決意
赤い顔をしたメイソンさんが今度は真剣な顔をしてベンチに座っている私の前で跪いた。身長の高いメイソンさんと目線が同じ位置くらいになり、少し距離が近い。メイソンさんは、他の人に聞こえない様に小さな声で話し始めた。
「フィリアが何かを抱えていて、半端者でいたい事や恋愛に対して臆病になっている事もわかっているつもりだ。
今の俺がそれに踏み込んでいいとも思っていない……。
どう言う理由かわからないのに俺が今から言う事は、検討違いな事かもしれない。
それでも俺の決意を言わせて欲しい。
俺は必ず、鍛錬を積んで試練の扉を開けてみせる。そして試練を乗り越えて魔法使いになるつもりだ。それが俺の今の目標だ」
私はその言葉に救われた気がした。メイソンさんの覚悟はもうすでに決まっていたのだ。きっと大丈夫……そんな根拠のない確信をもった。
「正直言うと、フィリアが来るまでは他のみんなの為に鍛錬はしていただけで、本気で魔法使いになれるとは思ってなかった。レベル19と20の壁が厚い事はここに何年かいると嫌でも感じざるを得なかったから……。俺はもうここに5年もいるんだ。自分がもうここで一生過ごすんだと、そう思っていた。
けれどフィリアに出会って、気持ちが変わったんだ。フィリアの癒しは心地よくて、それなのに剣を持つと俺より小さいのに強くて闘志が湧いた。気持ちが変わったせいかわからないが、それくらいから少しずつ魔力が増えている様な気がするんだ。多分……いやきっと、試練の扉は開くと思っている。ここまでこられたのはフィリアのお陰だ。
……はぁ、今こんな事言うつもりなかったのにフィリアの可愛い顔を見てたら言いたくなってしまった。すまない。
とりあえず俺が魔法使いなる姿を見てほしい。それでフィリアの中で何か感じてくれたら嬉しいとも思っている」
メイソンさんは最後の方は少し照れながら、それでも真剣に話してくれた。
「……メイソンさんなら試練を乗り越えられると思います。必ず帰ってきてくださいね」
私の魔力移行を肯定してくれた。それで私の心は軽くなった。可愛いと言われた様な気はするがそこは聞かなかった事にして、とにかく無事に試練から帰ってきて欲しいと心から願う。
「おっ? これは少しは期待して良いのかな?」
メイソンさんは少しおどけた様にして私を揶揄ってきた。
「そっそれは……」
メイソンさんの気持ちに応える事は出来ないのでどう答えて良いか言葉に詰まる。私の顔が曇ったのをみてつかさずメイソンさんが言葉を重ねた。
「あー。今は何も言わないでくれ! 扉から帰って来れなくなりそうだ。
冗談だって! 必ず帰って来るから、心配するな」
帰って来れなくなると言う言葉に私の顔が青ざめると、慌ててメイソンさんは冗談だと言った。頭をポンポンと叩いて安心させる様に必ず帰って来ると約束してくれた。
…………
メイソンさんの決意を聞いて、私は魔力移行を継続していた。私の治療中に扉が開くのは怪しまれそうなので、扉が開くギリギリな魔力量まで、私が鑑定をしながら移行して、後はメイソンさんの自己上昇を待つ事にした。 あれから少しして、鍛錬の最中にメイソンさんの試練の扉が開いた。眩しい光と共にメイソンさんの扉が出来上がる。皆が息を呑んで見守っていた。
メイソンさんは振り返り皆に向かって笑顔で
「じゃ! 行ってくる!!」
と言って、気後れすることなく扉の前に進んだ。扉に手をかけて、最後にもう一度振り返り、私の方を見た。何故か満面の笑みを向けられ何も言葉にする事なく扉に入って行った。
試練の扉を入って、帰ってくるまでに平均で1週間程かかるはずだ。私はそれから祈願中はメイソンさんの無事を祈る事にした。
(クリスタラスケート様どうかメイソンさんが無事で帰ってきます様に……。どうかメイソンさんに力をお与えください。)
どこからか呆れた声が聞こえた様な気がするが多分気のせいと言う事にした。




