不穏な動き
サーラ様の治療は思ってた以上にハイペースで進んでいる。歩けるのにも数週間はかかるだろうと思われていたが、1週間ほどで歩ける様になり、体力作りにも積極的に行い、かなりのハイペースで魔力解凍は行われている。
最初は寝たきりだったが、今は散歩もできる様になり、剣術も取り組んでいるらしい。
何かに駆り立てられる様な鬼気迫っているので少し休養してはと申し出るが、もっとハイペースでも良いと逆にお願いされてしまった。
これ以上のペースは体のために良くないと言えば渋々引き下がるが、余り納得されていない。
サーラ様は努力家だ。まだ、私と王族の皆様の関係を疑ってはいるが、今は大人な対応で治癒魔法師として私を尊重してくれている。サーラ様は、自分の気持ちに真っ直ぐでそれに向かってブレずに進んでいるのは見ていて微笑ましいし、私からすると、眩しく感じる。羨ましいという気持ちもあるかもしれない。
…………
今日もオリバーの転移魔法で、フォードルン侯爵家前についた。
オリバーも、気がついたのだろう。何も言わずに転移魔法を発動した。転移しては移動して、また転移してを何ヶ所か繰り返して経由し、ファドマ侯爵家に戻ってきた。魔法転移を短い時間に頻繁にしてもらった事がなかったので、久々に酔った。私は耐えられずに疼くまる。魔力酔いに治癒魔法は逆効果になる事があるので推奨されない。良くなるまで待つしかないのだ。
「フィリア様申し訳ありません。追っ手の可能性もあったので、何ヶ所か経由させてもらいました。大丈夫ですか?」
私は喋ると余計に気持ち悪くなりそうで、頷くだけにした。私はオリバーに抱えられて自室に戻り、ベッドに入った。魔力酔いは休むのが最善の治療だ。
マーサも慌てて私の部屋まで来てくれた。
「フィリア様どうなさったのですか?
何かあったのですか?」
あまりに早く帰ってきた事と私の体調不良にマーサが心配して声をかけてくれるが、今は喋れない。喋ると吐きさうだ。
オリバーが代わりに話してくれた。
「どうやら今日はフォードルン侯爵家当主が在宅だった様ですね。
偶々イレギュラーな事があったのか……それとも、待ち伏せをしていたのかは分かりませんが、高位魔法使いの反応も多数ありました。
フィリア様の安全を考えすぐに引き返す事にしました。
追跡されない様に何ヶ所か経由したので大丈夫だとは思いますが、これ以上フォードルン侯爵家にいくのは難しいのかもしれませんね」
「アンに一度連絡を取ってもらいましょう」
最初のうちこそアンに連絡を取ってもらい訪問していたが、治療ペースが掴めてくると訪問時に、次はいつとお互いの予定を合わせていた。早すぎる予定はどこかで、バレる可能性を、考慮していなかった。最初は敵陣なので緊張感を持っていたのに、弛んでしまっていた次からはもっと引き締めなければ。
エイベル様から丁寧な謝罪の手紙が届いた。本当に当日のイレギュラーだったみたいだ。エイベル様からは通信魔道具にて密な連絡をと言われたが、出来ないと言っておいた。
通信魔道具って魔力をものすごく使うのだ。半端者とってはだけど。あれは高位魔法使い向けの製品なので、半端者には扱えない。それに通話中は、相手の位置を特定される場合もある。どちらにしても使用は難しい。
私の魔法は特異魔法な為、高位魔法使いと思われているのかもしれないがお門違いだ。私には、通信魔道具は扱えない。
オリバーは、通信魔道具は常に縛られている感じがして嫌いらしい。なので使用してない。主従契約を結んでいる人の言葉じゃないが……。
前世でも携帯電話は仕事以外では持ち歩かないという人もいたから、そういう人もいるのだろう。
もう一つ通信できる魔鳥は、ものすごく目立つのと、魔力の認識をされやすい。
せっかくフォードルン侯爵家では認識阻害の魔道具で容姿や魔力を、隠しているのにそれでは意味がなくなる。やはりアンを通しての、連絡しかないのだ。
もう少し、フォードルン侯爵家に行く頻度を下げれないか、治療方針を変えないといけなくなった。
私が対策を考えている一週間程の間に、アンを通して、エイベル様から何度も早く来てほしいと督促があった。多分督促しているのはサーラ様だろうが……。
なんというか、エイベル様はサーラ様に弱いと言うか甘やかしてる節がある。血の繋がった姉であるアンに対しては余所余所しいのに、凄い違いだ。これがレベル至上主義なのか……。なんとも嫌な気分になる。
私が半端者だと知れば一体どうなるのやら?
それとこれとは別として、サーラ様の治療はしたいが、なるべく訪問せずに済む様に対策するのは必要な事なので、あれこれ考えていたのだ。
それともし、今回の事は、ワザと会わせようと考えていたのであれば、反省を促す必要もあった。次はない事をしらしめる為にも日数をあけるのは必要な事だ。
私はオリバーと対策を考えつつ、治療方針を練った。




