sideメイソン 3、キャサリンとの内談
結局、フィリアの抱えている問題はわからないままだ。距離を取られているのだから仕方がないとも言える。
キャサリンとは少し落ち着いた頃に話をした。
「だって、私の居場所がなくなるんじゃ無いかと怖かったの」
キャサリンの言葉にその気持ちが痛いほどわかった。
ここに住んでいると、自分の存在意義がわからなくなる。外の世界から守られ、家族からの寄付金頼りの生活は、自分は何の為に生きているのだろう? と考えてしまう事があるのだ。エイムのリーダーを引き受けているのも自分が人から必要とされる存在だと認めて欲しい為にしているのかもしれない。キャサリンも傷の手当や精神的なフォローをする事で自分の存在意義を認識していたのに、俺の安易な考えでそれを奪ってしまった。怒るのも当然だ。焦りもあっただろう。
「キャサリンは本当によく頑張っていたのに、居場所を奪ってしまった。すまないと思っていた。申し訳ない。俺の認識の甘さが招いた事だ」
フィリアが来た事でキャサリンの居場所を結果的に奪う形になってしまったのは、俺が先を見通せなかったせいだ。この事についてはケイティも申し訳無いと思っていた様だ。自分が紹介したからと……。最終判断をしたのは俺なので、責任は俺にあるとは言ったが気にやんでいるようだった。俺は誠心誠意謝罪して、頭を下げた。
「もうやめてよ。頭なんか下げないで。仕方ないわよ。今なら分かるわ。あんなの見通せないわ。フィリアの治癒魔法は、半端者とは思えない優秀なんだもの」
キャサリンは諦めの眼差しだった。キャサリンはもうフィリアを認めている。
最初は自分の居場所を取られて行き場のない怒りをフィリアに向けていたが、今はフィリアを他の男達から守る様にキャサリンが悪役を買って出ている。キャサリンが未だにフィリアを嫌っている様に見せてるのはフィリアの為だ。フィリアが他の人と距離を取りたがっているのを感じてそれの手伝いをしてるのだ。損な役割なのにキャサリンは今もその役を演じている。キャサリンなりの考えなので俺は口をはさまないようにした。
ずっとこのままならまた話そうと思う。
「キャサリンはエイムに必要なメンバーだからな!!
辛くなったらいつでも相談のるから、あんまり根をつめるなよ!」
俺はエイムのリーダーとして、ちゃんと見ていると伝えたかったのだが、
「はぁ……。まぁそこ止まりよね。仕方ないか。今はしたくてしてるから、辛くなったら相談するわ」
何処か、諦めた様にいうキャサリンに、リーダーとして頼りにされてない事を感じ、落ち込んだ。
バッカスがレベル18から19に上がった。ここ数年誰もレベルが上がってなかったので、皆も自分の様に喜んだ。もちろん俺もだ。フィリアが来てくれたお陰である事は間違い無いと思っていたが、それを指摘されたらフィリアが物凄く慌て始めたのだ。キャサリンが癇癪を起こしたので有耶無耶になったが、今回のレベルが上がったのはどう考えてもフィリアのお陰なのだ。なのに、あの慌てようは治療以外にも何かしているのでは無いかと疑いたくなったのだが、キャサリンに探るのを止められた。
「あの子は、自分自身が目立つ事を極端に嫌っているわ。何故だかわからないけど……。
近寄り過ぎちゃうと部屋に引き篭もっちゃうかもよ?
それは困るでしょう?」
引き篭もられるのは困るのでフィリアをあまり刺激しない様にした。それでも日が経つにつれてフィリアの様子が少しずつ元気がなくなっている様に思えた。
最初にフィリアの異変に気がついたのもキャサリンだった。キャサリンは周りを本当によく見ている。キャサリンは少し不貞腐れた言い方であったが、
「あの子なんだか、悩んでいるみたいよ。何とかしてあげてよ。私は嫌われてるんだから」
と言われていたが、どうするのがいいのか迷っていた。最近は何か思い悩んでいる様で、ぼーっとする事も多く、うっすら隈も出来始めている。明らかに体調も良くない。キャサリンだけじゃなくメンバー皆が心配し始めた時に転機が起きた。
俺が初めてフィリアに勝ったのだ。
俺がフィリアの剣を弾き飛ばした反動でフィリアが尻餅をついた。わぁっと皆の悲鳴めいた声が聞こえる。
俺は勝利したことよりもフィリアが心配で、急いでフィリアに駆け寄った。こんな状態のフィリアに勝ったって、自分が強くなったわけじゃない。むしろもっと気遣うべきだったのに、リーダーとして失格だ。
駆け寄っても、フィリアは未だ虚ろな目をして、視線を下げていた。漸くゆっくりとフィリアの顔が上がる。その顔は、何処か不安気で泣きそうに見えた。
そんな顔をしてフィリアは何を抱えているのか……。
思わず抱きしめたくなるのを堪え声をかけて手を差し出した。
2話目は23時半ごろに投稿予定です。
明日も平日……2話目は明日にでも良いので読んでくださると嬉しいです。




