サーラ様の悩み
妊娠や不妊に関するデリケートな事が書かれています。
性的な直接的描写はないですが、医学的に妊娠に関する内容が含まれていますので、気になる方は自衛して下さい。次話に飛んで大丈夫です。
今回の話を読まなくても、物語については大丈夫な様にしますので、苦手な方は無理せず、今話は読みとばして次話から読んでくださいませ。今後ともよろしくお願いします。
次話の更新は明日になります。
「お久しぶりですね。サーラ様」
「本当に信じられないわ。あなたがここにいるなんて……」
面会室にいる私を見て驚きを隠せないサーラ様がいた。
「しがない無名の治癒魔法師と言いましたよ。ここに入る様な……ね?」
私は自嘲気味に話した。
「…………ここでも名前は名乗ってくれないの?」
今回の面会でも匿名を条件にさせてもらっている。時間と面会室番号のみでの面会だ。サーラ様はそれに不服らしい。
「申し訳ありませんが、名乗るつもりはありません。もう治療は終わりましたので、私など忘れていただいて良かったのですよ」
「あの時は本当にありがとう。おかげで私の夢だったビンセント王子と結婚できたわ。こちらが契約を破ったのに最後まで治療してくれたでしょ?」
「魔力玉は元々サーラ様の物ですから……ただお返ししただけですよ」
「そうかもしれないけど……それでもありがとう。それに今回の面会も受け付けてくれてありがとう。本来ならここに来て欲しくはなかったのでしょう? 半端者とは知られたくなかったのよね?」
最初はサーラ様の治療は終わっていたので会う必要はないと思っていたが、アンとオリバーを経由してどうしても会いたいとサーラ様の要望があり、とても切羽詰まっているみたいだったので会う事にしたのだ。勿論匿名で、フードも被っている。サーラ様に半端者と知られるのはあまり気持ちのいい事ではないので知られたくなかったと言えばそうなのだが、今はそれよりもどうして面会に訪れたかだ。私は質問に答えず、質問し返した。
「今日は、どう言ったご用でしょうか?」
「……貴方にお願いする筋ではないと思っているのだけれど、もう貴方しか頼る人がいないの。どうか私を助けて!!」
サーラ様は、目に涙を浮かべながら話してくれた。
半年ほど前にサーラ様はビンセント王子と結婚したらしい。ビンセント王子が成人した時に、王が代替わりした為、今は王太子だ。サーラ様は王太子妃として公務に勤しんでいた。王位魔法使いとして王太子妃に求められる事の一つ、それはお世継ぎだ。まだ半年、そこまで焦らなくていいと思うが周囲はそうではないらしい。
毎月、月のものが来るたびに皆の落胆ぶりが酷いのだとか。
サーラ様はここ数年会ってはいなかった。ここ数年で大人びてほっそりしたが、どう見ても明らかにやつれていて、追い込まれている。これは精神的な問題な気がする……。妊娠はデリケートなものだ。精神的に追い込まれると、妊娠しづらくなるのは明らかなのに周りは何をしているのか。それにサーラ様の年齢を考えると後一二年後でも良い気がする。最低でも不妊を疑うのは一年以上たってからだ。サーラ様の周りの人達に怒りが湧いた。
「サーラ様、とりあえず落ち着きましょう。私が鑑定してみても良いですか?」
「勿論よ。お願いするわ」
鑑定の結果をブレンと一緒に考察した。最近はブレンを呼ぶ事がなかったので不貞腐れていたが、渋々一緒に考えてくれた。やはり精神的なストレスが一番の原因だと思われた。まずは十分な睡眠と周りの言葉を気にしすぎない事やストレスも妊娠する事に良くない事を説明した。サーラ様の年齢を考えるともう少し先でもいい事も伝える。けれどサーラ様はやはり早めの妊娠をご希望らしい。
体質改善のため、公務で椅子に座っている時間が長く血流が悪くなっているので、軽い運動してもらう事にした。ストレスで食欲も落ちているみたいなので、食べ物は野菜やお肉、お魚をバランスよく摂って健康的な体重を目指していただく様に言う。
あとは、出来る範囲でいいので、タイミング法を伝授した。タイミング法とは、妊娠しやすい時期を伝えてその日にいたす事だ。
ただこれは男性側にプレッシャーを与える事もあるので注意が必要だ。それとなく出来たらの範囲で難しく考えない様に言ってみた。
とにかく精神的に追い込まれるとダメなことを説明して、周りの事は気にしない様に念を押した。
「ここに来て良かった。ストレスはダメなのね。寝不足も注意するわ。周りを気にしない……なかなか難しい事ね。けれど落ち込んでいるのもよくない事はわかったわ。私は目標があれば頑張れる!! ありがとう。とりあえずやれることをやってみるわ!」
サーラ様は目標ができて、少し元気が出たみたいだ。サーラ様はあの痛みに耐えれた方だ。きっと大丈夫。私は祈りを込めて治癒魔法をサーラ様に使った。
「ふふふ。貴方の魔法は本当に癒されるわ。元気が出てきた。ありがとう」
「また落ち込みそうになったらいつでも来て下さい。サーラ様。フィリアに面会したいと」
「……フィリアと言うのね。教えてくれてありがとう」
サーラ様はとても嬉しそうに笑った。
お節介かもしれないが、ビンセント王子宛に、サーラ様の周囲への配慮をお願いする手紙を書いた。ちょっと顔見知りの私の手紙でどうにかなるとも思えないが、サーラ様の為に何かしたかった。
前世、私も数年間、子供が出来なくて辛かったのだ。同時期に結婚した人達は直ぐに妊娠している人達が多かったから、特に辛かった。
子供はもう少し後にするの?とよく言われて、欲しいけどできないと何度寂しく言ったことか……。普通の家族ですらそうなのだ。王太子妃ともなると周囲の期待はもっとだろう。
前世の私の比ではないはずだ。私はサーラ様の為に少しでも何かしてあげたかった。
医療に関して、現実世界とは異なる部分があります。あくまで架空の物語です。




