境界線
パメラ神官の後に続く。いつもとは違う道をクネクネ曲がって行くと、扉がいくつかある広間に出た。ここだけ天井も高く、見上げると神様と精霊達の絵画が描かれていた。わ〜と感嘆の声が出そうになるのを何とか堪え、パメラ神官についていく。
パメラ神官はいくつかあるうちの一つの扉の横にある石板の前でこちらを振り返った。
「この石板に触れて魔力を登録してください。魔力を登録しなければこの中に入る事は出来ません。魔力を登録出来るのは半端者のみとなってますので、ここから先は一部例外を除いて半端者の方達ばかりである事にご注意ください。フィリアは半端者に対してあまり悲観的ではない様ですが、多くの者は劣等感や悲観的に思っている事を忘れずに接してください。まぁそういう子は自分の専用部屋から出るとは殆どないので会う事はまれでしょうが……」
私は石板に触れて魔力を流した。魔力を流すと石板が淡く光出す。流しながら気になった事は聞く。
「一部例外とはどういう方がいるのですか?」
「例えでいうならば私がそうですね。私は元半端者です。以前はこの扉の向こうで生活をしていました。半端者の時に登録を一度していれば、以後は魔力レベルは関係ありません。削除出来るのは本人のみになっています。神官の中にはこう言った立場の者がいるので、新たな半端者がくればそのうちの誰かが、慣れるまでの指導員になります。
この為に私は登録は消してはいません」
「そうなのですね。早く慣れたいと思っておりますが、ご指導よろしくお願いしますね!」
話をしているうちに登録が終わった様で、石板から光が消えた。
パメラ神官が扉に触れるとそこはふにゃりと歪む。どうやら登録さえ済ませれば、扉に鍵とかはなくそのまま通れるみたいだ。私も扉に触れようとするとふにゃりと歪み、そのまますっとすり抜けた。
「ここからが半端者専用居住区になります。ここから外に出る際は、許可を予め取らなければ、警報が鳴る対象になりますのでご注意ください。今はオリエンテーションです。戻ってみましょう」
「えっ? 戻ると言う事は警報が鳴ると言う事ですか?」
もう私は登録を済ませてあり、私は半端者なのだから警報が鳴るのでは?
「大丈夫です。中央神殿の全職員と半端者の皆さんには事前に告知しておりますので、問題ありません。
半端者の方は最初は興味がなくても長年住んでいると一度はやってみたくなるものです。なので、そうならない様に初めに経験していただくことになっておりますので、これもオリエンテーションの一環だと思って規則を破りましょう」
パメラ神官はとても良い笑顔でにこりと笑っている。
これはするまで、次に進まないのだろうと思い、先ほど通ってきた扉に戻る。私が先ほどの広間に出た瞬間、大音量の警報が鳴り響いた。あまりの大音量に私の体はびくりとして、思わず縮こまる。
すると何処からともなく、沢山の神官服を着た方々が、広間に現れた。みんながニコニコしており、これがオリエンテーションだと言うのが通知されているのがわかる。私は大音量の警報に居た堪れなくなり、パメラ神官に、居住区に戻って良いか聞いてみた。
「パメラ神官、この音量は体に悪いので私は戻ってもいいですか?」
心臓にまで響いてくる音量に私は辛い。自分が原因でなっていると思えば尚更、早く戻りたい。
「あら? そうですか? 残念です。追いかけっこしてもいいのに。この警告音が、居住区に戻るまでなり続けるのと、警告音が鳴ると、勤務中の神官がここに集まってきますので、ご注意下さいね」
パメラ神官は、見た目と違い、こう言った規則を破ったりする事は好きみたいだ。もしかして半端者の昔は結構やんちゃしていたのかもしれない。
私は急いで居住区に戻った。そうすると警告音は止んだ。私は胸を撫で下ろす。あんな心臓に悪い警告音はもう鳴らす事はないだろう。絶対にしない。
私がそう心に誓っていると、
「ここに住んでいると、時々自分の存在意義がわからなくなる時があるのです。そんな時は、ああやって警報を鳴らしてくれても良いのですよ?みんな構ってくれますから」
パメラ神官は昔、神官を困らせた常習犯だったみたいだ。
「私はそんな事しませんよ」
「最初はそうでしょう。けれど何年もいると変わるかもしれません。人の心は変わるモノですよ?」
そんな事をしつつ、本日のオリエンテーションは終わった。私は人に迷惑をかけるのは苦手なので、あの規則を破るのは精神的に相当疲れた。私は、案内された個室に入り身支度を済ませる。その日はベッドに入ると、すぐさま眠りについた。
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