お姫様抱っこ
面会でサーラ様との距離がグッと近くなった。サーラ様は時間が出来ると面会に来てくれる。常に妊娠に関する話をすると気が滅入るので、他愛無い話をしたり、血の巡りを良くする様に治癒魔法使ったり、私が覚えている限り妊娠に良いと思われることをした。そうして、経過は見つつ半年ほど過ぎた。嬉しい事に、サーラ様に妊娠の兆候が見られるらしい。今は体調を大切にしたいからと、申し訳ないけれど面会に行けない連絡が来た。
なんと喜ばしい!! 無事出産まで何事もなく進んで欲しいと心から願った。念の為、魔力と妊娠に詳しいお母様も経過を見てくれると言うので一安心だ。これからはお母様にお願いする。
今はサーラ様の結婚で、過激派の行動は落ち着いているみたいなので、このまま子供が産まれて更に収束していくことを願うばかりだ。
…………
エイムの方も順調に魔力は増えていってる。
……メイソンさんが、もうそろそろ試練を受ける魔力量に達する。私は迷っていた……メイソンさんなら大丈夫と思いつつ、私が勝手な事をしたせいでメイソンさんが試練の扉から帰ってこなくなってしまったらと思うと、これ以上、私が勝手に魔力移行をするべきか悩んでいた。
……迷いは一瞬の隙を生む。鍛錬にも迷いがあったのか、私は一瞬の隙を突かれて、剣を弾き飛ばされ尻餅をついた。勝負の相手はメイソンさんだ。メイソンさんに初めて負けた。周りのみんなから、わぁー!! っと歓声が上がる。私ってそんな嫌われ者になっていたかな……自らの行いを振り返ると仕方ないかなと自嘲しつつ私は俯いていた。
ふぅ……。こんなんじゃダメだな。私は結局何がしたいんだろうと、ぼんやり考えていると、私の影に別の影が重なった。見上げるとメイソンさんがすぐ側まで来ていて心配そうに身を屈めて私を伺ってきた。
「わるい……大丈夫か?」
「大丈夫です。こちらこそ、すみません。少しぼーっとしてただけですので。ダメですね。鍛錬に集中できていませんでした。今日は残りを見学しますね」
私は力無く答えた。本当に鍛錬に集中していないなんて危ない事だ。今日の鍛錬はこれまでにしようと思う。
「そうだよな。俺がまだ勝てるなんて思ってなかったから……。なんか最近悩んでるんじゃないのか? その……俺じゃ相談しにくいかもしれないけど良かったら聞くし、ケイティに、相談してみたらどうだ? あいつも心配してるぞ」
私に手を差し出したメイソンさんにそんな事を言われて正直驚いた。私の今までの態度は、メイソンさんにとって酷い対応だったのに、それでも心配してくれるなんて、懐の深い人だなと思う。それにケイティさんにも心配されているなんて知らなかった。ケイティさんは明るく声をかけてくるけれど、私が一定の距離をとっているためか必要最低限しか、関わり合いがなかったから……。
「私の負けは負けです。メイソンさんはとても強いですよ。私が負けたのも必然です。ご心配をおかけしてすみません。大丈夫ですので」
私の普段からの不遜な態度に皆は少なからず嫌悪感を抱いていたと思っていたけれどそうでは無いらしい。私は驚きを隠せずにいた。嫌われていると思っていたから……。差し出された手を掴むとふわりと抱き上げられた。
えっ!? なに!? 私はパニックになり数秒固まった。
「ふぇっ?? …………ちょっとメイソンさん大丈夫です!! 下ろしてください!!」
私が、慌てて言うと、メイソンさんは
「はははっ! フィリアでもそんなに慌てる事があるんだな。これはいいもの見た。役得だな!!」
そう言って下そうとする気は無いらしい。冷静に考えれば身体強化して無理矢理に降りる事は可能だったのに、慌てていてオロオロしているうちに鍛錬場の端にあるベンチの休憩場所に来て下ろしてくれた。こっこれは恥ずかしい……恥ずかしいがこれはお礼を言っておくべきなのだろう。
「うぅぅ……。ありがとうございます」
多分顔は真っ赤になっているだろう。お姫様抱っこなんて今世では初めての経験だ。成人していて、しかも人前でなんて恥ずかしすぎる。そう思いつつ見上げると、私みたいに顔を赤くしたメイソンさんがいて戸惑った。
「っ……。そんな照れた顔を見せるのは反則だ……」




