希望の光
それからジョアンナと様々な話をした。植物の話が多いけれど、植物の話になるとジョアンナは、思いの外お喋りで、私が聞き役になることの方が多かった。
私はそれを相槌を打ちながら、途中で止めない様にする。そうすると更にジョアンナから言葉が溢れ出してきて、途中から笑顔も見られる様になった。
個人区画の端に2人で座ると、思いの外近くで喋れるので、ジョアンナの分厚いメガネの奥の瞳もよく見えた。
ジョアンナの目はとても綺麗だ。今は特に植物の話をしているからか、緑の大きな目はエメラルドの様にキラキラしている。見ていて微笑ましい。勿体無いなと思うけど他人の事は言えない。自分も隠してた時もあるので本人がそれで良いなら仕方がない。
ジョアンナは植物に対してとても博識だった。書物に書いていない様々な事象を事細かに比較検討しているみたいで、どうしたら良い植物が育つのか嬉しそうに話してくれた。ジョアンナの個人区画は四つありそれぞれ分類されている。私はジョアンナに育てている植物の全てを鑑定させてもらったけど、どれも生命力あふれるものばかりだった。
色々な植物を植えていて、薬草もあれば観賞用もあり、中には変わったものまであった。
何とブレンの鑑定を持ってしても名前がわからない植物があったのだ。その植物は、更に魔力を帯びていたのだ。
この世界の植物で、魔力を有した植物は無かった。トレント等植物を模した魔獣はいるが、植物そのものに魔力があるものはない。私は興味津々で聞いてみた。
「これって、何の植物なの? 鑑定でもわからないわ!」
「あっと……それは……私が交配して作った植物なの。まだ名前決めてないんだ。何かね。あったかい感じがするの。交配した中で1番気に入って沢山増やしてみたの。薄いピンクの花が咲いて可愛いんだよ」
ジョアンナは目をキョロキョロさせて動揺しつつも、少し顔を赤くして嬉しそうに話してくれる。きっと自信作なのだろう。少し誇らしげだ。
「私の鑑定だと、魔力が宿っているみたいなの。魔力はあるけれど、危険な植物では無さそうね。
もしかしたら奇跡の大発見かも!!」
「えっ? 魔力を……大丈夫かしら? 魔物化しない??」
私は学会発表物だと思ったが、ジョアンナは魔力を有していると聞いて肩をこわばらせた。
確かにここでトレントの様な魔獣が、現れたら農園が悲惨な事になり死活問題にもなる。ここは個人区画だが、隣のハウスには、共同区画もある為注意が必要だ。
ブレンにも再度、確認したが、魔物化する兆候はないとの事で一安心だ。ジョアンナにも伝えると安堵のため息を吐いた。
「魔力が宿っていたなんて知らなかったわ。
これは元々は血行をよくして治癒を早める薬草と、炎症を抑える薬草を掛け合わせた物なの。特に魔力は関係ないと思うけど……あっけれど、中々大きくならなくて他の植物よりは、声かけも魔力も多めに与えてたかな?」
ジョアンナの優しさと、献身さで出来上がった植物みたいだ。
「ジョアンナが、頑張ったおかげだね!!
沢山育ってるし、これからも増やす事は可能なの?」
「これは綺麗な薄ピンク色の花が咲いて、その後に緑色の丸い実がついて、丸っこい焦茶色の種も出来るの。種があればそれほど苦労する事なく育てられるから、増やそうと思えばもっと増やせるよ」
凄い発見だわ!! ブレンの詳細な鑑定を見たけれど、この植物は魔力は魔力でも魔素を有している。
魔素は魔力の源なので、どの系統にも変換できる。この薬草を沢山育てれば、魔力が少ない人でも様々なポーションを作れるのではないかと考えた。
つまり半端者でもポーションを作れるし、すっ素晴らしい!!
「ジョアンナ!! 大発見だわ!!
学会に発表しましょう!! そうだわ!! 名前がいるわ!! ジョアンナ!! 植物の名前!!」
「フィリア!? とりあえず落ち着いて!!
そんなに興奮してどうしたの??」
私の興奮具合にかなり驚いているジョアンナが冷静を促す。
「冷静でなんかいられないわ!!
名前は何が良いの? ジョアンナ草にする!?」
「えぇ!? そんな植物嫌よ!! ずっと名前が呼ばれるなんて恥ずかしすぎるわ」
冷静にと言われても無理です!! まずは名前が大事よね!!
冷静ではない私の名付けにジョアンナはドン引きしていた。えぇ? よく人の名前がそのまま命名されたものって結構ある気がするんだけどダメかな?
「そっそうよね。何が良いかしら? ジョナ草とか?」
「えぇっと……ちょっとそこから離れましょう?
ちょっと待ってうーんと。
ルーチェ草はどうかしら? 古い言葉で『光』と言う意味なの」
私がジョアンナの名前から離れないので、ジョアンナは慌てて別の名前を出してきた。
ジョアンナの名前が入ったのが良いと思っていたけど、光なんて素敵な名前!!
きっと半端者の人達にとって希望の光となるルーチェ草の命名だった。
私は、ルーチェ草はきっと凄い薬になる事を力説して、私にも研究させて貰えないか頼んだ。
ジョアンナは、快く応じてくれて、ジョアンナ自身も一緒に研究したいと意欲を滲ませていた。
きっとルーチェ草は私達の希望の光になる事は間違いない。
興奮しすぎて、内面が出てきているフィリア。
フィリアの押しに、ジョアンナはドン引きしています。




