んで、もし毒が入っていたらどうするんですか?」
男は、追加の紅茶を注ぎつつも、馬鹿にしたような顔で俺を蔑んでみていた。
「俺を殺すなら、毒殺なんてまどろっこしい事はしなくても、お前さんなら一瞬だろ?
時間が惜しい。早く本題に入ってくれ。
フィリアの知り合いって言うのも信用してるからその説明もいらない。
後、様付けされるなんて虫唾が走るからやめてくれ。メイソンでいい」
「……ではメイソンと呼びましょう。
私もオリバーで結構ですよ。敬称も必要ありません。
フィリア様の知り合いでは無く専属護衛騎士です。
お間違えないように」
俺の言葉に、少しは認めてくれたのか態度が軟化した気がする。
最後の言葉は念を押すように言われたのでオリバーにとっては重要な部分なのだろう。
半端者に護衛騎士? 居住区にいるのに?
こんな高位の魔法使いまで巻き込めるなんて、フィリアは一体何者なのだろうと、改めて感じたのだった。
ただ、今は時間がない。それは置いといて話を進める事にした。
「ああ、わかった。で? 要件は?」
「フィリア様は、メイソンが試練の扉から帰って来ない事を心配されています。もう、あちらでは3週間ほど経っておりますので、なるべく早く試練を終えてほしいのですよ。それでちょっと様子を見に来ました」




