癒しの部屋
引きずられるのは恥ずかしいので今は手を繋いで大人しくキャサリンさんについて行ってる。
「……そんなに楽しいの? 貴方、最近は個人区画を広げて同じ植物ばかり植えているでしょう?」
「何故それを?」
「私こう見えて、植物を育てるのは得意なの。貴方たちの区画とは離れているけど、私も区画を借りていて……。まぁ私も色々と育てているから、知っているだけよ」
キャサリンさんは私の手を握りながら、前を向いているので表情は分からないが、声音はとても心配している様に思えた。
まだ、薬草の事はジョアンナと2人の秘密にしていた。どう答えた物かと隣にいるジョアンナの方を見ると、こちらも今は引きずられる事なく歩いていた。
ジョアンナは私の視線に気付き優しく微笑んだ。
私に任せると言う事だろう。
そこまで信用されているのは、嬉しけれど、こう言う大事な事はちゃんと話し合って決めたい。
だから私は少しぼかして話をした。
「今は時間が出来たから、他のことにも挑戦しようと思って育てているの。隣の区画のジョアンナはとても博識で2人で一緒に育てているわ。今はとても楽しいわ。確かに寝不足だけど……」
「そう。まぁいいわ。とりあえずこの穴に顔を入れてうつ伏せになりなさい」
連れてこられたのは簡易なベットが複数ある場所だった。今は仕切り版が置かれてないので沢山のベッドがみえるが、仕切り版が傍らにたくさんかけてあってベッド毎に仕切られる様になっているみたいだ。
周りには観葉植物の様な物が植えてあり、奥の方には水槽があった。照明はオレンジ色の照明なのか明るさが抑えられていて、リラックスできる雰囲気になっている。
簡易ベッドは壁と反対側に丸い穴が空いている。
あれは前世のマッサージ台だ。あの穴に顔を入れるとどちらかに顔を向けずにうつ伏せになれるので、肩に変な力が入らずマッサージや整体を受けやすいのだ。
前世の残業が続いた時に週末にお世話になったなぁと思いつつ、私は首を傾げた。キャサリンさんは何をしたいのだろうか?
「あーもー焦ったいわね!! さっさと寝る!!」
「「はい!!」」
私とジョアンナは首を傾げて、なかなか進まないので、苛立ったキャサリンさんに怒られる。私とジョアンナは息ぴったりに是を告げて急いでベッドに上がった。
キャサリンさんから、
「1人ずつしか出来ないから少し待っててね」
と私は言われたので、私は瞑想することにした。
この穴に顔を入れると、前世のマッサージを思い出す。
もしマッサージなら、マッサージ中は私は何も考えずぼーっとするのが力も抜けていいと思っていた……。
……疲れていたのか、いつの間にか寝ていた様だった。気がつくとリラックする様ないい匂いのお香が炊かれていた。
全身を揉みほぐされた様でとても気持ちいい……。実験で凝り固まった肩や腕が柔らかくなって行くのを感じる。少し腰も痛くなってきていたから、変な姿勢になってしまっていたのだろう。その矯正もされている様で片足だけあげたり伸ばしたりされている。まぁどれもこれも気持ちいいのでされるがままだ。
「ちょっと!! 起きてるなら、少しは自分で動かしなさい!! 大体、なんなのこの歪みは!! 基礎体力がなさすぎなんじゃない? 魔力での身体強化に頼りすぎよ。これじゃあとっさに反応できないわよ。ちゃんと基礎訓練をサボらない様にしなさい。ここ最近はサボってるんじゃない?」
思い当たる事が多すぎてギクリとした。おっしゃる事は尤もである。長時間、椅子に座っていると腰が曲がってきたし、研究が楽しすぎて、基礎訓練を疎かにしていたのも事実です。
「すみません。仰る通りです」
「はぁ、ちょっと凝り固まりすぎ!
今日だけじゃ解せないから、これから毎日通いなさい。分かったわね!」
呆れつつもキャサリンさんは優しい言葉をかけてくれた。最後の言葉だけとてもきつかったので思わず、返事をする。
「はい!! ……でもどうしてもここまでしてくれるのですか? 私嫌われているとばかり……」
「あ〜。うん。そんな事もあったわね。まぁあれは私が悪かったのよ。でも、もうしないから!!」
私の頭に?マークがたくさん浮かんでいるのが見えたのか。あまり言いたくなさそうだったが、キャサリンさんは今までの事を話してくれた。
私がきて、自分の居場所が無くなってしまう恐怖感と焦りで強く当たってしまった事。そして私に当たっていた事を反省して、これからはしないし、出来たら私の役に立ちたい事。たくさん語ってくれた。
私の知らなかった事ばかりで、キャサリンさんには申し訳ない事をしてしまった。私は誠心誠意、謝罪した。
「今更謝って許してもらえるとは思わないけど……ごめんなさい。キャサリンさんの居場所を奪うつもりはなかったの。もし私が邪魔なら、もうエイムには行かないわ」
私の方が新参者なので、私がエイムを離れるべきだと思ったのだが、キャサリンさんは、
「あー!! だから言うか迷ったのよね。そんなのエイムのためにならないでしょう?
今更、エイムを辞めるとか私が許さないんだから!! 頼むわよ! エイムの治癒師様?
だからね。私考えたの。私に出来る事は何かなって、それでこれよ!!
私も空いた時間色々考えたの!
私はフィリアと違って心を癒す空間を作るの。
魔法で体は治療出来るかもしれないけど、こんな風に心のケアはフィリアにはできない事でしょう?」
キャサリンさんは、嬉しそうにこの部屋を見渡した。
キャサリンさんはこの部屋を貸切、マッサージと整体を組み合わせた様な事をしているみたいだ。治癒魔法で体の怪我は癒せても、日々の体の歪みは毎日の習慣だから自分の心がけも必要だ。それを整体で整える。マッサージで心が軽くなるのはわかる気がする。
それにキャサリンさんは意外と? 聞き上手で、心の癒しもわかる気がする。
キャサリンさんは、自分の居場所を奪われて悲観したり怒ったりするだけでなく、ちゃんと次の居場所を見つけている。凄い人だと思った。
申し訳ない気持ちがまだ消えないが、誇らしげなキャサリンさんに思わず笑みが溢れた。
「だから、私に悪いだなんて思わないでこれからもよろしくね!
私、これが出来るまではフィリアとは仲良く出来ないと思ったの。
きっとフィリアは遠慮するだろうって。
でももう、私も大丈夫。
私は自分の新たな場所を見つけたの。だっかっらっ友達になって!!」
キャサリンさんの提案に更に驚いた。私が固まっていると、
「ダメ……?」
と今度は上目遣いで私は見られた。普段は私の方が小さいので出来ないが、今はキャサリンさんが床に膝をついて私を見つめている為、キャサリンさんは上目遣いになっている。
私は怒っていたキャサリンさんしか見てなかった。鬼の形相で迫るキャサリンさんは、実の所、私の夢に出てきた事もある。はははっ。
けれど元々は愛らしい顔立ちのキャサリンさんの可愛いお願いに、その落差に、私は、直ぐに撃沈したのだった。
私はこくこくと首を動かして是を表す。
そして、頻繁に通う内にキャサリンさんは私にとっても心のオアシスになったのだった。
キャサリンは照れ臭かったので男達からフィリアを守っていた事はあえて濁しました。
キャサリンは個人区画で、傷の手当ての為の薬草を自分で育ててました。でもその話をすればフィリアに気を遣わせると思って、個人区画の話でも濁してます。
キャサリンは本来、とても優しい子なのです。
ちょっと短気で怒りっぽいですけどね。ようやくキャサリンが報われてよかった!!
2人が仲良くなるのを納得しない人もいるかもしれませんが、ここは作者の物語として大目に見てくれると嬉しいです。




