鍛錬
私は次の日から鍛錬に参加する事になった。
神殿の鍛錬場は前世の運動場をドームで囲った様な簡素な作りだった。見た目は簡素でも、鑑定してみると魔力暴走が起こった場合には、制御できる様に様々な魔法陣が組み込まれている。少しだけ体力や治癒などの向上効果もあるみたいだ。やはりここは恵まれた場所だ。
エイムの鍛錬を見て思った事……。グレゴリーさんの指導はおかしかった事が分かる。グレゴリーさんの指導はやはりスパルタだった。オリバーの人が嫌がる様な、いやらしい訓練もない。あれは半端者の指導ではなかった事がわかる。私ってもしかして結構強いのではないか? と思う。目立たない様に調整しなければ……。
エイムの鍛錬は時々、元半端者の神官が来てくれて指導してはくれるが、基本は自主練だ。
指導者がいない事は仕方がない事ではあるが、基礎訓練が多く型通りなのである。そんな酷い怪我をする様な事は無さそうなので、私は必要なさそうだと思ったのだが、一応、救護員としてケイティから紹介された。
エイムの人達も、毎日参加する人もいれば、そうじゃない人もいて大体参加人数は10人前後くらいらしい。今日も10人ほど参加らしく紹介されると同時に皆の視線がこちらへ向く。注目されるのは苦手だ。前世の入社の新人の挨拶も1番緊張した記憶がある。
「フィリアです。少し治癒魔法が使えます。応急処置位しか出来ないと思いますが、お役に立てればと思います」
目をキョロキョロさせながらなんとか挨拶をした。
「はいはい!
フィリアは少し人見知りな所があるから、おいおい慣れていってね! さぁこれで、思い切り訓練出来るわね!! 頑張るわよ!!」
熱意を燃やすケイティに私は釘を刺しておく。私は万能の治癒魔法師ではないのだ。
「ケイティさん、私は高度な治癒魔法は使えませんので、あまり酷い傷は治せませんよ」
「う〜ん? 大丈夫でしょ? まぁその時はその時ね!」
ケイティさんは楽観的すぎてちょっと不安です。私が不安そうにしていると
「まぁ、そんな酷い怪我はしないさ。せいぜい擦り傷とか捻挫とかだから、治せなくても大丈夫だから。そんな不安そうにしなくても大丈夫だよ」
優しく声をかけてくれたのはエイムのリーダー的な存在であるメイソンだ。茶髪の髪に茶色い目の顔だけ見ると優しそうな感じなのだが、ガタイがとても良く、私の頭二つ分位大きい。全体で見ると圧迫感がある。私は女性の平均身長よりほんの少し小さいだけなので、メイソンさんが大きいのだろう。見上げるとメイソンさんはにこりと笑った。
私はメイソンさんの言葉に一安心する。変な期待は困る。私は平穏に目立たなくいたいのだ。因みに居住区に入る前に、私は目と髪をお出かけ用の色に変装している。本来の髪色と目は目立つからだ。ここにいる10人も濃淡はあれど、茶系が多い。私もそれに合わせて変装しているのだ。
「はい。それくらいなら大丈夫です。私も隅で良いので練習しても良いですか?」
「おっ? フィリアもレベル上げか?」
「えぇっと……私の場合は体がなまらない様にする為ですね。次の面会した時に色々言われそうですから」
「そんなおっかない面会者がいるのか?
ここは断ってもいいんだぞ? 面会をするもしないも、こっちに優先権があるからな!
ここは、許可なんて必要ないから自由に過ごしていて構わない。まぁ、周りに当たらない様にだけ気をつけてくれ。お互い半端者だからな。時々偶発的な事故があるから気をつけてくれ!」
メイソンさんは大きいので萎縮しない様にとても気さくに話しかけてくれている。人見知りの私でも話しやすくてありがたい。
面会は会う会わないはこちら(半端者)側に優先があり、こちらが拒否すれば会わなくてもいいのだけれど、グレゴリーさんにはお世話になったのにそうもいかない。けれど会ったら会ったで、私が練習をサボっているのは一目でわかるだろう。グレゴリーさんの訓練は、最後の1ヶ月鬼のようだったなぁと思いつつ、最終日には「定期的に面会に行くからそのつもりで!」と言われていたことを思い出す。……うぇ。
なので私も自主練に参加したかったのだ。せめて現状維持はしていた方がいいだろう。久々の剣だし、まずは勘を取り戻す為に1人で素振りから始めようと思う。私は、他の人達から離れて隅っこによりマジックバックからレイピアを出した。以前は空間魔法内に入れていたが、空間魔法も半端者では珍しい。なので目立ちたくない私はマジックバックの一つを腰に下げている。頻繁に使う物はここにしまう事にしたのだ。
ふぅ……。久々の剣の感触に、緊張感が出てくる。私は精神統一した後、基本の素振りと剣舞を始めた。




